医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

外科医が欲しかった1冊

Q&A腹腔鏡胆嚢摘出術 こんな時どうする? 小玉正智 監修,来見良誠著

《書 評》大野義一朗(東葛病院外科)

鏡視下手術の標準術式の確立と安全性の追求がねらい

 胆嚢摘出術に始まった外科の鏡視下手術は,ごく短時間に目覚ましい発展を遂げた。いまや外科手術のなかで鏡視下に行なうことのできない手術はないかの様相を呈している。腹腔鏡視下胆嚢摘出術はすでに古典的な存在になりつつある。なぜいまさら腹腔鏡下胆嚢摘出術なのか,そんな疑問をもって本書を手にしたが,たちどころに自分の未熟さを痛感した。
 著者は滋賀医科大学第1外科で25に及ぶ関連施設を直接指導されてこられた。教えることが,筆者を常に「初心者」の問題意識に立ち戻す。「手術時に全く予想されないような質問」,「一見簡単そうに見えるが,実際に自分自身で遭遇した場合には思案するような問題点」が次々と出され,1つひとつを詳細に検討し解答を出していく。その積み重ねが本書の元となっている。著者の非凡なセンスと卓抜した技術が本書の随所に垣間見られる。しかし,本書の主眼はそこにはない。自分のノウハウを披露するのではなく,誰がやっても同じように成功する手技の究明,すなわち「標準術式の確立と安全性の追及」が著者の狙いである。普遍性こそ科学技術なのだという科学者の思想をそこに感じるのである。

手術に必要な知識から器械の特徴まで

 本書は基礎編,応用編,適応編,手技編,器械編にわたる総計64項目を取り上げ,それぞれ見開き2頁のQ&A形式で構成されている。
 基礎編では手術を円滑に進めるためのコツが,応用編では術中の不測の事態に対する対応がまとめられている。胆嚢管の合流形式や走行異常,胆嚢動脈の分岐など,根拠となる研究も示されており説得力がある。適応編では合併症や併存疾患を有する場合の手術適応の考え方がまとめられている。手技として確立しているとともに,正確に教え伝えることができてこそ標準術式を支える技術といえる。手技編は剥離鉗子のこすりかたに及ぶまで,考え抜かれた標準手技が呈示されており,最も本書らしい部分である。また,手術書に一見馴染まない器械編が組まれているのは,器械の進歩,器械のわずかな差が手術のやりやすさを左右する本術式の特徴を反映してのことで,思いのほか得るところが大きい。
 本書は,術者経験のある医師には直面した難問に的確に答える重宝な参考書となる。ポケットサイズで携帯に便利な判型となっているのも心憎い。また項目は気腹針の刺入から鉗子の使い方,ドレーンの挿入方法にいたるまで手術操作のすべてを網羅しているので,これから術者となる医師には系統的かつ実践的なテキストとなる。そして全編を貫く教えることに徹したスタンスは,後輩を指導する立場の医師にとって示唆に富むものとなっている。
 総じて「こんな時どうする?」というタイトルの軽々しさにそぐわない総合的な1冊に仕上がっている。ごく普通の病院のごく普通の外科医が欲しかったのは,実はこんな本なのである。
(A5・176頁 税込定価3,194円 医学書院刊)


医学生から神経内科認定医を志す人まで

図説神経症候診断マニュアル 東儀英夫 編

《書 評》栗原照幸(東邦大教授・内科学)

 『図説神経症候診断マニュアル』は,東儀英夫教授の編集によるが,病歴のとり方・診断のすすめ方から始まって,多数の神経症候が取り上げられているので,日本の42名の神経内科専門医によって分担され,各症候が図説によりわかりやすく記載されている。図もおそらく画家が手を加えたためか,表情も豊かで,年齢や,本人の悩みを訴えるほどよく描かれている。各症候には手書きの図や場合によっては写真があり,発生機序,考えられる疾患・病態,鑑別のポイント,診断に至るプロセスで必要な補助検査が,箇条書きとなって簡潔に書かれている。

症候からどのように考え診断にたどりつくかを記載

 ある神経症候,例えば頭痛,めまい,意識障害,けいれん,しびれ・感覚障害があったとき,どのように考え,どのような鑑別診断を思いついて,どのような検査をしながら診断にたどり着くかということが,よく記載されている。またこの本の後半には身体部位からみた神経症状が取り上げられ,顔,眼,耳,口・咽頭・喉頭の症状,嗅覚の障害,手の症状,足の症状,膀胱・直腸・生殖器の障害というように頭から足へかけて順序よく身体の各部の症状を図や写真を多用して理解できるよう,しかし簡潔に,箇条書きとして記載してある。
 この本全体を私は2,3日で楽しく読ませてもらって,医学生,内科や脳外科の研修医,神経内科認定医を志す方々に大変参考になる良書であると考えた。
 神経症候を図で表現することは,勇気のいる作業であって,本当に著者がよく理解していないとできないことである。この本を今後改訂する際に是非考慮していただきたくて,私の気づいた点を記載させてもらえば次の3点である。
(1)症候群に出てくる人名は国試問題作成要領でも原語で書くことになっている。したがって人名は初出箇所だけでなく全体を原語の片仮名並記で統一して欲しい。
(2)意識障害の章,192頁の図で,脳幹圧迫を伴う一側大脳半球病変の瞳孔の図は左右同大で散瞳して図には描かれているが,大脳半球病巣側の瞳孔を大きく描くべきと考える。
(3)瞳孔の障害288頁で,アーガイル=ロバートソン瞳孔は縮瞳ぎみで,左右不同,対光反応消失,輻輳反応は保たれるという特徴があるので,左右不同がないこともあるが,図としては左右の大きさが異なる図も描いて欲しいと考える。
 図で表示すると筆記した文章よりはっきり示すことになるので,図にもし誤りがあると読者は当惑するので図の校正もしっかりされることを望みたい。
 この良書が改訂され,鑑別診断の中でも特に重要で頻度の高い疾患は太字や下線で示したりして,重要な疾患とめったにない疾患を同じように羅列するのではなく,そこにベッドサイドで役立つ形で表現され,考え方の流れが現実に沿ったものになればさらによい。このように改訂されるうちにますますよくなる本であることは疑いの余地はない。ある症候について多数の症例を自ら経験してきた人が書くと,重要で頻度の高いものから頭に思いつき,実践に役立つ書き方になるし,鑑別診断がただの百科事典のようにはならない。そこに生き生きした臨床家の実力を感じさせる記載となる。次の版ではそのように改訂されることを期待してやまない。
(B5・404頁 税込定価12,360円 医学書院刊)


DSM-IVに準拠した充実したポケット版

レジデントのための精神医学 神庭重信 監訳

《書 評》堤 邦彦(北里大・精神科学)

精神療法的アプローチをどう身につけるか

 精神科レジデント向けに訳出された本書は,精神科臨床で必要な知識(DSM―IVに準拠)をコンパクトなポケットサイズにまとめたものであると同時に,疾患概念や診断法にとどまらず,鑑別診断,治療法(薬物・精神療法),治療の進め方と留意点についても実際的に紹介した実践書である。
 わが国の精神医学教育においては,診断法と薬物療法の指導は行なわれても精神療法的アプローチについては個々の習熟の努力に任されていることが多い。したがって,精神科レジデントは指導医の面接法を見よう見まねで戸惑いながら実践し,自らの方法を確立していっているのが実情である。
 例えば,本書では精神分裂患者への治療上におけるコミュニケーションの必要性を挙げ,(1)患者と話しをすること,(2)具体的であること,(3)面接の時間をとること,(4)患者の行動へのいくつかの具体的観察をする,(5)患者に対しどのような治療がなされているか,それがなぜかなのかを説明する,(6)会話が進まなくなったら,など具体的な留意点を述べている。
 さらに外来治療の留意点,入院時の治療環境(院内治療サポート),家族への対応などの重要性を指摘するなど,患者への対応法と同時に治療環境としてのスタッフや家族についても取り上げ,幅広い視点を提供している。

死や障害の受容への援助にも触れる

 特筆すべきは「哀しむ人,死にゆく人」の章をもうけ,悲嘆反応と喪の仕事を進めていく援助について触れていることである。リエゾン精神医学が独立した領域として成立してきた現在,死や障害の受容への援助は精神科医も積極的に取り組むべき課題である。病的悲嘆反応への発展可能性のある危険因子,喪の仕事への援助法,告知の進め方,家族への対応,医療スタッフへの対応といった方法と視点の具体的提示は,リエゾン精神医学に関心を持つレジデントには格好の啓発書となるだろう。
 欲を言えば,精神保健法についての章があるが,精神科医療におけるインフォームドコンセントの項が含まれていないことである。
 しかしながら,随所随所に従来の本とは異なる内容が盛り込まれており,監訳者も述べているように,ベッドサイドに役に立つ実用書である。なかなか今まで,必要な大方の知識を1冊にまとめて解説したポケット版は存在しなかった。精神科医がいない一般病院,精神科患者を取り扱うことの多い救急医療の現場や医学生にも,平易な言葉と具体的方法が提示されているため診断と対応のマニュアルとして十分に活用することができ,レジデントのポケットに是非収めるよう胸を張って勧めたい良書である。
(B6・頁336 税込定価4,120円 医学書院MYW刊)


脳外科領域の最新情報と基本的な知識が掌握できる1冊

標準脳神経外科学(第7版) 矢田賢三,他 編

《書 評》吉田 純(名大教授・脳神経外科学)

 いまや日進月歩の脳神経外科学をあまねく網羅し,しかも溢れる最新情報を常に補充していく必要があり,脳神経外科学の教科書を時代に適応して改訂していくことは並大抵のことではない。本書の初版が1979年に世に送りだされてから既に17年の月日が経過しているが,その間3年ごとに6回の改訂がなされ,常に時代に即した最新情報を補充してきた努力は,この本が日本の脳神経外科学の標準的な教科書として確固たる地位を築き上げてきた根源でもあり,またそのように対応してきた執筆者たちの使命感をも感ずる。弛まぬ努力の下に3年前に第6版を発行し,現在までに総販売部数10万部を越えて幅広い読者層に支えられてきた本書もここ数年間の脳神経外科学の数々の発展を補充すべく再び改訂を試み,ここに第7版が世に送りだされた。
 改訂内容としてまず第1にあげるべきことは,本書の初版発刊から編集や監修の要として活躍され,本書の生みの親とも言うべき杏林大学長竹内一夫先生がその座を退かれ,一執筆者に転任されたことであろう。しかしむしろ改訂内容には随所に竹内先生の息吹きが感ぜられ,特にこの本の特色の1つでもある“Coffee Break”では竹内先生の加筆変更が至る所に見られ,さらに興味深く整えられており,読者を飽きさせない。

時代に即した最新情報を取り入れる

 まずは生命倫理やインフォームド・コンセントなどの医療の倫理の項目が各所に追加されている。現在,脳死に関する日本でのインフォームド・コンセントは臓器移植との兼ね合いにて大きな分岐点に差しかかっており,今後の医療業務には避けて通れない分野である。それをいち早く教科書に取り上げられたことは,本執筆者の気概を感ずる。
 また,ここ数年の画像診断の急速な発達に呼応して,随所に画像精度の高いMRI写真を挿入し,また巻頭のMRI画像の解剖学的位置関係を全面改定し,より詳細に取り上げている。また脊椎・脊髄疾患についても症例写真がほぼ全面的に改定され,より病態がわかりやすくなっている。また,最近急速にその需要が延びているHelical CTを用いた血管撮影や頭蓋骨撮影も取り上げられ,画像診断の進歩を確実に取り上げている。炎症性疾患では,最近特に大きな関心が寄せられているMRSAに対する対策やAIDSと神経系の障害につき新たに項目を追加して取り上げている。治療法についても近年発達してきたstereotactic radiosurgery,血管内外科,頭蓋底外科を新たに項目として付け加えその詳細を紹介している。また,本書のもう1つの特徴である“セルフチェックポイント”も一部改定されている。

今再び最新の標準的脳神経外科学テキスト

 新たな息吹きを先進気鋭の執筆者たちにより吹き込まれた本書が,今後も日本の脳神経外科学を学ぶ者たちにとって最良の座右の書として生き続けることは間違いなく,医学生はもとより脳神経外科に興味を抱く者にあるときは入門書として,またあるときには専門書として広く利用されることをお薦めしたい。
(B5・頁490 税込定価7,000円 医学書院刊)


消化器疾患の診断と治療に携わる医師に必携

食道・胃静脈瘤の病態と治療 青木春夫,小林迪夫編集

《書 評》武藤輝一(新潟大学長)

新しい概念に基づき,最近の現況を記述

 このたび『食道・胃静脈瘤の病態と治療』と題する待望の書が上梓の運びとなった。編集者は現在わが国でこの分野の臨床と研究の両面において第一人者といわれる青木春夫,小林迪夫の両先生であり,執筆者は編集者を含め,この分野のエキスパートを網羅し60名に及んでいる。そして執筆者が編集者の「新しい概念の認識に基づき,最新の現況について記述してもらう」という方針に沿いながら,限られた紙面の中で精一杯記述しているのが特徴といえよう。
 周知のごとく門脈圧亢進症の概念は,Whippleの考え方に局所門脈系のhyperdynamic stateの知見が加わって,現在では理解しやすいものとなった。本書ではこの概念を基礎に,大きく2つに分けて記述されている。前半は 「門脈圧亢進症,食道・胃静脈瘤の病態生理 」である。第1章の循環異常の病態生理では門脈領域の循環異常が中心に記述されているが,全身,肝,腺,消化管壁などの循環異常についても述べられている。第2,第3章ではそれぞれ胃病変についておよび基礎的疾患の特徴について述べられている。後半では,前半での病態生理からみての「食道・胃静脈瘤に対する治療」が記述されている。ここでは食道・胃静脈瘤の内視鏡所見(第1章)の記述があった後,主として食道および噴門部の静脈瘤に対する各種の外科的治療と非観血的治療の実際(第2章)について詳しく述べられ,このあとの各章で胃穹嶐部の孤立性静脈瘤,各種治療の予後と再発,胃病変の治療,治療法の選択基準などが記載されている。
 本書を理解しやすくしているのは,ところどころにみられるone point adviceとfrom editorと書かれたただし書きである。前者は読者に特に留意してもらうために,後者は編集者の意見を付記しより読者がわかりやすいようにと工夫したものである。編集者の心憎いばかりの配慮がうかがわれ,本書が並居る他のテキストと一線を画している所以である。巻末の門脈圧亢進症の概念,病態に関する研究の歴史と治療の歴史は便利であるし,診断・治療の手引,指針としての厚生省研究班の研究報告書の表も有用である。

ベテランから若い医師まで大いに役立つ

 私は学生時代にWhippleの概念を知り,講師時代に門脈圧亢進の各論講義を担当する中で今永一先生の分類を利用させていただいた。教授在職時代は門脈圧亢進症の研究は研究グループに一任したが,手術では私も執刀した。本書を通読させていただき,自らの過去の知識と経験を懐しむとともに認識を新たにした次第である。本書は消化器病学を専攻するベテランの内科医,外科医にとって門脈圧亢進症に関する新知識を導入し,自らの知識,技倆を整理するうえで大変便利なものと思う。また消化器病学を学ぼうとする若い内科医,外科医が門脈圧亢進症とそれによる食道・胃静脈瘤の治療法を十分に理解し,実施するために大いに役立つものと信じている。消化器疾患の診断と治療に携わる医師に必読の書として推薦する次第である。
(B5・320頁 税込定価27,810円 医学書院刊)


現代皮膚科学を理解する小辞典

キーワードを読む 皮膚科 塩原哲夫,宮地良樹編集

《書 評》西川武二(慶大教授・皮膚科学)

 「眼でみる臨床医学」である皮膚科学は,今や分子生物学や免疫学などの進歩をいちはやく導入したおかげで,新しい魅力を加えた臨床医学の一専門分野として注目されている。
 しかし,どの専門分野でも共通する悩み,それは「情報の多さ」でしかもラテン語を加えた諸外国語,さらにその略語などが氾濫し,臨床医をはじめ研究者,研修医を悩ませている。

読者が手軽に新しい情報を理解しうる書

 本書はこのような背景を踏まえ,読者が手軽な1冊で,新しい情報を楽しみながら理解しうる軽い読み物として編集されたものである。軽い読み物といっても中身は濃く,しかも1頁1項目であるがために,気のむくままに読むことができる。137項目のトピック(略号のみを含む)に加え,これまた横文字で表記されることの多い腫瘍マーカー,遺伝子関係用語の一覧表などが巻末に加えられ,合計151頁の読み物は,現代皮膚科学を理解する小辞典でもある。
 「キーポイント」に始まり,「言葉の概念」,「研究の動向」,「臨床的意義」および「将来の展望」と5つの項目は手際よくまとめられ,文末に文献があげられている。各項目,同じような記述となるように細かく配慮され,執筆者の方々は大変に苦労されたと思われるが,反面,読者にとってこれほど理解しやすい記述はない。日常診療上しばしば遭遇する言葉,PHN,PUVA,HCVはもちろん,最新の遺伝子工学用語なども上手に組み入れられ,また未だレビューも書かれていない新しい重要な略語の解説も含まれている。

氾濫する新しいキーワードを理解する座右の知恵袋

 本書は21世紀へ向けて準備万端の2人の気鋭の教授が選択された「若手」の著者群により執筆されており,それゆえ知識は新鮮である。執筆者の中に混在する若手らしくみえない若干の「新進」執筆者への羨望も禁じ得ないが,ともかく,新しい時代の要請の結晶として出版されたものとして推薦したい。
 本書は,臨床医,研究者,研修医をはじめ諸先生方が多忙な合い間になんとなく読むにも好都合であるばかりでなく,臨床から基礎にわたって氾濫する新しいキーワードを理解する小辞典的役割をも果たすことのできる座右の知恵袋といった好著といえる。
(B5・176頁 税込定価3,605円 医学書院刊)