医学界新聞

Vol.11 No.8 for Students & Residents

医学生・研修医版[8]1996. OCT.

第39回
全国医学生ゼミナール in 信州開催

医系学生たちの熱い夏

 医学生の自主的学術文化活動を全国規模で行なう第39回全国医学生ゼミナール(全国実行委員長=弘前大6年 浮田昭彦氏,現地実行委員長=信州大4年 小林陽子氏)が,8月8-11日までの4日間,松本市で「薬害エイズ」をテーマに開催された。
 全国医学生ゼミナール(医ゼミ)は,学生が最先端の医学や医療を自主的に学び,また学生同士の交流を通して将来の医師・医療従事者像を考えることを目的に開かれてきたもので,全国保険医団体連合会,全国自治体病院協議会,日本医学教育学会や地方自治体など多数の団体の後援のもとに開催されている。
 今年の医ゼミには全国の大学医学部,医科大学の学生のほか,看護系大学や,看護系専門学校などから約1000名が参加。4日間にわたって活発な論議や交流が繰り広げられた。
 本号では,医ゼミにおける学生たちのさまざまな取り組みを紹介する。


 メイン企画「薬害エイズ」では,現地実行委員会が行なった「全国医学生への薬害アンケート」の集計結果(関連記事)を交えた学生によるレポートや,片平洌彦氏(東医歯大助教授),岡慎一氏(東大助教授),川田悦子氏(東京HIV訴訟団副団長),保田行雄氏(HIV訴訟弁護団事務局次長)らさまざまな立場で薬害エイズに関わってきた人々を招いてのシンポジウムが行なわれた。

 
 東大教授 岩本愛吉氏による「エイズ治療の最前線」の講義    メイン企画の翌日に行なわれたメイン分科会。学生たちは9つの分科会の内,興味のあるテーマを選んで足を運び,講義やディスカッションを通してそれぞれのエイズや薬害に対する見識を一層深めた。

 3日目の文化祭典。有志が日頃の特訓の成果を披露する「芸コンテスト」(写真)のほか,フリージャーナリストの江川紹子氏の講演などが行なわれた。


全国の仲間と作り上げた医学生ゼミナール

大槻朋子(全国医学生ゼミナール in 信州現地実行委員,信州大学1年)

 さる8月8日から11日までの4日間,第39回全国医学生ゼミナール in 信州(略称医ゼミ)がわが信州大学を主な会場として開かれました。医ゼミは医ゼミ全国実行委員会が主催となり,毎年夏に全国から1000名近い医系学生(医学生,看護学生,医療技術短大生など)を集め,学生たち自らの手によって作られています。
 浪人時代に医ゼミのことを小耳にはさんだ私は,学生たちの手によってしかも1000人規模!のゼミナールが開かれているということにいたく感動して,医学部に入ったら絶対参加するぞ!!と心に決めていました(何でも70年代には各学部でこういうゼミナール活動が盛んだったそうなんですが,今残っているのは教育ゼミと医ゼミだけだそうです。医ゼミがこんなに元気に続けられているというのは医学部にとって誇るべき,幸せなことではないでしょうか)。

運命の出会い

 さて,入学してみるとその医ゼミが今年,なんとこの信州大学で行なわれる!とのこと。医ゼミに“運命”を感じた(?)私は気がつくと現地実行委員の一員となっていたのでした(もっとも,新入生の約1/3が医ゼミ委員にならねばならなかったという説もありますが)。
 現地実行委員ならではの仕事として5,6月には各地の大学に医ゼミPRのキャラバンに行きました。教室の前で大声で宣伝し,みんなの視線を浴びるなんて初めての経験! 最初は逃げ出したくなるような気持ちでした。でも真剣に訴えれば訴えるほど熱心に聞いてくれる全国の医学生の態度に励まされ,いつしかキャラバンが快感に……。また全国に仲間もできて本当に貴重な経験をさせてもらったと思っています。
 そして7月も末になると信州大学には,医ゼミの準備を進めてくれる人が全国から集まってきました。テストも終わり人影がまばらになったキャンパスに仲間が集まってきてくれるのは本当に心強いものでした。結局,医ゼミ本番前に自分たちの手で医ゼミを作りたい!と準備に参加してくれた人は200人近くに。看板を作っている人,発表のための勉強をしている人,そこら辺で歌ったり踊ったりしている人……活気にあふれた講義室は私の知っている講義室とは全く別の場所のようでした。このようにして医ゼミ本番は迎えられたのです。

いよいよ本番!

 今年の医ゼミのメイン企画は今も新たな進展をみせている「薬害エイズ」問題でした。初日には4人のパネリストを迎えシンポジウムが開かれました。息子さんを感染させられた川田悦子さんのおだやかな口調の中に,この問題に前向きに取り組む強い意志を感じ,なんて強い,素敵な人なんだろうと感じました。またHIV訴訟弁護団の保田行雄弁護士は血友病専門医の責任追及を訴えておられました。ご自身も感染の危険を負っただけに,その怒りともとれる口調は胸に響き,医師をめざす者として身のひきしまる思いでした。
 このお二人の言葉に私は将来医療従事者となる者の責任をひしひしと感じ,社会の期待に沿える医師にならなければとの思いを強くしました。また「薬害」は薬の副作用などではなく社会構造が生み出す「人災」であるという点で,「薬害エイズ」をどのようにして,より深く考えていくかを学びました。
 医ゼミでは毎日,夕方から交流会が開かれます。これは同じ将来の目的をもつ仲間が全国から集まるこの機会に,「理想の医療,医療従事者像とは?」ということを語り合おうというもの。医ゼミの目的の1つなのです。
 初日はTalk & Talkで,学年は関係なく10人ほどの小グループに分かれました。初日の感想を述べた後,薬害エイズに関するディスカッションをしました。ディスカッションでは,みんなが真剣に自分の意見を言う姿に感動してしまいました。
 またこの日,東大医科学研究所の新井賢一教授を招いて「遺伝子」と題する分子生物学の記念講演が行なわれたのですが,まだ私は1年なので,(いえ,私の勉強不足のため?)率直に言ってあまり理解できず,ただただ現代医学は非常にミクロな世界での研究がすすめられているのだと感心するのみでした。しかし,同じグループの上級生はちゃんと理解していたようで,さすがだと感じると同時に,私も早くあの講演になるほどと頷ける学生にならなければと思いました。
 医ゼミでは他に,各大学の発表の場である分科会があります。私は「女性が専門職に就くということ」,「脳と心」などに参加しました。特に「脳と心」(岡山大)では,恋愛感情や,なぜ丑三つ時に幽霊を見たり金縛りにあうのかということを,脳の働きと結びつけ科学的に解明するという興味深いものでした。
 また,10日に行なわれた文化祭典では,ジャーナリストの江川紹子さんに「白衣の人が悪魔になるとき」と題して講演していただきました。オウム事件では人の命を救うはずの少なくない数の医療従事者が,逆に犯罪に手を貸しました。江川さんは私たち学生に,様々な人や経験に触れて自分自身の感情を豊かにして下さい,とのメッセージをくれました。
 この他にも様々な企画が行なわれ,11日の閉会式には参加者ほぼ全員で歌い,踊り,医ゼミの幕は下りました。

医ゼミがくれたもの

 この医ゼミを振り返ると,まず何よりの収穫は北は北海道,南は鹿児島の友だちができたことです。そして,そんな仲間と自分たちの手で何かを作り上げるという作業を経験できたこと。これは将来の仕事にも大きくプラスになるのではないかと思っています。
 また,予備校生の時は小論文の練習などで必死に考えていた医療に関わる問題を,大学に入ってからはあまり考えていなかった気がします。医ゼミではこのようなことを考える機会をもらいました。ただ,医学の知識を深めるという点では私の勉強不足のためにいまひとつでした。しかし,学年によって医ゼミの楽しみ方もいろいろあるだろうと思いますし,来年はもっと貪欲に知識を吸収したいと思います。
 秋の気配を日ごとに感じられるようになりましたが,クーラーもない教室で汗まみれになってみんなと過ごした信州の8月を懐しく思い出す今日この頃です……。