医学界新聞

 Nurse's Essay

 大人の病棟 宮子あずさ


 9年間勤めた内科病棟から神経科に移って,7か月がたちました。
 この間,摂食障害の人の食へのこだわりにつきあって過食になったり,悪夢にうなされたりと,なかなか激動の日々。過食がたたって増えた体重も,仕事が軌道に乗るとともに元に戻り,ようやく身も心も落ち着いたところです。
 それでもやはり,慣れないせいなのか,元からの性格なのか……。感情が不安定な患者さんには,いつも振り回されてしまいます。彼ら,彼女らの気分は,時に快晴から一転にわかにどしゃ降りで,かつその逆もあり。大声を上げて笑っていたかと思えば,廊下の角を曲がる間に眉間にしわが寄り,ナースステーションにたどりつくまでには,この世の終わりのような顔をしているんです。そして始まる,「死なせて~!」の阿鼻叫喚……。
 傾聴的にかかわればかかわるほど乱れていく患者さんに,ただ夕立が過ぎるのを待つ無力感を感じることもしばしばです。これは私にとっては,どちらかといえば耐えられない質のストレス。にもかかわらず,これに耐え,元気に病棟に行けるのは,看護婦同士の人間関係のたまものだと言えるでしょう。
 それというのも神経科病棟の看護婦は,他の病棟で数年以上を過ごしている人がほとんど。30代以上が約半数を占め,一言で言えば,大人の病棟なのです。
 こうしたベテランの看護婦は皆,それぞれに自分の生活を大切にしながら働くスタイルを持っています。もちろん,これはその人なりの個性にもよるのでしょうが,着ることも食べることも,ちょっとリッチに楽しむ彼女たちには,素敵なゆとりが感じられます。
 そして,若い看護婦もその雰囲気に学んでか,いきなり壁にあたるような煮詰まり方はしません(お姉さまたちをまねての衝動買いで,給料日前に悲鳴を上げていることはありますが……)。
 ゆとりのある大人同士の相互カウンセリング機能が働いているからこそ,ヘビーな状況にも耐えられる。それが私の実感です。もちろん若い年代の集まる病棟にもそれはそれなりのよさはあります。が,ちょうど30代を越えた今,この病棟でその年と 齢し なりの楽しい働き方を考えるようになったのは大きな収穫。凝り固まらない若々しさを維持しつつ,年と 齢し なりのゆとりを身につけたいと夢は膨らんでいます。