医学界新聞

第1回日本老年看護学会が開催される

老年看護における人権の意味を考える



 第1回日本老年看護学会学術集会が,中島紀恵子会長(北海道医療大)のもと,さる11月23-24日の両日,千葉市の千葉大学けやき会館で開催された。学術集会では35題の演題発表をはじめ,中島氏が会長講演「老年看護における人権の位置づけ」を行なったほか,シンポジウム「人権をめぐる老年看護の課題」(座長=聖路加看護大 太田喜久子氏,北海道医療大 北川公子氏)や,フォーラム「公的保障と老年看護学の課題-介護保険を中心に」(司会=東大 金川克子氏)が行なわれた。

インフォームドコンセントとアドボカシー

 中島会長は,(1)保健医療における人権―ヨーロッパにおける患者の権利促進に関する宣言より,(2)老年看護学と人権の位置づけ,(3)Ageism(年齢差別)の構造,(4)老年看護実践における人権獲得への戦略の4つのテーマを基調に講演。「医療の現場においては,効率や機能性を重視するあまりに患者の人権を無視してしまいがちである。特に老年看護の場においては患者に対するレッテル貼りや,ステレオタイプ化によって,老年者差別を始めとする人権侵害が起こりやすい」と指摘し,それをよく踏まえた上でケアを行なうことが必要と述べた。
 また,インフォームド・コンセントについては,「自律的選択の権利,自律的行動を遂行することが尊重される権利。すなわち自分の体の不可侵性に対する医療・看護における自己決定権が主題であり,こうした権利を守るために行動すること(アドボカシー)こそ看護職の役目である」と強調。さらにアドボカシーに立脚した新しい看護教育の方法論の追究や,老年看護学におけるエンパワーメントの強化などが,今後の同学会の課題であると提言した。

老年看護と人権

 シンポジウムでは,高齢者の人権をめぐる課題について,4人のシンポジストがそれぞれの立場から意見を述べた。最初に,田中とも江氏(上川病院)は病院における抑制の実態について報告。抑制が絶えない背景には,治療―回復のモデルだけで医療が展開されてきたことが大きく影響していると指摘。「高齢者医療の現場においては療養モデル的なケアを中心に据えるべき。看護職は24時間患者のかたわらにある職種として,積極的に医師に助言し,介護職を指導する責任がある」と強く訴えた。
 また,高崎絹子氏(東医歯大)は,家庭内における老人虐待について,埼玉,福岡,山形の3つの県における実態調査の結果を報告。老人虐待の原因として,サービスの量的な不足や,緊急保護の施設が皆無であることなどをあげ,看護職は専門的な対応技術を習得し,総合的なケア体制の構築を進めることが重要であると述べた。
 さらに,永田久美子氏(都老研)は,痴呆症のある高齢者の自己決定について,「知的スケールと自己決定の力は必ずしも相関しない」と主張。高齢者の日常の暮らしにおける自己決定を尊重することによって自己決定の力を養い,患者の自己決定を支えていくことが重要と強調した。
 最後に高村浩氏(東京弁護士会)が,法律相談を担当する東京知的障害者・痴呆性高齢者権利擁護センターに寄せられた相談の中に看護職からのものが皆無であることを報告。このために施設や病院内で何が問題となっているかがわかりにくくなっているとし,看護職に対し,もっと口を開き,患者の人権を守るために社会的場面での行動を起こすことを求めた。