医学界新聞

1996年度ノーベル医学・生理学賞
Doherty,Zinkernagel 両氏に決定

授賞理由は「細胞性免疫防御の特異性」


 1996年度のノーベル医学・生理学賞は,Peter C. Doherty(米国セントジュード小児病院免疫部長),Rolf M. Zinkernagel(チューリッヒ大実験免疫学研究所長)の両氏に贈られることが,10月7日,スウェーデンのカロリンスカ研究所から発表された。授賞理由は,両氏が1973-74年にかけてオーストラリア国立大学で共同研究した「細胞性免疫防御の特異性(The Specificity of Cell Mediated Immune Defence)」。
 免疫応答の有無や強弱に個体差のあることは比較的古くから知られており,現在では種々の自己免疫疾患とHLA(ヒトMHC:主要組織適合複合体)タイプとの間に相関関係がみられることは周知である。また,MHCは同一種内できわめて多型性であり,MHC内には多型を示すクラスI分子とクラスII分子をコードする遺伝子がそれぞれ複数個あり,両分子とも細胞表面に糖タンパク質として存在する。クラスI分子は細胞内でde novoに産生される自己タンパク質や細胞内寄生ウイルス・細菌・原虫などの外来タンパク質の断片(ペプチド)と結合しており,クラスII分子は主として細胞が外界から取り込んだタンパク質由来のペプチドと結合している。
 両氏は,T細胞があるクラスI分子を持つ細胞によって提示される抗原を認識している時に,別の型のクラスI分子を持つ細胞によって提示される同じ抗原に反応できるかどうかを検討。まず,マウスにウイルスを感染させ,ウイルス感染細胞を殺すキラーT細胞を誘導。そして,このT細胞を分離し,同じウイルスを感染させた別のマウスの細胞とそのT細胞を培養した結果,そのキラーT細胞は,標的となるウイルス感染細胞のMHCクラスI分子が,T細胞を得たマウスのものと異なる場合には,何ら反応を示さなかった。
 この事実は,T細胞が反応するためには,2種類の分子を認識する必要があり,その2種類の分子とは,1つは抗原で,もう1つは自分自身が持っているMHC遺伝子産物であることを意味する。この抗原と“自己”のMHC分子がともに認識されないということは「自己MHC拘束性」として知られるようになり,さらに,縦隔洞に存在する巨大で神秘的なリンパ組織である「胸腺」内において,T細胞が発達分化する過程で後天的に学習し獲得する特性であることが明らかにされた。
 両氏の業績は,免疫学に大きな衝撃を与えただけでなく,感染症のほかリウマチや糖尿病,多発性硬化症など慢性的な炎症を伴う多くの疾患の研究にも貢献した。
 Doherty氏は,1940年オーストラリア生まれ。クインズランド大卒。オーストラリア国立大教授などを経て,88年から現職。95年ラスカー賞受賞。
 一方Zinkernagel氏は,1944年スイス生まれ。バーゼル大卒。チューリッヒ大准教授,同教授などを経て,92年から現職。95年ラスカー賞受賞。