医学界新聞

日本国際保健医療学生フォーラム  ―  第1回全国会

【記念講演】「国際医療協力―その実践と今後の焦点」


 小川寿美子氏(琉球大学)は「国際保健協力―その実践と今後の焦点」と題する記念講演を行なった。国際協力事業団(JICA)のプライマリ・ヘルスケア(PHC)長期派遣専門家として,ラオス国公衆衛生プロジェクトに参加した同氏は,ラオスのカムワン県の地域保健医療システムの基盤作りを手掛けた活動を紹介。また国際保健医療のこれまでの流れ,現状,そして今後の課題などを,途中息抜きのゲームなどをはさみながら語った。

国際保健医療の歴史

 小川氏はまず,国際保健医療がその思想や実践面においてどのような変遷をたどったかについて解説。1940年代から続いた援助国・被援助国の二極構造のもと,援助国が,被援助国に一過的一方的に援助を与えるという体制は,80年代のユニセフによる「バマコ・イニシアチブ」によって崩れ,被援助側も主体的に参加し応分の費用を負担することで,持続回転可能なシステムの共同構築を行なう方向へと動きはじめたとした。また,90年代に入ると継続につながるプロジェクトの遂行のために,医療従事者にも技術を支えるマネージメント能力も必要とされるようになり,世界銀行などでも「政策・計画重視主義」を打ち出していると述べた。

ラオスにおけるPHCプロジェクト

 続いて,小川氏が1992年から3年半もの間取り組んできた,ラオスでのPHCプロジェクトについて紹介。ラオスのカムワン県を対象に行なわれたこのプロジェクトは,「点の援助ではなく面の援助」を目的とし,まず現地を細かくリサーチし,住民が何を望んでいるかを把握することから始められた。その結果,ラオス厚生省が最重要課題としているマラリアや下痢対策への住民の関心は意外に低く,むしろ安全な水や必須医薬品の確保を先に望んでいることがわかった。そこで住民の関心度の低い問題をあえて後回しにして,住民が関心を持って主体的に取り組むことのできる問題を最優先とし,信頼関係を築くことから始めることにした。
 住民が望むことと,援助側にできることを慎重にすり合わせた結果,まずはDRF(Drug Revolving Fund:必須医薬品回転資金)から取り組むこととなった。DRFでは国営医薬品工場から末端村落までの流通経路の確保,各村で医薬品の管理・販売,衛生指導などを行なうビレッジヘルスワーカーの訓練育成,そして各村でのプリペイドチケット購入同意をもって,必須医薬品とその原資の回転を確立することに成功した。
 小川氏は「この成功は援助側と住民の信頼関係の構築につながり,お互いの顔の見える関係,心の通い合いから,住民の主体的な参加を引き出し,PHCの他の分野への有機的拡大を可能にした」と語った。

今後の焦点

 援助側・被援助側がお互いの資源を一点に集約するという,従来の短期集中型の援助は,特定の疾病の撲滅などには多大な成果を上げることができたが,「今後は被援助側の主体性を大切にして,プロジェクト終了後も被援助側だけでマネージメントしていけるような援助が必要になってくる」と述べ,国際保健医療の今後の方向性を示した。
 また小川氏は,国際保健医療協力は医療問題+社会問題に対する協力であるとし,「協力のために日本は人材の養成機関や受け入れ先などを今後一層充実させていく必要がある」と提言。
 さらに学生たちに「学生時代の途上国体験は貴重であり,その時の驚きや発見をいつまでも大切にして,将来国際医療協力に理解のある医療従事者になって欲しい」とのメッセージを送った。