医学界新聞

家族看護学の確立をめざして

第3回日本家族看護学会開催



 第3回日本家族看護学会が,さる9月7-8日の両日,鈴木和子会長(千葉大助教授)のもと,千葉大学けやき会館で開催された。同学会では,会長講演,シンポジウムのほかに一般演題31題の発表が行なわれたが,その中でも山口県立中央病院が発表した「家族システム理論の臨床応用」4題の事例は,「家族が自ら悪循環に気づき,家族のありようが変わっていく」という視点で,会場からの注目を浴びた。

看護教育の中での家族看護学

 会長講演「家族看護学に対する教員の意識と期待」で鈴木氏は,看護教員が家族看護学に対してどのような意識を持ち教育をしているのか,また学問としてどのように発展していくのかを調査するためにアンケートを実施した結果を発表した。対象は1993年以前に発足した全国の看護系大学,短大および専攻科,3年生看護学校,2年制看護学校,保健婦学校,助産婦学校の教員で,有効回答者は1714人。
 鈴木氏はこの結果から,「家族看護学に対して,教員の意識や必要性の認識では,地域看護学の担当教員,保健婦学校の教員に有意に高い傾向が認められた。教育の実施状況をみると,担当教科ごとの横の連携がなく,対処領域間での調整が必要」と述べた。また,これからの教育のあり方について,(1)家族看護「学」の必要性,(2)独立した科目としての必要性,(3)対象に付随した教育の必要性などをあげ,学会が担うべき使命となることを強調した。
 シンポジウム「家族看護学への取り組み」(司会=東大教授 杉下知子氏,愛知県立看護大教授 小宮久子氏)では,「看護学教育の中での家族看護学への取り組み」を中心に5名が登壇し話題提供をした。
 まず最初に井上郁氏(高知女子大教授)が老人看護学の視点から,「妻・夫・子すべてが家族ととらえられているが,同一ととらえ『家族』という言葉ですべてが表されるのか。家族=主介護者としている研究や分析がみられるが,看護者が自分の思い込みで考えてしまうと誤解が生じることもあるのではないか」との疑義を発し,「家族看護学の確立のためにも,家族を1つのユニットとしてとらえるなど,定義を明確にすることも重要な課題」と述べた。
 原礼子氏(日赤看護大教授)は,地域看護学の立場から「看護基礎教育における家族看護学」について意見を述べた。原氏は,「患者の背景に家族があるという姿勢で地域看護の実習をしている」ことを前提に,「発達看護学から看護教育を考えた場合,家族看護学がベースにあった上で,小児,成人,地域看護へと各領域に広がるシステムが考えられる」と提言。
 石垣和子氏(東大助教授)は,講義で家族をユニットとしてとらえカリキュラム構成していることを述べるとともに,「家族病理」という視点から,家族の個別性への理解,家族関係介入などについて解説した。
 家族システム看護学の臨床への応用を研究している森山美知子氏(山口県立大)は,一般演題の発表の際に注目された山口県立病院での導入と展開について報告。また学生への講義展開について,「実際の症例を用いて仮説を立案することが重要であり,臨床実習の現場では,学生の受け持ち家族に対して,学生が同席する中で家族インタビューを行ない,インタビュー後に学生と討議している」ことを紹介した。
 渡辺裕子氏は,臨床看護婦を対象とした家族看護のコンサルテーション活動を報告。コンサルテーションによる担当看護婦の変化について,「“看護とは”についての基本的イメージの再形成が図れる,また家族看護の意義の実体感を通じた確認,家族看護の自らの看護観への統合,看護に対する価値の高まりなどを得ることができる」と述べ,看護基礎教育に関して「家族看護の関連性,対象のとらえ方,理念を明確にすることと,CNSの役割を担う人材の育成が必要 」との見解を示した。