医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


「頭を使うこと」がケアの質を高め成長を促す

アルファロ 看護場面のクリティカルシンキング
ロザリンダ・アルファロ―ルフィーヴァ 著/江本愛子 監訳

《書 評》亀岡智美(滋賀医大附属病院)

 アルファロは,『基本から学ぶ看護過程と看護診断』の著者として既に知られている。読者は,同書の看護過程の各ステップの詳説に,看護婦が自分の目で見て考えることが大切であるという著者の一貫した主張を読みとることができる。本書『アルファロ 看護場面のクリティカルシンキング』の焦点は,その「看護婦が自分の目で見て考えること」にある。

クリティカルシンキングとは

 本書は,単なる思考が「基本的にはあらゆる精神活動であって,目的がなくても,またコントロールされていなくてもかまわない。目的にかなっている場合があるかもしれないが,その恩恵に気がつかないことが多い。私たちは何を考えたか全然覚えていないこともある」のに対し,クリティカルシンキングは「コントロールされており,目的があり,明らかに有益な結果を引き出すことが多いものである」としている。そしてクリティカルシンキングを,「日常の決まりきったことをする時のような『あまり頭を使わない』思考ではなく,意図的な,目標指向型の思考である」という一文で書き始め,定義している。
 患者の個別性に応じた適切な看護ケアを提供するために,「頭を使うこと」すなわち,クリティカルシンキングが重要であることは,述べるまでもない。しかし一方で,ルーティンの看護業務を「日常の決まりきったこと」として「あまり頭を使わない」で漫然と行なっていたり,同じ疾患で入院している患者であれば誰の看護計画を見ても一字一句違わず同じになっているというような,クリティカルシンキングが行なわれていないことを示す現実がある。

人間的習慣を意識して変える

 「訳者まえがき」に「『ものを考えるときには,自分の考え方を考えよ』と言われるように,考え方をわきまえて,自分を訓練することが可能であることが本書をみるとよくわかるであろう」と書かれているように,本書はクリティカルシンキングの能力を高めたいと考える読者にそのためのスキルを伝えているだけでなく,著者の包容力のあるメッセージを伝えている。
 例えば,「クリティカルシンキングに影響を与える因子」の項では,「クリティカルシンキングに障害となる習慣」として,「自分の考え方が良いと思う習慣」「1つの選択肢しか選ばない習慣」「面目を保とうとすること」「変化に対して抵抗すること」「順応主義」「型にはまった考え方をすること」「自己欺瞞」の7つをあげている。そして,人間として私たちは皆こういった習慣に悩んでいるだろうが,これらの人間的習慣を意識し,古い反応形式を新しい反応形式に入れ替えていこうと努力することにより,これらの障害を克服することができる,と述べている。
 どの習慣も自分に当てはまるような気がして耳が痛い気持ちになるが,それは,人間誰にも共通するものであり,意識して変えようと努力することからクリティカルシンキングの能力は高まっていくのだと励まされる。
 本書から,クリティカルシンキングを用いること,すなわち頭を使うこと,よく考えることが,患者に提供する看護ケアの質を高めると同時に,看護婦自身の成長を促すということを再認識できる。「業務に流されている」と日常を嘆くのではなく,看護婦としての自分自身の仕事の仕方を振り返りながら本書を読んでみると,もう一歩自分を成長させる方法が見つかるかもしれない。
(B5・頁200 税込定価2,884円 医学書院刊)


病を得てなお自分を高められることへの感動

患者になってみえる看護 難病が教えてくれたこと 長濱晴子 著

《書 評》南 裕子(兵庫県立看護大学長)

 かって私がメニンガー精神病院で研修を受けていたころ,「優れた精神科医を調べてみると,特徴として浮かぶのは,個人的には幸せな人生を送っている人ではなく,むしろかなり困難な状況に遭遇しながら,ある程度その問題を乗り越えている人だ」と聞いたことがあって,それが印象に強く残っていた。看護婦でも同じことが言えるのではと思ったからである。

看護の可能性を信じて

 長濱晴子氏から,自費出版の冊子『病から看えるもの』を拝受し,その日のうちに読み上げた時,このことを思い出し,「やはりそうなのだ」と脊を強く打たれる思いがした。看護はよく,「患者の身になって想い,考え,行動すること」を信条とすると言われるが,どれだけ我々がそのことを実際に確認しているのだろうかという疑問を持ち続けていたからである。
 明るく聡明な長濱氏が,突然,重症筋無力症という難病にかかり,診断されてからの2年半という闘病生活を振り返られたこの著書は,1人の患者の手記というよりは,「ナースである患者」の記録であり,病者の体験を通しての新たなる看護界への提言でもあるといえよう。
 長濱氏は,9年間の臨床経験,そして看護行政および政治立法という重要な分野でのご活躍を含めると,20数年間看護職に関連する仕事に携わってこられた方である。看護をよくしたいという思いの強さは,病気を得て,実際の看護に失望し,深く傷つきながら,それでも自ら看護の可能性を信じて,後輩に語ることを皮切りに自らの看護論を発展されているところからよくわかる。
 だから,読み進むうちに,看護婦である読者は,闘病のつらさに胸打たれ,看護の未熟さに悔悟し,自らの実践に照らし合わせて反省し,どのような状況下でも人は自分を取り戻し,さらに力を得て自分を高めることができるのだという感動を体験することになるのではないかと思われる。

気づかされる多くのこと

 私にとっては,自分の枠の狭さに気づく体験になった。すなわち,西欧医学や看護の中でしかものを考えない自分の狭量さである。東洋医学や伝統医療の見直しが言われ,私自身も比較文化論の必要性を説くことがあるのに,実際に自分の持つ看護の知識体系を越えた様々な養生方法を,具体的に自分の知識体系に組み込むことができていなかったのに気づかされる。
 また,「患者中心の看護」「患者の主体性の重視」と言いながら,病む人が自らの闘病を可能にする道を模索できていたのだろうかと,深く反省させられもした。
 現在は医療記録の開示の問題が話題にされるようになったが,看護記録もその中に含まれるだろう。長濱氏は独自の自己観察記録用紙を作られているが,それを見ると看護婦がそれぞれの患者に合った記録をともに作っていくことが可能ではないかと思うようになった。
 このように,この本は,看護婦にとって,実に多くの学びのできる必読の著書である。また,私のように看護教育の場にいる人にとっては,教員自身の看護論を再考させられるだろうし,また深い洞察に富んだ実践看護論として,教育に活用できるであろう。私は早速学生に紹介し,一緒に議論する場を持ったが,実践から遠い1年生でも感動し,実感できるものであった。また,同じような病気と闘っている人は,将来への灯火となる勇気を得ることであろう。
(A5・頁206 税込定価1,957円 医学書院刊)


地域の中の精神保健活動の視点がわかる

これからの地域精神保健 病院看護と地域看護の連携を求めて 吉川武彦 著

《書 評》粕谷 典(東京都多摩総合精神保健福祉センター)

 本書のページをぱらぱらと開いてみたとき,著者のいろいろな本を思い出してしまった。
 転勤が趣味という著者は今までにもたくさんの本を書いている。著者は病院,国立精神衛生研究所,大学,東京都の保健所など,そして国立精神・神経センター精神保健研究所の精神保健計画部長から,病院に勤めるようになった医師である。このような経歴の中で,見たこと,やったこと,考えたことが,それぞれに著書としてまとめられている。
 そして今回の本にはそのようなエキスが,看護職を対象に書かれている。
 保健所で少しの間一緒に働かせてもらった私は,著者から「あなたの考え方は,伝染病の管理をしているときと変わっていないのではないか」,「相手を変えようとするのではなく,自分が相手に近づくのが相談だ」など,いろいろ教えられたことを思い出す。
 ここに書かれているのは,地域保健のノウハウではなく,仕事をする上で必要な,考え方の基礎である。
 障害とは何か,障害があったら健康ではないのか,地域はどのような健康を求めているのか,こころがすこやかであるということは,そして精神障害とはどういうものなのか,地域の人々のこころの健康はどのように考えて守り,守られるのか,どのような人がその活動をするのか,どのような姿勢で働くのか,地域の精神保健のシステムはどのようにして作るのか,地域はどうなったらよいのか。そして最後には,今何を始めたらよいのか,今何をアッピールするかということで,3つの視点が示されている。この本を読んでいくと誰もがその活動に巻き込まれそうである。 
 各章の頭には,内容がコンパクトにまとめられていて,理解しやすくなっている。

仕事の意味を考えるヒントに

 病院で,各施設で,保健所や市町村で,目の前の仕事に追われて忙しく働いているとき,こんなはずではないと不全感を持ってしまいがちだが,ちょっとこの本を読むことで,ヘリコプターに乗って高いところから自分の家を見るように,自分の仕事がどんな位置づけにあるか,どのような意味を持っているのかを,考えることができるような気がする。
 看護職だけでなく,ともに働くコメディカル,福祉,ボランティアの方々にも読んでもらうことによって,新しく必要になる施設や,地域づくりに取り組む力を得ることができるのではないだろうか。
 今,法の改正や保健所の統廃合などで地域の中の保健,福祉等の役割が変わりつつある。このような時,仕事を始めたばかりの人も(特に前半はそのような人のためにわかりやすく書かれている),先に立って地域や施設と連携をとらなければならないようなベテランも,皆で読んでみたい本である。
(A5・頁192 税込定価2,266円 医学書院刊)