医学界新聞

1・9・9・7
新春随想

年頭所感

坪井栄孝(日本医師会会長)


 平成9年の初春を迎えるに当たりまして,心からお慶びを申し上げます。
 昨年は,小選挙区比例代表並立制という新しい選挙制度施行後初めての衆議院議員選挙が行なわれた年でありました。しかし,投票率は60%を割る戦後最低の数字を記録し,民意は政治から遠く離れている感は否めません。
 第2次橋本内閣は,財政再建,行政改革を旗印として,その遂行に全力を傾ける方針を打ち出していますが,これも戦後50年にわたり稼働してきたわが国の社会・経済システムが時代の趨勢に対応しきれなくなってきた証明といえます。 
 また,国民の健康という観点では,病原性大腸菌O-157による集団食中毒の全国的な規模での発生によって,わが国の衛生に関する安全性にも強い打撃を与えるとともに,国民に大きな不安の影を落としました。
 しかし,全国の医師会および医師会員は,積極的に治療と2次感染の予防に努め,その活動によって被害を最小限にくいとめることができました。
 このような医療現場における真摯な対応が,医師と患者との厚い信頼関係を築き上げるものと確信しております。 
 今年は,公的介護保険制度の創設をはじめ,医療保険制度改革,第3次医療法改正等,医療制度に関する重要案件の具体化が迫られております。
 すなわち,具体的な議論の中で,医療提供体制,医療保険制度等,本格的な高齢社会を迎えるわが国の21世紀の医療の姿がはっきりとした輪郭をもって現れてくることになります。
 真に豊かな高齢社会を迎えるためには,医療制度に係る多くの課題をよりわかりやすく国民に提示して国民的な議論にまで高め,合意を得たうえで政策として実行するという真摯な姿勢が必要であります。 
 日本医師会は,来るべき21世紀の医療制度が国民にとって安心できる,また安定したものとなるよう国民サイドに立って政策の構築を行ない,国民の希求を十分に国の政策に反映させていく所存であります。
 そのためには,すべての日本医師会員が一丸となってこの難局に立ち向かわなければならず,皆様の絶大なるご協力を心からお願いして年頭のご挨拶といたします。