医学界新聞

モニターだより

Famiry Practiceとは

匿名 N大学5年


 皆さんはなぜ医学部に入り,勉強しているのでしょうか。「大学」で他の学部の勉強をするよりも,医学部で医学一般の知識を勉強するほうがおもしろそうだし,役に立つのではないかという考えで入った方も中にはいるのではないでしょうか。これは,私自身の多くの理由の中の1つでもあります。
 しかし実際,学生生活も残り1年余りになる自分自身と,授業等を通じて垣間見る今の医学の状況から判断すると,当初の目標を果たせるかどうか,プライマリ・ケアに進むことができるかどうか,とても不安な状態です。このような考えほうに沿ったものとして最近では国の方でも,現状に不安を持ったためでしょうか,総合的医療知識を基本にしたプライマリ・ケアや総合医育成に力を入れているようです。
 そこで興味を持ったのが,「Family Practice/Family Physician」つまり,日本語でいう「家庭医学・家庭医」です。日本では,川崎医科大学の総合臨床医学教室や自治医科大学の地域医療学教室などが,そういった活動をしています。
 ただ,とても残念なことは,海外旅行の保険の冊子にも「家庭医」という単語が印刷されているのにもかかわらず,日本ではFamily Practiceという概念はあまり受け入れられていないということです。アジア諸国,欧米等の多くの国には,すでにFamily Practiceというものが存在し,図書館にあった20年以上前の本にも,Family Practiceのある多くの国の名が書かれていました。
 そして,私が夏休みに訪問したアメリカなどでは,有効期限のある認定医制度も存在しています。
 アメリカでのはじめの1週間は,ミネソタ州で複数の医師が開業しているBuffalo Family Care Centerで過ごし,次の1週間はミシガン州立大学の医学部3年生の家庭医学の実習に参加させていただきました。どちらもとてもためになり,刺激的でしたので,そういった中のほんの一部ですが紹介したいと思います。
 はじめの1週間は,私自身のFamily Physicianのイメージを具体化するために計画したものです。Buffaloでは,患者はまずFamily Physicianにかかります。本当にさまざまな主訴の患者が来ますが,いろいろな領域のcommon diseaseについて十分にトレーニングを受けていますので,内科,小児科,産婦人科,眼科,皮膚科,泌尿器科などを含めてほとんどの患者を診断し,治療することができます。その他,皮膚縫合等の小外科も行なっています。中には乳癌やヘルニアのような外科手術を必要とする患者の場合もあり,その病院の外科医に紹介しますが,そう多くはありません。紹介した場合でも,その患者の一番の責任者は担当のFamily Physicianであり,老人ホームに患者がいる場合でも,定期的に診察しに行きます。
 患者にとって,自分のことをよく知っている医師が診ることは,とても安心でき,少しの変化でも理解しやすいといいます。また,電話での相談や,1(2)次救急も担当しており,このため,3次救急医療機関の負担を少なくし,アメリカでの救急医療の発展に少しは役に立ったのではないかと思います。
 もう1つの目的であるミシガン州立大学の学生実習では,学生実習計画がしっかりしており,各人の実習内容に差ができないように,実習項目がチェックできる冊子が存在するのに驚きました。そのため,生徒自身にも学習すべき項目が明らかになっており,効果的に時間を過ごしているようでした。また,実習目標が明確になっているためでしょうか,それぞれの学生の実習態度も実に積極的であり,よいことか悪いことかは別にして,臨床での薬品名および量,それからカルテの書き方までも習得しようとしているのです。質問してみると,カルテを書くことも医学部4年から実習の1つになるとのことでした。ですから,卒後間もない医師でも,日常よくみる病気の患者に対し,迷いもなく,自信のある態度で診察することができるようです。
 それから,指導医は学生を1人の医師・参加者として扱うため,学生もそれなりの心構えをしておく必要があるようです。その他に,授業の教材を使用した学生同士の勉強会等にも参加させてもらいましたが,Family Practiceという学問は,こういった医学教育の方法論の研究も扱っており,まだいろいろな可能性を持っていることを感じました。
 以上が,今回のアメリカでの経験から感じたことですが,そのほかに今回の紙面ではとても書ききれないほど,大変ためになり,大いに感動したことがいろいろとありました。私個人の意見ですが,「Family Physician」とは,日本語でいう「家庭医」という単語のイメージとは違い,1次救急をはじめ,common diseaseに対してはより高度な医療技術をもち,とても専門性の強いものです。また,1人の患者,家庭と密接な関係があるため,問診で得られる情報も,過去・現在のものを問わずに多く,こういった医師が多く存在すれば,他科の医師が安心して自分の研究分野に没頭できる状態をつくり出すことができるのではないかと思います。ただ,1人の医療関係者としてCPR(救急患者への処置)はぜひ身に付けておかなければならないものではないでしょうか。
 蛇足ながら,「ドク・ハリウッド」(マイケル・J・フォックス主演)という映画があり,この映画にFamily Physicianの診察の場面が少しありますので,この科のイメージを助けるものとして,参考までに書き加えておきます。堅苦しく取らずに気軽に観て下さい。