医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

本格的な臨床薬理学のハンドブック

臨床薬理学 日本臨床薬理学会 編集

《書 評》高久史麿(自治医大学長)

 今回,日本臨床薬理学会の編集による『臨床薬理学』が刊行されることになった。本書は臨床薬理学会が初めて学会編集として出版した本格的な臨床薬理学のハンドブックである。
 周知のように,ソリブジンと5FUとの併用による死亡事件に引き続いて,いわゆる薬害エイズ事件が大きな社会問題となり,医薬品の適正な使用法の徹底と医薬品に関する情報の伝達機構の整備の重要性が強く叫ばれるようになっている。このような世論に対応すべく,厚生省では医薬品安全性確保対策検討委員会(森亘委員長)を設置し,2年以上にわたってこの問題についての検討を行なってきた。この委員会の最終報告書は近いうちに公開されることになっているが,その中で強調されていることの1つに,医学の卒前・卒後教育における臨床薬理学教育の重要性があげられる。また最近,医薬品開発の国際化に対応した新しいGCPの基準が作られようとしている。このような最近の動向を考えると,今回日本臨床薬理学会がその総力を結集して編集した『臨床薬理学』が医学書院から出版されたことは,誠に時宜を得た企画であったといえよう。

臨床薬理学の問題点を網羅

 本書の内容は臨床薬理学の概念と定義,臨床薬理学の歴史,臨床試験の倫理,薬物作用のメカニズム,医薬品の開発,臨床薬学動態,薬理作用,薬物動態の個体差,薬物相互作用,薬物有害反応などの基礎的な問題から妊産婦,新生児,小児,高齢者,腎障害患者,肝障害患者,心不全患者などへの薬物投与計画,患者の服薬コンプライアンス,治療的薬物モニタリング等の各種状態における薬物投与時注意に加えて,降圧薬,抗不整脈薬,糖尿病治療薬,向精神薬,抗炎症薬などの主要疾患治療薬の臨床薬理,さらに新薬の開発,薬物の乱用・誤用,治験と医事紛争,薬事行政,臨床薬理と健康保険等の問題が各々の専門家によって詳しく解説されている。このように,本書では臨床薬理学に関するあらゆる問題がとり上げられており,正しく「臨床薬理学のすべて」といってもよい内容のものになっている。
 臨床薬理学は若い学問分野である。そのためもあって臨床薬理学の講座を持っている医学部・医科大学の数は限られており,卒前・卒後の臨床薬理学の教育が多くの医学部・医科大学で十分に行なわれていないのが現状ではないかと思う。しかし臨床医学教育における臨床薬理学,薬学教育における医療薬学の教育の重要性が,わが国において今後ますます強調されるようになることは疑いのない事実である。私はこの本の発行がわが国における臨床薬理学の発展の大きなきっかけとなることを強く期待している。
(B5・頁524 税込定価 9,476円 医学書院刊)


患者から学ぶMRI画像診断テキスト

MRI診断演習 荒木力 著

《書 評》宮坂和男(北大教授・放射線科学)

 画像診断に関するテキストの目次立ては,疾患ごとである場合が圧倒的に多い。しかし,日常診断では,最初から診断はわからない。様々な所見から,可能性ある疾患をいくつか想定し,所見にそぐわない疾患をふるい落とし(鑑別診断し),最も可能性の高い診断へと絞り込む。
 荒木力先生による『MRI診断演習』には,3つの特徴がある。第1は,疾患ごとではなく症状や特徴的画像所見からスタートするQ&A形式である。可能性ある疾患,病態を読者個々に考えさせる。謎解きするような楽しさがある。第2は,画像所見から病態・撮像原理にいたるまでの記述が階層化されている。Q&Aの後で,なぜこのような画像所見が起こるのだろうか? と問う。病態は? 撮像法は? と続き,疾患の病態機序が説明される。次いでMRIの原理的な説明がある。本書の中では「note」である。さらに詳しく調べたければ厳選された引用文献がある。階層化されているので,興味があれば次々と進むことができる。時間にゆとりのない人は,途中で止めればよい。第3に,MRI原理が付録(appendix)として巻末に掲載されている。MRIの原理は複雑である。加えてほとんどのテキストは,原理が第1章を占める。段階的に覚える(教育する)という伝統的教育法の流れである。そして,最初の数ページを読んで混乱の深淵にはまるかもしれない。本書は症例でMRIを実感した後の原理なので,問題点が比較的明確にされており,臨床に直結している。症例だけでなく,もっと原理を知りたいと思う人の欲求不満も解消してくれる。

厳選された48症例

 著者は,過去CT,MRIに関する多くの書を出版してきた。原理,疾患をよく知っておられるせいと思うが,いずれもわかりやすい。本書には48症例が呈示されている。全身の臓器を包含した書で,48症例は少ないような印象を受けるかもしれない。当然全身疾患を網羅したものではない。しかし,鑑別疾患で言及されている症例を考慮すれば,重要な疾患はほとんど学ぶことができる。また,基本的疾患はもとより,比較的遭遇する機会は少ないものの,発生解剖,生理・代謝を知るうえで,重要な症例がおさえられている。450頁弱のペーパーブックなので,通読しても肩が凝らず,持ち運びにもよい。
 序文の中で,著者は,「臨床医学(あるいは画像診断学)は,患者(症例)から学ぶものであって,理論や理屈,統計が先行するものではない」,「診断は所見から病名に達する過程であり,病名がまずあってこれを解説するのは診断学ではない」,と述べておられる。そのphilosophyぴったりに作られたテキストであると思う。
(B5・頁 448 税込定価 11,330円 医学書院刊)


不妊治療を受ける側と担う側が同じ視点で

不妊治療ガイダンス  荒木重雄 著

《書 評》石村由利子(川崎製鉄千葉病院)

 本書は,生殖医療の分野の第一人者である荒木重雄先生によって,不妊治療に関わる医療関係者と,挙児を望みながらも叶わずにいる多くのカップルのために書かれたものである。まえがきにあるように,「医療を受ける側とそれを担う側が同じ視点で医療を見据え」,さらにそのために「正確な情報を提供する必要がある」という著者の考えが,本書の基本姿勢になっているように思われる。

患者が治療を選択するための 情報を提供

 この本は,まず妊娠の成立に必要な条件をチャートで示した後,不妊とはどういう状態か,なぜ不妊症になるのか,不妊の原因を見つける方法,そして治療法へと話は進む。一般不妊治療を続けた場合,2年以内に43%が妊娠に至ると著者はデータを示しているが,現在では,ここまでの治療で妊娠の望めなかったカップルに対して,さらに高度生殖医療技術を用いた治療が行なわれている。高度生殖医療による不妊治療とはどのようなものか,その実際,治療の進め方についてもていねいに説明されている。治療を受けた場合の成績や問題点を知ることによって,今,不妊治療がどこまで期待に応えられているのかが理解でき,患者は治療を選択することができるはずである。
 この本の記述は,いずれの章も質問に答えるという形式で進められ,読者の知りたいところを選んで読み進めることができる。詳細でありながらも,なお平易であるように努力された著者の意図がとてもありがたい。
 また本書の特長は,カラフルな図表を多く用いて,視覚的に読者の理解を助けてくれている点にある。豊富なデータが随所に示され,欄外には関連する事柄についてコメントが添えられたり,根拠となる文献が紹介されるなど,理解しやすいよう工夫がされている。

望ましい不妊治療のあり方

 医療の高度化が進むなか,ことに進歩の目覚ましい生殖医療の分野で,看護婦にも幅広い知識が要求されている。日々の診療の中で,看護婦の担うべき役割はさらに拡大する様相が見られているが,適切な看護が提供できるよう不妊治療の実際を正しく理解することも必要である。体外受精-胚移植,顕微授精といった技術が進歩し,当院でも私たちはこれらの治療の介助を日常業務の一環として行なっている。この段階に至るまでに長い期間を費やしている患者の心理に配慮し,正しい知識が得られるよう支援することが必要であろう。そのためにも本書は,知識を整理し,理解を深めてくれる貴重な1冊である。
 最終章では,著者は不妊で悩んでいる人へのアドバイスを載せている。また,代理母や商業主義の排除,生命倫理の点からも新たな問題を提起している減胎手術について触れ,望ましい不妊治療のあり方について私見が述べられている。多胎妊娠を例に引きながらも,母児の幸せが生殖医療の原点であるという著者の姿勢が感じられる。
(B5・頁 120 税込定価 4,944円 医学書院刊)


医療者への「インフォームド・コンセント」

医療・看護の変革とインフォームド・コンセント  川渕孝一 著

《書 評》井部俊子(聖路加国際病院副院長・看護部長)

 「週休2日制がめずらしくない今日このごろ,生を受けてから死ぬまで不眠不休で働き続けるものがあります。それは心臓です」で始まる(不安定)狭心症のインフォームド・コンセントの具体例の中には,次のような箇所がある。
 「医師や看護婦は,薬剤が服用されて痛みが治まったかどうかを患者に尋ねるでしょう。率直に感じていることを医師や看護婦に伝えて下さい。薬剤が投与されても痛みが治まらなければなんとか痛みを抑えようとするでしょう。こうした処置はすばやく行なわれなければなりません。そのため,時には医師や看護婦はどのような処置をしているか逐一説明することはできないかもしれません。しかし,一定の処置を施した後は,患者の質問に答える時間はあるでしょう」などという説明は,これまで,医師や看護婦が作る「説明書」には表現されなかったものである。

日本の医療界の方向性を提示

 本書は2部構成になっている。第1部は,わが国の医療界がこれからどういう方向に進んでいこうとしているのかについて,12のポイントを解説している。それらは(1)進む日本版ヘルスケアリフォーム,(2)高齢化社会と社会保障費の効率化の両立,(3)規制緩和vs規制強化,(4)医療ビジネスによる病院経営の効率化と質の向上,(5)公的介護保険の創設,(6)病院初診料の自由化,(7)期待される第三者評価機関,(8)入院患者数の減少,(9)医師・看護婦過剰時代,(10)病院数・病床数の減少,(11)病院経営の悪化,(12)医療・看護の質を高め,経営改善にも役立つインフォームド・コンセント,である。
 つまり12のポイントはすべてインフォームド・コンセントを実践することの重要性に帰着する。特にポイント(12)は,現在の病院経営に対する1つの処方箋であろう。
 「まず,医業収益のアップ対策として,空床管理を徹底して入院患者数を増大させるべきです。日本の病院は,診療科別にセクト主義が強く,空床があっても入院できないケースがままあります。こうした問題を打開するには,副院長,医事課長,外来婦長が中心になって,全病床の空床管理を行なうとともに,病棟との連絡を密にする必要があります」,そして,「また入院・外来サービスの他に,在宅部門を充実させることも重要です。できることなら,訪問看護ステーションを独立させ,“外回りのナース”を走らせ,“救急時はいつでもどうぞ”をキャッチフレーズに地域医療に貢献することをお勧めします」。
 それには,「病院全体で,外来,入院,在宅部門にわたって,一貫したインフォームド・コンセントシステムができているからどうかにかかっているのです。さらに,インフォームド・コンセントを充実させることは,患者の満足度を高める有効な手だてとなるでしょう」と述べている。この他,診療単価の増大,費用削減対策なども“処方”されている。

病院全体で一貫したシステムを

 これまで総じて,医師や看護婦は経営意識が乏しいとされたのは,病院の経営状況が当該スタッフにわかりやすく説明されてこなかったためであるという指摘は正しい。病院全体で黒字,赤字という報告だけではコスト管理を行なうことができない。一体どれだけの材料と労働時間が投下されているのかがわかって初めて単位当たりのコストを算出することが,医療・看護の標準化を進めるうえで有用な道具となることは理解できるが,そのためには病院として多大な労力が必要なことも事実である。
 第2部は本書の3分の2のボリュームを占めているインフォームド・コンセントの具体例である。代表的な病名など8つの具体例が紹介されており,冒頭に書いたように,医療者の発想の転換に大いに役立つであろう。
 本書は,時代がインフォームド・コンセントを必要としていることの医療者へのインフォームド・コンセントである。さらに,保健・医療・福祉において,インフォームド・コンセントを核とした新しいビジネスが成立するような予感を感じさせる。当院でも医療サービスの「有限会社」論を提唱している人もいる。
 本書は読後感がさわやかである。おそらく現状批判や過去への反省といったものがないからであろう。これからの方向が希望に満ちているととらえるのは錯覚だろうか。
(A5・頁 160 税込定価 1,854 円 医学書院刊)


災害時に適切な医療対応をするために

災害医療ガイドブック  坪井栄孝,大塚敏文 監修

《書 評》小濱啓次(川崎医大教授・救急医学)

 平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は,医療のなかには災害医療というものがあり,日頃から災害医療について十分知っていなければ,災害が発生した時に十分な医療対応ができないことを多くの医療関係者に知らしめた。それ以来,多くの学会や研究会,また関連領域において災害医療が語られ検討された。しかしその多くは阪神・淡路大震災を中心としたものであり,災害医療そのものを論じた会は少なかった。出版物においても同様の傾向がみられ,震災後多くの出版物が発行されたが,その多くが阪神・淡路大震災に関するものであった。

国際医療活動も視野に入れた記述

 今回医学書院から出版された『災害医療ガイドブック』は,その序にも述べられているように,ある特定の災害だけを取り上げたものではなくて,各種の災害における災害医療,また国際医療活動をも視野に入れた災害医療をまとめた本である。
 災害が発生した場合,われわれはその災害が大きければ大きいほど広い視野を持って対応しなければならない。この時,多くの災害について,また関連する諸機関,諸団体について十分な知識を持っていれば,それだけ災害時の医療対応が適切に行なえる。
 本書はこの目的に適う書物であり,次の大きな災害が起こる前に,また災害医療についての知識を得るために是非一読しておくべき書物である。医師のみでなく,多くの医療関係者が本書を一度手にされることが望まれる。
(B5・頁 216 税込定価 7,004 円 医学書院刊)