医学界新聞

第43回日本臨床病理学会総会開催

「分子と情報のネットワークの広がり」をテーマに


 第43回日本臨床病理学会が,菅野剛史会長(浜松医大)のもと,「分子と情報のネットワークの広がり」をテーマに,さる11月14-16日,浜松市のアクトシティ浜松で開催された。学会では,会長講演「手作りからシステム化まで」,C.C.Heuck氏による「臨床検査の標準化に関するWHOの戦略」,Yang Zhen-Hua氏による「中国の検査医学の現状と将来」,さらにテーマに沿った井村裕夫氏(京大学長)による「神経・内分泌・免疫系の相関」の3題の招待講演を企画。また,「臨床検査医学領域における分子生物学的アプローチ」,「血栓止血異常への分子生物学的アプローチ」,「形態異常と機能分子」,「サイトカイン・接着分子のネットワーク」,「生理学検査の情報処理と診療支援」など7題のシンポジウムの他,教育講演2題,一般口演471題が発表された。


臨床検査における分子生物学的アプローチ

遺伝子DNA診断用ソフトとPCRによる定量法

 シンポジウム「臨床検査医学領域における分子生物学的アプローチ:すぐ役立つstate of artの技術」(司会=京大 上田國寛氏,慈恵医大 須藤加代子氏)では,まず清水信義氏(慶大)が,ヒトゲノム解析研究の進展に伴って集積された膨大な遺伝子情報を臨床診断に役立てる目的で開発されたソフト「GeneViewplus」と「Mutation View」を紹介。前者は遺伝子のマップに関する情報の国際的データベースであるゲノムデータベース(GDB)に対応するインターフェースソフトで,後者は遺伝子疾患の遺伝学的,分子生物学的,医学的な知見を体系的に集積したソフト。
 清水氏は「GeneViewplusはGDBのユーザーインターフェースとしてさらに改良していく予定であり,MutationViewは疾患のDNA診断のための実用ソフトとして普及させていきたい」と述べ,同ソフトの臨床の現場における普及に意欲を示した。
 続いて石黒敬彦氏(東ソー),磯野一宏氏(Perkin-Elmer Japan Applied Biosystems)が,それぞれ異なる検出原理のPCRによる定量法に関して発表。石黒氏は,インターカレーター性蛍光色素存在下でPCRを行ない,PCRサイクルの経過を追って蛍光強度をモニターし,試料中の標的核酸の初期濃度を求めるインターカレーション・モニタリングPCR(IM-PCR)法を紹介。この方法はインターカレーター性の蛍光色素が持つ二本鎖DNAに結合して蛍光を発する性質と,PCRでの核酸増幅は初期コピー数に応じた一定のサイクルで行なわれるという性質を利用したもので,この核酸増幅のサイクルの経過を追って蛍光強度の変化をモニターし,蛍光強度が特定の値に達するサイクル数(遷移サイクル数)を求め,標準物質での測定値を基準として標的核酸の初期量を算出するもの。
 石黒氏はこの方法を使えば広いダイナミックレンジでの血清中HCV RNA量の測定が可能となるとし,「IM-PCR法によるインターフェロン療法過程での血清中HCV RNA量のモニターが,C型慢性肝炎に対するインターフェロンの投与計画の立案ならびに治療効果の予測に有効であることが示唆された」と述べた。
 一方,磯野氏は,PCRで増幅されたDNA鎖を蛍光色素を用いてリアルタイムに定量検出するABI PRISM 7700Sequence Detection Systemを紹介。この方法を使えば各PCRステップにおける増幅の様子をそのままモニタリングできるため,コンタミネーションの危険性や,内部コントロールのデザインの難しさなど,これまでの定量的PCR増幅の障害とされていたものを取り除くことができるとした。

点突然変異の検出法

 さらに後藤雅式氏(ファルマシアバイオテク)が最新の点突然変異検出法についての発表を行なった。表面プラズモン共鳴(SPR)を応用したアフィニティーセンサー(BIAcore)を使用したこの方法は,診断の対象となる遺伝子の種類に応じて検出の指標を選択できるというもの。
 後藤氏によると,N-ras遺伝子のように疾患に関する変異の位置が限られているものに対してはハイブリダイゼーションの速度論的パラメーターやプローブの結合量を指標に,またp53遺伝子などのようにさまざまな位置の変異が疾患を引き起こすものはミスマッチ認識タンパク質(MutS)の結合量を指標とする検出が効果的であったとし,「前者は変異の場所が特定できている既知の変異の検出に有効であり,後者は未知の変異の検出への応用が期待できる」と語った。