第2216号 1996年11月18日
Vol.11 No.9 for Students & Residents
医学生・研修医版[9]1996. NOV.
座談会
第90回医師国家試験を考える
〈司会〉 橋本信也 東京慈恵会医科大学教授 |
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植村研一 浜松医科大学教授 | | 細田瑳一 東京女子医科大学教授 |
今年の医師国家試験を振り返って
全体的な印象は?
橋本(司会) 今年の医師国家試験の合格率は89.3%で,昨年より3.3%アップしました。この10年間の合格率は,第87回の90.0%をピークに毎年下がっていますが,今年はここ10年間で2番目によかったことになります。
そこで今日は,今年の国家試験はどうであったかを具体的に分析していただきたいと思います。まず細田先生から全体的な印象をお話しいただけますか。
細田 全体的には難問・奇問が少なく,倫理的な問題を含めて,プライマリ・ケア的な問題もある程度は出ていましたし,画像問題も割合よかったという印象を持っています。
なかには若干望ましくない問題もありましたが,全体としては比較的素直な問題が多かったのではないかと思います。
橋本 植村先生はいかがですか。
植村 私も細田先生と同様,過去何年かに比べてかなりよくなって,難問・奇問が少なくなってきたと思いました。臨床に役立つ基礎的な事項を理解していればある程度問題が解ける。つまり,単に記憶力に頼る,重箱の底をほじくるような設問が少なくなったと感じました。
以前はかなりあった,明らかに不適切な問題は今回は5題ほどしかありません。試験問題を作るのが上手になったのではないかという印象を持ちました。
出題領域について:内科系
橋本 全体的には大変よくなってきたというご意見ですが,少し具体的にお話を進めたいと思います。
まず出題領域と出題分野別という点ですが,前回の1993年の出題基準の改定の時に各科の枠を取り外し,医学総論・医学各論と大きく2つに分けられ,全人的医療を志向する傾向になりました。
今年の出題領域を見ますと,320題のうち内科系が141題で44%を占めていますが,これは例年と同じ程度だと思います。そのなかで,呼吸器が17題,循環器が16題。消化管14題,肝胆膵16題で,消化器系としては30題です。このバランスは発症頻度から見てもよいのではないでしょうか。そして,血液が17題,腎臓が11題,神経が20題です。内分泌は21題で少し多いような気がします。
また,膠原病は7題で,この程度でよいと思いますが,感染症が2題です。これは感染症が大きな問題になっている現状を考えますと,若干少ないように思いますがいかがでしょうか。
細田 プライマリ・ケアという点からも,感染症の問題はもっと出題数が多くてしかるべきだと思います。
感染症については,以前から抗生物質の選択や副作用という形での出題が多いですね。臨床実地ではある程度出ないわけではないですが,臓器系統の明らかな問題が多く,よくある感染症という意味では少ない傾向にあると思います。
しかし,以前から小児科には結構感染症の問題があるでしょう。外科にも術後の感染症の予測などの問題もあるし,内科に絞ると少なかったですが,感染症自体はかなり出題されていたと思います。
植村 婦人科でも1題ありましたね。そういう点では,感染症だけを拾っていくともう少しあったかもしれません。
出題領域:外科系
橋本 外科系は41題で12.8%です。外科総論の6題はもう少し多くてもよいのではないかと思います。
そして,呼吸器外科が9題,心臓外科が4題,消化管が7題,肝胆膵外科が6題です。また,脳神経外科が4題,内分泌外科が2題,麻酔科が3題です。
細田 分け方にもよると思いますが,呼吸器外科が少し多いような気がします。
橋本 その点については,出題委員の方が大変ご苦労しておられるようで,よい問題と悪い問題を選別しているうちに,こういうバランスの崩れが出てしまう結果になるのでしょうね。
細田 確かにそういうこともあり得ます。それに,外科として分けてみるとそうですが,現在の出題方法では外科系の先生が,内科的な問題を出題しておられることもかなりあります。
外科系の先生としては,もう少し別のバランスを考えて出題しておられるつもりが,内科的な問題あるいは診断的な問題になって,必ずしも外科治療的な問題とはなっていないこともあります。
橋本 やはり,何科が何題ということにあまりこだわらずに,ある程度のバランスは保つことは必要だと思いますね。
細田 国家試験の出題を依頼する時に,ある程度ブループリントは描いていますが,どちらかといえば出題者の割り振りが優先する部分がありますね。
植村 しかし,一応ブループリントはあるのですね。
細田 何系をどれくらい,ということはありますが,最終的にでき上がると,先ほど橋本先生がおっしゃったように,不適切になってしまうこともあります。
しかし,出題委員としてはかなり苦労して,バランスを逸しないように配慮はしておられると思います。
植村 ただ,私の感じですと,内科系が44%というのは少ないように思います。 要するに,単純に「内科」「外科」と分けないで,内科の知識で解ける外科の問題もかなりあるわけでしょう。臨床のエッセンスという形でかなりカバーできます。そう考えますと,内科系が6~7割はないといけないのではないか,という感じを持ちますが。
よく言われることなのですが,アメリカのECFMGは,「ハリソンの内科学」をきちんとマスターしておけば75点は取れるわけです。結局,常識で何とか解けるわけで,耳鼻咽喉科でも感染症でも内科の知識があればかなりカバーできます。そういう意味では,内科の周辺領域も含めて,7割くらいになればよいバランスになるのではないでしょうか。いわゆるジェネラルメディシンが重要になると思います。
出題分野について
橋本 それでは,次に出題分野別とのバランスについてですが,例えば,呼吸器の17題を出題形式でみると,A問題が8題,B問題が1題,C問題はゼロ,D問題が3題,E問題が5題です。このバランスを血液でみますと,同じ17題でもD問題は1題です。神経は20題中9題がA問題です。こういう出題分野別とのバランスも大事ではないでしょうか。
植村 ある分野のみが丸暗記を必要とする結果になってしまうのは,やはりまずいと思いますね。
細田 A問題は医学医療総論でB問題は各論だと思います。ある疾患名が出題される場合は,B問題に分類されます。ところが,プライマリ・ケアの症状を考えさせているのですが,たまたま最後の選択肢として疾患が出てくるような場合も,B問題に分類されることもありますね。
そういう意味では,D問題やE問題がいわゆるサブスペシャリティの部分とそうでない部分とか,同じ臨床実地問題でも出題者がどこにウエイトを置いたかという面で分類されることが多いです。例えば,呼吸器が総論のほうに多く出題されていても,必ずしも出題者の意図ではないのかもしれません。A問題とB問題,そしてC問題とD問題とE問題という比率で分けて考えて,どちらが多く出題されているかという見方は,私は避けたほうがよいように思います。
橋本 こういう問題は,試験終了後に検討されるのでしょうか。
細田 出題を決める各段階で行なわれますが,基本的には出題者の意向です。ただ,臨床実地が一般問題になることはありますが,一般問題が臨床実地にいくことは100%ありません。
橋本 公衆衛生の分野からの出題が36題です。全問題の11.3%で,A問題で30題出題されています。
細田 ほとんどA問題になりやすいですね。公衆衛生,あるいは社会学的な問題も臨床実地問題で出して下さいと言っても難しいですね。
植村 以前に,食中毒が発生した際にどのようなフォローアップをするか,という多少問題解決型の出題がありましたが,その場合にはD問題になるのですね。
細田 そうなります。
植村 ただ,公衆衛生の問題は,数字を問う問題があまりにも多いでしょう。
細田 寄与率が何%かという場合にも,結局A問題,つまり一般問題になる場合があります。
植村 今年の試験問題で気がついたのは,倫理的な問題やインフォームドコンセントが何題か出ていますが,MCQ(多肢選択)形式では少し考えなければなりませんね。
というのも,フリーで聞かれたら答えられないけれども,選択肢を見ればわかってしまう。もっとも,それでも出題すれば,学生は勉強するだろうという意図も十分わかりますが。
細田 そうですね。ある程度は勉強するだろうという意味があるでしょうね。
Taxonomyと出題形式
橋本 それでは,次にTaxonomyと出題形式の問題に移らせて頂きます。
まず出題形式ですけれども,来年の改正を前にしてすでにK′がなくなり,半分がAタイプで,残りの約半分ずつがK2とK3になっています。K′廃止のことは後ほど詳しく伺うことにして,Aタイプが半分というあたりについてのご意見はいかがでしょうか。
細田 最も望ましい出題形式で,という考え方から,できるだけAタイプにしたのだと思いますが,K2やK3ですと,二者択一くらいの問題になってしまうおそれがありますね。
学生の何を評価するのかが問題ですが,true‐falseだけでも構わないという考え方ももちろんあります。しかし,従来から言われていたように,チャーミングな間違いの選択肢を作ってきちんと選ばせましょうという趣旨ですと,Aタイプのほうがよいだろうということで,これからは出題形式を変えようというわけです。
植村 確かに,K2やK3は1つか2つわかれば,あとはあり得ない組み合わせがわかるでしょう。
来年からは,X2とX3になると言われましたので,私たちは今年の3月の卒業試験から,脳外科に限って,X2とX3にしました。両方ともできないと減点にするわけです。それから脳外科の専門医認定試験を,今年からX2とX3にして,K2やK′は一切なくしました。したがって,駆け引きなしに各選択肢がわかっていないと正解できないことになります。
細田 しかし,点数は悪くなりますね。
植村 絶対評価になると合格率が悪くなります。
橋本 問題はTaxonomyだと思うのです。植村先生は日ごろから,この問題ついて強調されていますが,今年はTaxonomy I,つまり想起レベルが多かったと思います。いかがでしょうか。
植村 Taxonomyについては少し説明が必要でしょうが,医学教育学会がアドバイスする直前(1978年)の時点では,I 型つまり丸暗記型が76.5%で,応用問題が23.5%です。つまり,この時は丸暗記で一夜漬けでも詰め込んでしまえば,76点は取れて合格できたわけです(
表)。
その後,医師国家試験委員の方にワークショップをしいただいたり,われわれのアドバイスを受け入れていただいたりしましたが,今年を見ますと,I 型,つまり想起型が60.9%で6:4になってきました。
ただ,年次表のグラフのほうを見ていただくとわかりますが,I 型が減ってきて92年に57.5%まできたのが,今年は逆に戻ってしまいました。
その代わり,Taxonomyの問題で私が主張している,いわゆる常識問題と丸暗記問題で,形式はまったく同じですが,ある程度病態生理とか基本的なことを知っていれば,解けるのがI′(推定型)です。このI′が今年はかなり多くなって,これまでは6~7%だったのが14%になりました。Iが増えたけれども,I′も増えたことは悪いことではないという感じがします。
これは余談になりますが,先日韓国で東部アジア地区の医師国家試験をめぐる医学教育学会が開かれました。その時の韓国の報告を見ますと,分類が一致しているかどうかわかりませんが,やはり彼らも想起型と応用問題解決型に分けており,想起型は4割以下で,残りは応用問題です。
それ以前のことはわかりませんが,韓国では従来,政府主導型の国家試験だったのが,近年財団に分かれて,独自の医師国家試験や専門の事業団がワークショップをきちんとやったらしく,その結果だと思いますが,応用問題解決型が増えて,90%位だった合格率が70%位に落ちたわけです。
そこで,どうしようかもめているのですが,応用問題を出せば,当然平均値は下がります。韓国の場合には60点というラインが法律で決まっているそうで,そこで切れば当然3割は落ちます。われわれは,せっかくよい方向に進んでいるのだから,60点にこだわる必要があるのか,その辺をもう少しダイナミックに考え方を変えることも必要ではないかと言ったのです。
アメリカからはNational Board of Medial Examinersの副会長が来ていましたが,彼らは,将来はOSCE(客観的臨床能力試験)を導入して,コンピュータを使ったシミュレーション,最後は標準模擬患者を取り入れるそうです。そして,筆記試験の比率を減らし,プラクティカルな点にもっていく。そうするとマナーまでテストできると言っていました。
視覚素材について
橋本 先ほど細田先生は写真もきれいであったとおっしゃいましたが,視覚素材について何かご意見はありますか。
植村 1題だけ,心臓と重なったところに肺に病変があるという問題ですが,私が見るかぎり見えないんですね。そして,CTを切ったレベルが間違っているのが出ていて,病変が入っていない。ですから,おそらくあれは悪い問題の1つではないかと思いますが。
橋本 これは写真技術の問題ですか。
細田 オリジナルのフィルムが,微妙な判定を要するものだったのではないでしょうか。
植村 CTもそうですが,フィルムでは見えるけれども,印刷すると見えないというのことがあるのではないでしょうか。
橋本 考えられますね。そういう単純X線写真を試験に出すのは問題ですね。
細田 血管造影などでも,レントゲンで見ている時は見えるけれども,造影剤の部分が何かに重なってきれいに出にくいというのも時々ありますね。
プール問題について
橋本 次にプール問題,つまり既出問題ですが,今年は9題で,例年よりは少なかったように思います。
A問題では7,9,73の3題。B問題は5,7,35,42の4題です。C問題とD問題にはなく,E問題が32,37の2題で,合計すると2.8%です。
植村 センターはどれくらいプール問題を持っているのでしょうか。
細田 不適切な問題以外は,ほとんどプールしているでしょう。ただ,不思議なことに,作りにくいエリアの問題を引っ張ろうと思うと,ほとんどないのです。
ということは,出しやすい問題は従来もよく出ているのです。当然ながら,ブループリントで,こういうエリアが出ていないからそれでは出そうという時になかなか出ないのが難点ですね。
橋本 過去問題はどの程度出そうということは決まっているのですか。
細田 それは決まっています。最初にプール問題を出すことになった時は,決めていました。
ただ,長い間やっていくうちに,いくつかのことがわかってきました。例えば,画像のある過去問はそのまま出せません。そうなると,出せる範囲が限られてきます。一般問題で出す時にも,まったく同じで出すと正解率が10数%上がるのです。それも意味がないので,選択肢を1つ変えると,関連問題にはなるけれども,プール問題そのままにはなっていないということがあるのです。
それから,十数年前の問題は現在の診療にまったく合わない,という現実がかなりあります。公衆衛生領域の問題の死亡率などもそうです。出せない問題が結構あります。
そういった問題点があって,本当に単純な,想起レベルの一般問題は割合よいのかもしれませんが,そのままのものは出しにくい。しかし,ヒントになって出ているのはたくさんあります。
橋本 それから,初めて出題された最近のトピックを拾ってみますと12題ありました。ですから,受験生はそういう事項もよく見ておいたほうがよいのでしょうね。
不適当な問題について
橋本 次に,いつも話題になる不適当問題についてですが,何かお気づきになった点はございますか。
植村 肝臓でしたか,区域をS1か2かという問題がありましたが,そこまで知らなくてはいけないのでしょうか。
細田 専門医には常識だけれども,学生レベルで覚えているかということですね。
植村 肝臓の専門医になるのならよいでしょうが,将来,耳鼻科や眼科に進む人がそこまで知っている必要があるのか。他の分野でもありうることですが。
細田 しかし,専門外の人間が見ると少しどうかなと迷うけれども,一方では専門家から見ると,「これは非常によい問題だ」となる例もありますね。
橋本 医学教育学会では,細田先生が委員長をなさっている医師国家試験検討委員会が毎年事後評価をしていますが,その報告書を読ませていただきまして,もっともだと思うことがいくつかありました。
例えば,Aの10番の「国民医療費のうち65歳以上で入院医療費が最も高額な疾患はどれか」という問題です。その選択肢が,呼吸器系,消化系,新生物,神経系および感覚器,循環系となっています。すべて「系」であるのに,1つだけ「新生物」になっている。そうなると,呼吸器系の新生物も,消化器系の新生物もあるのではないか。それがAタイプで出ているのです。
植村 器官系の分類の中に,こういう分類プラスオンコロジーとして出ているものだから,引っかかるのですね。
細田 出題基準はそうなっておりませんが。
橋本 それから長文問題です。C-15と16は,要するにインフォームドコンセントの問題です。ここで確かにおかしいなと思いますのは,「麻酔法の選択は医師が行なう」という選択肢があり,これはインフォームドコンセントの内容とは関係ないと思いますが。
植村 そうですね。
橋本 医師国家試験検討委員会の先生方のコメントで多かったのはE-22です。問題文が長すぎて,「読むだけで時間がかかる」という意見です。
細田 出題委員会のほうでも,そういうことはいつも気をつけておられるとは思いますが。
来年の医師国家試験に向けて
出題基準の改定:必修問題について
橋本 今回の国試改善検討委員会の報告によりますと,来年は出題基準が改定されます。大体4年に1度改定され,細田先生はその委員長をなさっていたわけですが,改定の骨子をご説明いただけますか。
細田 従来,各専門をできるだけ統合する方向に進んで,医療医学総論と医療各論ということで臓器別になっています。その方向がこれまでの改定で完成しておりましたので,今回は大きな枠組みの改定はありません。
ただ,毎年改善委員会や評価委員会で国家試験に対して言われていることは,プライマリ・ケアの問題や倫理的な問題などをもっと出してはどうかということでした。そして,そういう問題を出しやすくするにはどうしたらよいかと考えて,必修問題を作ることになりました。
そして,先ほどから話題になっているような倫理的な問題で,選択の余地がないという問題であっても,問題として意味があるということで,正解率が非常に高い問題群を作り,それを初めから指定しておいてこれを出しやすくするようにしました。
例えば,バイタルサインの定義は問題にもならないかもしれないけれど,それが正解率98%ということであればよいのではないか。そういう趣旨で,必修項目を国家試験の出題基準の最初に出させていただきました。これが最も大きな相違だと思います。
橋本 すでに公表されている資料ですと,必修問題は30題だそうです。大事なことは,それが必修問題となると絶対基準を設けるわけですね。
細田 そういうことだと思います。ただ,基準を変えることになりますので,必修問題については30題のうち8割以上は正解しないと足切りが起こり得ると思います。全員が95%正解している問題ばかり30題あったのに,その人が80%しか取れなかったということで,これは足切りになっても仕方がないと思います。
しかし,30題のうちに1題でも60%の正解率しかなかった問題があったら,これは必修問題には不適切問題だから,key validationで一般問題にする。そういう意味で,厳密にその30題を決めないといけないということではないと思います。
橋本 key validationをして,絶対基準を設けるということですね。
細田 そういうことだと思います。
植村 内容的には,プライマリ・ケアに関することですか。
細田 そうです。それで,そこに出ている項目以外のことは出してはいけない。ですから「平成9年版医師国家試験出題基準」を見ていただければわかりますが,疾患名はほとんど書いてありません。
禁忌肢の導入
橋本 もう1つ,新しいガイドラインの中には,必修問題とともに禁忌肢の問題が出てきますね。この禁忌肢を選択するようでは,医師にさせられないということですね。
細田 ええ。禁忌肢というのは,明らかに人の生命にかかわり,それを選択すればその患者さんは死ぬ,もしくは1つの臓器が完全に廃絶する,あるいは法律違反で罪に問われる,という選択肢です。
また,誰もが知っていなくてはならず,これを知らなければ,医師免許証が取り上げになる。そういう肢が禁忌肢ということになりいます。
橋本 採点のときの集計は,大変難しくなりますね。
細田 しかし,出題者がこれは禁忌肢ですといって出しているのです。それは最初から決めてあるのです。
どういうことかというと,最後に時間が足りないから,残りは全部「a」にしておこうということができない。禁忌肢というのはそういう意味です。
橋本 そうしますと,あとで禁忌肢だけまとめて採点して合否判定に関与させるわけですね。そうしないと禁忌肢の意味がないわけですから。
細田 そうだと思います。ですから,禁忌肢は問題の数としてはそう出ないのではないかと思います。
植村 コンピュータ上に,禁忌肢を登録していけば,その人が何個禁忌肢を引っかけたかわかるわけでしょう。
細田 それともう1つは,おそらく禁忌肢は必修問題でしか作られないと思います。なぜなら,必修でない問題で,絶対いけないというものは作りにくいでしょう。
橋本 必修問題を裏返せば禁忌肢になってくると思いますね。
植村 これをどのくらい入れるかはわかっているのですか。
細田 改定委員会としては決められていません。それは出題委員会でお決めになると思います。
橋本 合否判定に関しては,まず全体の合格点を取っていなければだめ。しかし,全体の合格点を取っていても,必修問題に合格していなければいけない。そして禁忌肢に引っかかってもだめ。この3つのバリアをクリアしなければいけないわけですね。これは大変大事なことですね。
出題形式の変更
橋本 もう1つ具体的な問題として出題形式の変更があって,K′がなくなってX2,X3になりました。この問題については,学生も部分採点ということを問題にしていますが。
細田 X2もX3もすべての選択肢が正解でないとだめだと思います。部分採点というのはまったくできないのです。要するに,X2で1/2だということになると,1つだけ正解した人に1/2やるのか,1つは間違いだから1/2引かなくてはだめなのか,という問題が出てくるので,全体にしましょうということです。
橋本 選択肢を1本ずつきちんと読みなさい。そしてまとめて正解にしなさいということですね。
細田 そういうことです。
医師国家試験の今後について
“OSCE”について
橋本 次に,医師国家試験の今後の問題についてお伺いしたいと思います。
現在はMCQ形式ですが,医師になるためには技能や態度のテストも必要であるとかねがね言われていました。今回の国家試験改善検討委員会報告書の中にも,今後引き続き検討すべき事項に実技試験が入っています。そこで,さきほど植村先生からもお話がありましたが,細田先生が厚生省の研究班で研究なさった「OSCE」の問題があると思います。この点に関して,今後の問題と絡めてお話しいただけますか。
細田 プライマリ・ケアと同様に,技能の試験と態度の試験を多少とも加えていかなければならないと言われてきました。MCQ形式の国家試験では,技能・態度の部分は評価できないので,主として知識量を評価します。技能・態度については,各大学で十分に評価して,できあがった人を卒業させてください,ということだと思います。
そこで,何かよい方法はないかと厚生省の研究班で班員の先生方と相談しまして,OSCEにトライしてみましょうということになりました。
まず,OSCEと同時に知識テストをして,両者が相関するかどうかを検討することがが1つありました。そして,複数の人間でOSCEの評価をした際に,どれぐらい再現性があるのかを調べました。それから,OSCEを導入した時に,どれくらいのテーマで,どれくらい時間がかかり,どれくらいの人手がかかるのかという物理的な問題がありました。
そうしましたら,まず第1の知識との相関はゼロで,まったくありませんでした。大変に知識を持っている人でも,OSCEの成績が悪い人はたくさんいました。ですから,OSCEを実施する意味があることがわかりました。
もう1つの再現性については,4段階評価か5段階評価にして,1つの基準を決めて評価すれば2段階は変わらない。その程度の再現性はあります。1段階は変わることがある。
それからもう1つ,時間などの物理的な問題については,100人くらいを1日かけてやるためには20人程度の人手が必要であることがわかりました。
植村 人手というのは試験官ですか。
細田 ええ,試験官と事務職員です。
それから,標準模擬患者を使ったほうが効果はありますが,その人たちのハーモナイゼーションその他が大変です。やはり,OSCEを導入するにはかなりの時間的,人的費用が必要なことがわかりました。
もう1つ,副次的にわかったことは,受験者に興味を持たせ,意欲の向上につなげることができるということです。それによって受験者のモチベーションが非常に高まります。これまで3年実施しましたが,毎回そういうことがわかりました。
私の現在の考えでは,国家試験に導入するかどうかは別としても,各大学で形成的評価にお使いになるのは大変いいことでしょう。それだけはぜひお勧めしたいと思います。ある程度,技能・態度評価につながるのではないでしょうか。これをエクスターナルエグザミナーなどで実施し,国家試験に採用して,お互いに相補して行なうのであれば,それは1つの方法ではないかと思います。
植村 それに関して,先ほどの東アジア地区の医学教育学会でいくつかの点が問題になりました。
これは各国のコンセンサス,つまり超専門的な問題をできるだけ排除して,プライマリ・ケアとかジェネラルメディシャンとしての知識・技能を求める方向に動くべきだというのが1つです。これは,われわれがやっているTaxonomyを上げろということと,テーマをプライマリ・ケアにしろということと同じです。
それから皆さんがおっしゃったのは,技術とマナーの問題です。技術に関しては,細田先生がおっしゃったOSCEでかなりいけると思います。ところが,マナーとかカウンセリング能力となると,やはり標準模擬患者を使わざるを得ないのです。
一番進んでいるのはアメリカですが,歴史的にどう変わったかという解説がありました。その背景には,すでにアメリカではほとんどの大学が無条件にOSCEを使っていることと,標準模擬患者を使っていることがあります。各大学が標準模擬患者をたくさん持っています。
そこまで成長してきたから,マルチセンター試験という形で,筆記試験に受かった人に関して,エクスターナルエグザミネーションを医学部で使い,スーパーバイズしながらやるという形が可能で,数年後をめどに実現する方向に進めると言うのです。
橋本 大切なお話だと思います。そういう意味では,日本でも医師国家試験センターのようなものが独立して置かれないといけませんね。
受験生へのアドバイス
橋本 いろいろな角度から医師国家試験の問題を議論していただきました。この新聞が出るころは,受験生も最後の追い込みだろうと思います。そこで最後に,受験生へのアドバイスということで,お1人ずつご意見をいただきたいと思います。
細田 今回,出題形式が変わります。これに関する対応として,受験生の人たちが考えておかなければいけないことは,プライマリ・ケアなど必修問題といわれているカテゴリーについては,力を入れて学習されたほうがいいだろうということがまず1つです。
もう1つは,当てずっぽうをやってはいけないということです。そうするくらいなら,やめておいたほうがよいでしょう。1つ1つの問題について,きちんとした自分の判断をもって解答しないと失敗することになります。それ以外は,これまでとあまり変わらないと思います。
植村 細田先生がおっしゃったように.基本的な勉強が重要だということについては変わらないと思います。
ただ,Taxonomyも含めて国家試験が変わってきています。いい方向に向かって変わってきているけれど,私が心配するのは,各大学の卒業試験問題がパラレルに動いているかどうかです。
悲劇的な結果を生むのは,卒業試験と国家試験のピントが狂った時に,学生がパニックになることです。先生方が国家試験の問題をわかりながら,TaxonomyのII型やIII型をお出しなるかぎり問題はないけれども,いまだに卒業試験でI 型の重箱の底をほじくるような問題を出しておいて,「さあ国家試験を受けろ」では,学生が気の毒になります。
そういう意味で,基本的な勉強もさることながら,やはりここ数年の国家試験の傾向は見ておいて,どういう問題が増えてきているのかという点で惑わないようにしなくてはいけません。それから,来年から変わるX2やX3とはどういうものかをきちんと知っておくことも重要ではないかと思います。
しかし,いたずらにパニックに陥る必要はないのであって,基本的な病態生理,いわゆるジェネラルメディシンがきちんとわかっていれば,あるところまではいけるようになっていると思います。
橋本 それぞれの大学の卒業試験に合格した学生が,全員合格するのが医師国家試験のはずです。
どうか健康に留意して,全員が合格することをお祈りしたいという結論で,この座談会を締めさせていただきます。どうもありがとうございました。