医学界新聞

第44回日本ウイルス学会開催

ウイルス学の生命科学の中での位置づけと社会的な使命


 第44回日本ウイルス学会が,さる10月23-25日,静岡市民文化会館において,石浜明会長(国立遺伝研)のもと開催された。
 学会では,「ウイルス学の生命科学のなかでの位置づけと社会的な使命」に焦点を絞り,科学者,ウイルス学者の他に,高校の生物学の教師や科学ジャーナリストを加え,パネルディスカッション「ウイルス学の将来」(司会=野本明男 東大医科研教授,西山幸廣 名大教授)が行なわれた。本号ではこのパネルを中心に紹介する。

ウイルス学が科学にいかに影響を与えたか

 最初に,花房秀三郎氏(ロックフェラー大)が,ウイルス学が科学の発展にどう貢献したか,また日米の研究における組織的な構造の違いについて研究費のあり方などを中心に報告。また,バクテリオファージの存在やDNAクローニングが現在隆盛を極める分子生物学の基礎を作り,さらに,レトロウイルスの研究が,癌は細胞,遺伝子の変異による疾患であるとの概念を産み出したことなどから,ウイルス学が,生命科学の発展に果たす役割は余りにも大きいと語った。
 続いて,静岡県内の高校で生物を教えている後藤純一氏(静岡県立富士宮北高校)が登壇。現在,高校の生物の教科書にウイルスの記述がどの程度なされているかを紹介し,学生の「理科嫌い」が叫ばれているが,その原因に教科書の記述がつまらないことがあげられると指摘。さらに,県内の高校生および教員を対象としたウイルスへの関心度を調査したアンケート結果を報告。高校時代に生物学に興味をもたせることの重要性を述べるとともに,ウイルス学の積極的な授業への導入が,将来の日本の生物学・ウイルス学研究の発展につながることを示唆した。

ウイルス研究とメディアの関係

 一方,読売新聞科学部の前野一雄氏は,記者の目からみた日本の感染症に関する問題点を様々な事象をあげて解説。ウイルス学研究とメディアがどう関わりあってきたかについても触れ,過去に起こったMMRワクチン騒動や,スモン病の「ウイルス感染説」報道などを反省材料に,マスコミと医師の両者がプロフェッショナルとしてこれからどう関わっていくかの課題を提示した。
 その後,吉倉廣氏(東大)が特別発言。英雑誌「エコノミスト」誌上での米経済学者とメディアとの討論を取り上げ,お互いのコミュニケーションの悪さが,様々な問題を産み出す原因であるとの記事を紹介し,科学とマスコミの関係もそれと同様であると述べた。また,「サイエンス」誌上で,ある疫学者が,不必要にいき過ぎた報道により「不安の流行が起こる」と指摘したことを例に取り上げ,今後は,マスコミ側の質を高め,疫学,ウイルス学など研究全体をカバーした報道が強く望まれると語った。
 また,中村雅美氏(日経サイエンス編集長)が過去10年にウイルスが新聞でどのように扱われきたかを検討。その結果から,ここ最近の記事の大半はエイズに関するものだが,ほとんどが事件としてとらえた記述であり,研究としてのウイルスは2割程度だったと報告。中村氏は,マスコミには科学者の知識を翻訳し,一般の人にわかりやすく伝える「サイエンスインタープリンター」の役割があると述べた。
 この他,大谷明氏(国立予研名誉所員)は,「社会の中のウイルス学」と題して,1953年の本学会設立以来のウイルス学研究の流れを中心に概説した。
 この後,総合討論の時間が設けられ,特に教育とマスコミとの関係について活発な意見が飛び交った。
 教育に関しては,分野は異なるが,文部省が後援し工学会が窓口になり,高校の理科教員を対象に研修会を開く「サイエンスボランティア」があり,日本ウイルス学会でも同様の活動をして,高校時代に細菌学,病源体についての常識を知ってもらう必要があるのではないかとの意見があった。
 また,フロアからは学会のホームページを開設し,アクセスさえすれば誰でもウイルスに関する情報を手にでき,ディスカッションに参加できるものをつくってはどうかという意見も出された。