医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


「カウンセリングの知恵」をぎっしり詰めこむ

ナースのためのカウンセリングスキル
V.Tschudin著/長田久雄 監訳/河合美子 訳

《書 評》深澤道子(早稲田大教授・心理学)

 本書は約200ページほどの中に「カウンセリングの知恵」がぎっしりと詰め込まれた本で,著者が自分の蓄積した知識を読者に伝えたいという熱意に圧倒される。
 本文は大別にして3部に分かれ,第1章から第6章まではカウンセリング全般について,第7章から第11章まではカウンセリングスキルについて書かれており,第12章から第15章までは特殊な問題や状況,および倫理の問題と,ナースが看護以外の役割の中で行なうカウンセリングに言及している。
 監訳者が序の中で記しているように「まず全体にざっと目を通して,ご自分が興味を感じた章から読み始めても,きっとすぐに役立つことが発見できるはずである」という読み方が正しいであろう。さもないと,情報量に惑わされ,1つひとつの文章が伝えようとしている「意味の重さ」が読み落とされてしまうかもしれない。

自分自身の成長のためにも

 例えば最初の章は「愛はまず身近なところから」(訳者は「慈善はわが家から始まる」としている)と名づけられているが,それは献身的な世話と介護,そのためには時には自己犠牲を期待され,責任が重く,高度な専門技術を要求されていながらも,その割には「専門職」としての評価がないがしろにされることが多いナースにとって,きわめて重要な概念である。
 この章では自己理解が取り上げられているが,それは自分の足りないところや欠点を知ることではなく,むしろ強いところ,好ましいところ,特徴として「自慢できる」ところを含めて自分を知ることとして扱われ,それは別な見方をすれば,「自分を好きになる」ことでもある。こうした人間観を基底にして書かれたこの本は,「カウンセリングスキル」を身につけるためだけでなく,自分自身の成長のためにも活用できる好著である。

カウンセリングの「スキル」とは

 著者の優れているところは(そしてこの本の特徴は),いろいろな理論を紹介する際に,彼女自身がコミュニケーションスキルを駆使しているところだろう。例えば使っている言葉を明確に定義し,自分の主張の背後に理論をきちんと引用する。一例をあげれば,「スキル」について「ナースが注射をするスキルを習得しなくてはならないように,カウンセリングのスキルも習得しなくてはならないものである。厳密に言えば,一方は運動スキルで,もう一方はコミュニケーションスキルであるが,どちらもスキルであることには違いない。オックスフォード英語辞典によれば,『スキル』とは,『何かを行う際の熟練した能力,器用さ,才能』のことである」がそれで,「理論だけではなく実践」を説く彼女の姿勢が反映されている。また,言語的なコミュニケーションの重要さを説きながら,同時に非言語的なコミュニケーションを重視するなど,カウンセリング場面で必要とされるさまざまな要素の指摘や,矛盾した情報の統合の仕方など,多くの示唆に富んでいる。
 スキルの習得に欠かせないのは体験学習であり,著者はいくつかの「演習」を取り入れている。またスーパーヴィジョンの必要性についても言及している。
 この本は1人で読んでも多くの知識を吸収できるが,学習会などのテキストとして意見を交換しながら読めばより効果が上がると思われる。訳文も平易で読みやすい。
(A5・頁248 税込定価2,575円 医学書院刊)


ヘンダーソンの理念に基づく独自の看護論

アダム看護論 E.Adam 著/阿保順子 訳

《書 評》奥井幸子(岡山県立大教授・看護学)

 本書は,ヴァージニア・ヘンダーソンの14の基本的ニードを基盤として書かれている。ヘンダーソンは,ニードを欠乏という消極的な意味でなく,要求・必要性と肯定的にとらえ,「人間は健康,不健康を問わず共通した基本的な14のニードからなる複雑な全体的存在である」としている。著者アダムはその理念に基づいて,独自の看護論を展開している。

患者のニードと看護独自の機能

 保健医療チームの中で,看護独自の貢献,役割,目標を明らかにすることによってこそ,看護婦は他の医療従事者と共同して貢献できると述べられているが,アダムのいう「看護独自の機能」とは,体力・意志・知識が不足していて自立できない患者が自分の基本的ニードを満たせるよう援助することによって,患者の自立性・全体性を維持,回復させる働きである。つまり,看護婦は,自立する上で欠如している患者の体力・意志・知識を補う役割がある。ここにも,ヘンダーソンの考えが反映されている。
 印象的なのは,アダムが患者のニードを詳細に説明している点である。例えば,「正常に呼吸する」,「学習する」というように,患者のニードを観察可能な能動態の動詞で表したほうが,患者自身の活動に焦点をあてていることになると述べたり,ニードと習慣の違いや,ニードと手段の区別なども明示している。くわしくは本書をぜひ読んでいただきたい。

十分納得できる明確な記述

 私は看護理論に対して,“目からウロコが落ちる”,“これなら私にもできる”と思わせてくれる,あるいは“勇気がわいてくる”ようなものであってほしいと願ってきた。その点,本書は何が看護であり,何がそうでないかに関する1つの見解が平易かつ明確に述べられており,十分納得できた。
 また,「専門職の目標とは,その仕事に携わる人が努力を向ける目的である。(中略)……専門職に携わる人は,必ずしも理想に到達できるわけではないが,理想に向かって努力する」という一節を目にした時,これなら私にもできると実感した。
 さらに,ケアを進めるプロセスの中の情報収集において,「時間が十分にないと看護婦は言い続けてきたが,看護行為の前に看護歴をとる時間がないのなら,何に時間をとられているのか,自分の時間を看護に使わずに何に使っているのか」と筆鋒鋭く指摘し,看護婦が看護のwhat,why,そしてhowの神髄をつかんでいないからであり,またhowが一人歩きしている結果であると,現状を批判している。

理論と実践が一体化した看護理論を

 今まで,外国から看護理論が輸入され,翻訳され,全国に広がっていったが,その理論と実践がなかなか一体化しにくかった。これからは,理論家や研究家が実践家と一体となり,理論と実践の相互作用を経て統合化されたものとして,看護理論を確立していく必要がある。
 遠からず日本に看護理論が続々と生まれることを期待しているが,それには,看護婦が主体性,強固な意志,独自の価値観をもつことが必須条件である。看護系大学の新設が続き,理論と実践のより強い結びつきが望まれるこの時期に,タイミングよくヘンダーソンの理論をどのように展開して,実践していけばよいのかを学習することができたのは,貴重な体験であった。その体験を多くの人と共有したいと思う。
(A5・頁188 税込定価2,369円 医学書院刊)


豊富な事例で尿失禁への理解が深まる実用的な書

尿失禁とウロダイナミックス 手術と理学療法 近藤厚生 著

《書 評》西村かおる(日本コンチネンス協会長)

 本書のタイトルを見て,その内容についてすぐピンと来る看護職は,はっきりいって少ないと思う。尿失禁はともかくとして,ウロダイナミックスとは何か,またなぜ尿失禁に手術や理学療法という言葉がつくのか,一般の看護職が説明できるほど,この分野はまだまだ知られていないと日頃実感しているからである。

患者の生活にも触れた幅広い内容

 尿失禁そのものは日常ケアではよく見かける症状,あるいは状態の1つである。おむつやバルーンカテーテルに出会ったことがない看護職は1人もいないはずだ。にもかかわらず,「仕方のないこと」としてその状況をあきらめてしまうか,本人が受け入れているのだからと問題にしようとすらしないか,いずれにしても深くは追求されていないように思う。しかし,実際は尿失禁は治療も予防もできる症状なのである。
 タイトルのウロダイナミックスとは日本語では尿流動態検査と呼ばれる膀胱や尿道の働きを知る検査方法のことである。これによって,なぜ排尿障害が起こっているのか診断でき,治療に役立つだけではなく,どうして漏れるのかもわかるので,日常生活のケアにも非常に重要な情報が得られる。尿失禁は原因によっては手術も可能であるし,筋力トレーニングや電気刺激など理学療法によって改善することも多い。そのような治療方針を決めていくのにウロダイナミックスは非常に重要な検査なのである。しかし,本書のタイトルを見て,専門医のためだけの本と思われるとしたら残念だ。
 確かにまったく尿失禁のことを理解していない人にとっては難しいだろう。けれどもそのような方にはなおさら,この本をじっくり見ていただきたい。尿失禁のある患者の生活にも触れた幅広い内容が盛り込まれている点,また記述されている内容の深さという点でも,日頃おむつで対応することの多い漏れから,これだけ専門性を深めることが可能なことに驚きを感じるのではないだろうか。

随所にあるワンポイントアドバイス

 泌尿器を専門とする看護婦には多少難しくてもぜひ読んでいただきたい。内容的にも「失禁とは何か」という定義から入り,専門用語の解説,豊富な写真や図,さらに随所に見られるワンポイントアドバイスによって,非常にわかりやすい記述であることがわかってもらえることと思う。また本書の半分量を占める事例によって,さらに理解を深めることができる。しかも「手術の失敗と合併症」というように現実で問題になる事例が多く出ており,理解を深めるのに役立つ。
 巻末には関係する学会,研究会,学術雑誌や問診表,痴呆診断のスケールなど,すぐに役立つ情報が載っていることからも,現場で使ってもらうことを目的とした本であることがわかる。
 本書は泌尿器科医師として25年間尿失禁を追求してこられた近藤先生のお仕事の集大成ともいえる本である。個人的には,近藤先生の率直なお人柄を,その実用的な構成や内容,そしてはっきりと断言する書き方に感じる。また尿失禁という,地味だが生活する上ではこの上なく困難な症状に,患者さんを中心として真摯に取り組んでこられた先生の姿勢を感じるとともに,このような方の働きによって支えられている分野だとしみじみ感じ入る一冊である。
(B5・頁170 税込定価5,871円 医学書院刊)