医学界新聞

第44回日本心臓病学会開かれる

心臓病の臨床的問題を様々な角度から


 第44回日本心臓病学会が,古瀬彰会長(東大)のもと,さる9月25-27日に,横浜市のパシフィコ横浜にて開催された。心臓病学会は,心臓疾患の診療にあたる内科・外科・小児科などの医師が,主に臨床的問題を中心に討論する場。今回は55%という厳しい採択率の中選ばれた一般演題600題の他,シンポジウム,教育セッション,招請講演,ランチョンパネルディスカッション,サテライトシンポジウムなどが行なわれた。本号では学会プログラムのうち,シンポジウムの内容を中心に紹介する。


 シンポジウム1「高齢者の心血管疾患」(座長=古瀬彰氏,阪市大 吉川純一氏)は,増加を続ける高齢患者への対応がテーマ。座長による基調講演2題に引き続き8名のシンポジストによる話題提供がなされ,その後総合討論を行なうという形式で進められた。

高齢者の心血管疾患を考える

 基調講演では,まず吉川氏が「高齢者の弁膜疾患」と題し講演。高齢に伴う生理学的変化をどう捉えるかという問題を提起した他,大動脈弁狭窄に関しては大動脈弁口面積の絶対値を,また大動脈弁逆流に関しては逆流量・分画をルチーンに計測することを勧め,「症状だけでなく定量的な把握をして重症度の基準とし,外科医と内科医の共通用語として議論すべき」と述べた。
 また,会長の古瀬氏は,「心臓手術と高齢者」のテーマで,15年間の手術例のデータをもとに高齢者手術の動向を解説。疾患別の年齢分布や,70歳以上の心房中隔欠損症,弁膜症,胸部大動脈疾患の手術成績を示し,さらに80歳以上の患者の手術についても展望を示した。

治療成績や長期予後などを検討

 続いて8名のシンポジストが登壇し,(1)大動脈瘤手術,(2)(3)急性心筋梗塞,(4)冠動脈インターベンション,(5)CABG(冠動脈バイパス手術)とPTCA(経皮的冠動脈形成術),(6)CABG,(7)弁膜症,(8)超高齢者心臓手術について,それぞれ特徴や治療成績などを述べた(数字は発表順)。
 このうち高本眞一氏(国立循環器病センター)は高齢者の腹部大動脈瘤手術の成績に若年者との有意差がないことを報告。高齢者手術においては「小さな手術で最大効果をあげることと,自然治癒の重視が基本」であると述べ,そのためには術中カラードプラーによる直接スキャンで病態を明確に理解することが大切であるとした。
 また本宮武司氏(都立広尾病院)は,厚生省長寿科学研究班参加11施設の10年間のデータから,急性心筋梗塞への再灌流療法導入以降の,高齢者心筋梗塞の特徴と予後をまとめた。また,1年半に入院した60歳未満と70歳以上の患者についても比較検討。生存退院例の長期予後に関しては,70歳以上のPTCA成功群の生存率は,再灌流療法をしていない群に比べて良好だが,心臓死と非致死的心筋梗塞の発生率には差がなかったと述べた。
 この他,超高齢者(75~86歳)の心臓手術100例の検討を行なった畑隆登氏(心臓病センター榊原病院)は,弁膜症・虚血性心疾患などの手術適応を「心臓手術が必要な病態で,生命予後が心疾患で規定され,術後に生活改善が期待される症例では,積極的手術適応とする」とまとめた。
 その後の総合討論では,胸部大動脈瘤,急性心筋梗塞,慢性冠動脈疾患の緊急手術,弁膜症(大動脈弁狭窄),超高齢者の手術の5つの問題について,フロアの参加者も交え,各演者が考えを述べた。

急性心筋虚血治療の最前線

 シンポジウム2では,「急性心筋虚血治療の最前線」(座長=順大 山口洋氏,小倉記念病院 延吉正清氏)をテーマに,8名のシンポジストが各種治療法について有用性を検討。
 この中では急性心筋虚血治療における(1)t-PA静注血栓溶解療法(とその後のPTCA),(2)PTCA,(3)ステント,(7)冠微小循環保護療法(ベラパミルの投与)の効果が報告された。また,(4)高リスク群,(5)左冠動脈主幹部由来心筋梗塞,(6)発症早期に心室細動に陥る急性心筋梗塞への対策,さらに(8)緊急手術成績について,臨床例の分析をもとに今後の展望が述べられた。
 シンポジストの発表後は総合討論が行なわれ,各療法の適応などについて各演者間で意見が交換された。
 学会ではこの他に多彩なプログラムが企画されたが,サテライトシンポジウムの1つ「心不全を考えてみよう」(司会=岩手医大 平盛勝彦氏)では,16名の演者が心不全をめぐる様々なテーマで講演。「心不全の病態生理:ここを誤解してはいけない」(阪大 堀正二氏),「心不全:男と女には違うところがある」(関西電力病院 酒井章氏),「心不全と『こころ』の問題」(東女医大 笠貫宏氏)などの切り口から心不全について語った。