医学界新聞

ハーバード大Thomas S. Inui氏に聞く

テュートリアルには教師の訓練が必要


 東大―ハーバード大交換プログラムの東京パートのため,昨年6月末に学生とともに来日したThomas S. Inui氏(ハーバード大外来診療・予防医学教授)に,今回のプログラムの評価や,日本の教育者へのアドバイスなどをうかがった。


 この交換プログラムの目的は,ハーバード大ではどういう教育が行なわれているかを日本の方に知ってもらうことと,日本とアメリカの文化の違いを互いに知ることです。今回出会った日本の学生については,みな能力とエネルギーを持っていると感じました。2つの大学が一緒に学ぶことで相乗効果が生まれ非常に強力なチームができ,すばらしい共同作業ができるように思います。
 いま私が危機的だと思うのは,医師が医学というレンズを通してしか患者を見ていないということです。もっと全人的に患者を見る必要があります。私は,せまい関係の中で医師が患者を見ることをやめさせるためにはあらゆる努力をするつもりです。ハーバード大においてもそれを心掛けていて,学生に余裕を持たせて,単に専門の勉強をさせるだけでなく,実際の医療現場に送るようにしています。具体的には,学校の保健教育の場,老人医療の場,ホームレスの人の援助などです。
 ハーバード大のニューパスウェイ--特にテュートリアルに関心を持ち,導入しようと考えている医学教育者へのアドバイスは,まず教育者がトレーニングを受ける必要があるということです。多くの教師は自分が講義をすることは上手で慣れていますが,小グループ学習で学生自身が学ぼうとするとき,それを下からサポートすることには経験があまりないので,そういう訓練が必要なのです。
 教師のトレーニングはアメリカでも最も難しいことの1つです。教師たちは自分が話したくてしょうがなくなって,ついつい言葉が出てしまいます。しかしテュートリアルではそれを抑えて,学生が自分たちで学ぶのを見守り,何か質問が出たときにそれに十分答えられるだけの知識を持つ必要があるのです。そういう態度がとれるのはベテランの教師に多く,そうでない人は訓練を受けて初めてできるようになります。これらのことを知ってほしいと思います。