医学界新聞

感染症データファイル

日本の現状


食中毒

 口から感染する「食中毒」は戦後まったく減少することなく,むしろ調理食品の販路が広がるとともに規模が大きくなる傾向にあった。つまり,何か病原体がこのルートに入れば事件になる素地があるとの警告は長い間なされてきた。このような中で発生したのが腸管出血性大腸菌O157である。大阪府堺市では最も多い6000人以上の患者発生となったが,同市の次に多かった岡山県とともに以前から食中毒の多かった場所であり(1992年食中毒統計による),起こるべくして起こったと考えられなくもない。

都道府県別食中毒罹患率およびO157による食中毒等の発生状況
(地図内の数値はすべて発生人数。引き出し線で示した数値はその都市内の発生数であり,県内の発生数には含まれない)
(食中毒罹患率:食中毒統計,O157:病原微生物検出情報No.198,厚生省)

輸入感染症

 日本ではもうなくなったと思われていた病気の流行がある。その1つに輸入感染症がある。コレラや細菌性赤痢はその例である。1995年にはバリ島への旅行者に大量にコレラが発症した。また,1989年の名古屋での例のような原因不明のコレラの国内感染例が出始めている。細菌性赤痢についても,60-75%が海外での感染である。日本人が海外に行くのみならず,外国人が日本に入国する数も多い。その大部分がアジア開発途上国からである。その数は,1987年から1990年の3年間で180万人から300万人まで増加している。そして,感染症も一緒になって「輸入」されてくる可能性がある。日本では,ジフテリア患者の発生とその死亡例,ポリオ野性株の分離など,ここ10年来見られなかった感染症が報告されている。

結核-難しくなった(?)臨床診断

 結核の診断技術は確実に低下し,従来の抗結核薬の効かない菌が増加している。

地球温暖化の影響?

 地球温暖化は生物の分布を変え,それらが運ぶ感染症も分布を変えつつある。また,人口増加に伴う土地の開発も感染症の流行に関わっている。例えば,ダムができると蚊が増え,蚊が運ぶウイルス,デング熱などは大きな問題である。日本でも一時期消滅したと思われていたつつがむし病が1980年から急に増えた。ゴルフ場などの開発が原因であるとか,野外生活に親しむようになったためなど言われているが,本当の原因は明らかではない。