医学界新聞

看護の本質に立った看護教育を

第6回日本看護学教育学会が開催される



 第6回日本看護教育学会が,さる8月3-4日の両日,田島桂子会長(聖隷クリストファー看護大教授)のもと,「看護の本質に立って看護教育を問い直す」をメインテーマに,浜松市のアクトシティ浜松で開催された。
 本学会では,一般講演(口演・示説)108題のほか,開催当初に行なわれた会長講演をはじめ,シンポジウム「看護の本質に立って看護基礎教育のあり方を考える」(司会=慈恵医大教授 吉武香代子氏)やフォーラムディスカッション「看護基礎教育における看護理論,看護診断の学習をめぐって」(司会=木村看護教育振興財団 伊藤暁子氏),およびフェイ・G・アブデラ氏(ユニフォームドサービス健康科学大看護大学院学部長)による招聘講演が行なわれた。


基礎教育に必要な個人的知識・経験

 田島会長は「看護実践に対応した看護基礎教育―学習者の学習・生活経験を生かした教育の可能性 」を講演。「30年前にニューヨークで接した『21世紀の看護はベッドサイドケア』の言葉が今でも印象に深く,その実現をめざしてきた。言い換えれば『個人との関わりを重視したケア』にほかならないが,これは看護,看護教育のめざすものともいえる」と前置きし,「よりよい教育方法はないか,もっと現場を変えるだけの力を持つ看護者の育成ができないだろうか」との観点から持論を展開。また,「急速に変化しつつある看護環境の中で,看護の本質を問い直しながら,教育環境の変化,多様化に対応できる人材の育成が看護教育に期待されている」として,(1)教育者が現状を的確に把握し,(2)将来ともに役立つ教育方法を創造し,(3)成果を発揮できる人材を社会に送り出すことが,これからの看護基礎教育のあり方と強調。
 さらに「個人的知識,経験を土台とした看護の場における看護実践能力を育成するには,(1)看護行為の構造化と具体的な統合化の学習課程の確立,(2)学習者の生活経験を生かした主体的学習課程の確立,(3)看護の場を視野に入れた機能的思考と演繹的思考の併用による学習の確立,(4)日常生活行動に対応した看護の原理原則の確立の研究の推進などに留意すること 」などが現在の課題であると指摘した。

看護基礎教育のあり方を考える

 シンポジウムの司会を務めた吉武氏は,「高度化する医療の中においては,看護婦にも高度で複雑な知識,技術が求められるようになったが,看護の本質に立って看護基礎教育のあり方を考えるとき,何をどれだけ教えることが適切なのかを検討したい」と開催の主旨を述べ,4分野の実践者,それぞれの立場からの意見を求めた。
 最初に看護基礎教育の立場から,小玉香津子氏(日赤看護大教授)は「もっと丁寧に教育にあたりませんか」と提言。「(1)看護学生は卒業するときに理想の看護をきちんと持ち,それを卒後いつでも呼び戻せることができなければならない,(2)実践してこその理想の看護であることを骨身にしみてわからなければならない,(3)卒後も学習を続けること,これは専門職者としての責任を果たすことにつながる,(4)サービスの場と教育の場に席をおく臨床教師こそが,基礎教育を好ましい方向に変える鍵となる,(5)他職種とのパートナーシップを知識でなく行なうこととして学ばせることが大切」と述べた。
 続いて臨床看護の立場からは,紙屋克子氏(筑波大教授)が,新人ナースの「やりたい看護ができない。学校で学んだことが役に立たない」の2点に代表されるストレス因子について,「看護の専門性をうまく説明ができないために,他職種の下請け,補助的仕事を甘んじて受けてしまうのではないか。それは自分が専門家であることを自覚できないままに,自信のなさ,自負のなさにつながることに起因している」と発言。「看護の使命や責任の範囲,役割を自覚している人,誰のために何をする職業人であるのかを自覚できる人を育成することを基礎教育へ期待したい」と結んだ。
 また川村佐和子氏(東医歯大教授)は長年実践してきた地域看護の立場から,「入院の短期化が進み,健康に障害を持つ人たちが在宅で長期間療養する,従来入院によって受けてきたサービスを在宅で受ける時代となってきた」という情勢が訪問看護婦を成立させる要因ともなったと解説。医療法の改正から訪問看護ステーションの開設があいつぐこととなり,看護婦教育カリキュラムの指定規則に「在宅看護論」が組まれてきたと分析し,保健婦・看護婦の統合した教育のあり方などを再考する時期なのではないかと指摘した。
 最後に浅川明子氏(神奈川県立平塚看護専門学校)は,看護婦の継続教育を実践してきた立場から発言。看護教員養成コースの学生が卒後の継続教育に何を望むのかアンケート調査した結果,「(1)看護教員として自分の将来の価値を見出したい,(2)施設が将来のリーダーとしての育成に派遣した,(3)現状の看護に不安や疑問があり,その答えを探究したい,の大きく3グループに分類できた」と報告。「教員養成コース卒業後の就職先としては,臨床現場が多い」という背景から,今後卒後臨床教育に多くを期待できることも示唆した。

臨床ガイドラインによる戦略的計画を

 今回の学会には,日本でも『看護中心の看護』(医学書院刊)の著書で知られるアブデラ氏が招聘され,「今日の患者中心の看護―臨床看護に役立つガイドライン」と題して講演を行なった。
 アブデラ氏は,医学の進歩に伴い複雑な判断を強いられる臨床家にとって手助けとなる臨床ガイドラインの作成に携わった経過とその作成意義を語った。それによると,具体的な作成が始動したのは1989年からだが,アメリカにおいても共通の指針がないために医師によっては診断決定にばらつきがあり,患者が受ける治療コストもばらばらであった。また,必要もない手術や不適切なケアへの費用もかかり,医療費の高騰につながったという反省から,ガイドラインの作成が急がれた。氏は,作成には,全米から専門家が集まり特定の問題について議論を行ない,コンセンサスを得,1項目を制定するのに1年を要したことなどを述べるとともに,その戦略的計画でもある「患者を中心とした」ガイドラインの内容および利用法について解説した。