医学界新聞

第17回日本炎症学会開催される

最先端の研究成果の臨床応用を視野に入れて


 第17回日本炎症学会(会長=自治医大北村諭氏)が,さる7月11-12日,東京の京王プラザホテルにて開催された。
 炎症という病態に対する研究は免疫学,生化学,薬理学など様々な側面から取り組まれている。これらの研究の成果が,最終的には日常臨床にフィードバックされることが望まれるとの北村会長の考えから,今学会では主題を「炎症-研究の最前線と臨床へのフィードバック」と設定。先端的な研究から日常臨床に至るまでの幅広いテーマについて,特別講演やシンポジウム,ワークショップなどが企画され,また一般演題も約120題が発表された。

Acute Lung Injuryの治療を展望

 会長講演「Acute Lung Injuryの病態と治療」を行なった北村氏は,まず「良性肺腫瘍,肺形成異常,過換気症候群などの異常呼吸,原発性肺癌を除外すれば,種々の肺疾患とそれに付随して起こる肺病変は,基本的にはacute lung injury(ALI)である」との考えを提示。吸引性肺炎,ARDS(急性呼吸窮迫症候群)などの疾患に代表されるALIの病態について解説した。
 北村氏はALIに見られる生理学的変化や病理所見を示したのち,基本的な病態は炎症に起因する血管透過性の亢進であると指摘。血管透過性を亢進させる好中球が肺血管内皮に接着する機序や,接着分子による作用やサイトカインの作用などを解説し,さらに各種薬剤による血管透過性の抑制作用や接着阻害療法など,今後の治療の可能性について述べた。

肺線維症の遺伝子導入療法の可能性

 シンポジウムには,「サイトカインと病態」,「レドックス制御の基礎と臨床」の2題が取り上げられ,このうちシンポジウム1「サイトカインと病態」(司会=阪医大 大沢仲昭氏,東医歯大 宮坂信之氏)では,病態形成に関与するサイトカインの働きを分子レベルで理解する目的で,5人の演者が各領域の研究を紹介した。
 この中で吉田光宏氏(阪大)は,肺線維症とサイトカインについて考察。肺の線維化に関与する因子を特定するため,細胞外マトリックスの増生に関わるTGF(transforming growth factor)-βとPDGF(血小板由来成長因子)-B,また炎症性サイトカインであるIL-6とその受容体(IL-6R)の各遺伝子を実験動物肺にin vivo遺伝子導入し,それぞれが組織に与える変化に関する検討結果を報告した。
 その結果,TGF-βとPDGFが肺の線維化誘導に重要な役割を果たすことが判明。特にブレオマイシン肺線維症モデルマウスに可溶性PDGFβ受容体(sPDGF-R)遺伝子を導入した実験では線維化が抑制されたことで,PDGFの強い関与を確認できた。したがって吉田氏は,「sPDGF-R遺伝子導入によるPDGF活性化抑制が,肺線維症の治療に有用であることが示唆された」と治療についての展望を述べた。
 シンポジウム1ではこの他,「サイトカインの生体内動態 G-CFSを中心に」(阪医大 坂根貞樹氏),「侵襲に対する生体反応SIRSと臓器障害」(熊本大 芳賀克也氏),「慢性関節リウマチ病態形成とサイトカイン」(産業医大 田中良哉氏),「抗サイトカイン療法による全身性炎症反応抑制の試み」(慶大 若林剛氏)が報告された。
 なお次回の学会は,明年11月16-20日に開催される第3回国際炎症学会(会長=聖マリアンナ医大難治研センター長 水島裕氏)に引き続く11月20-21日に,市川陽一氏(聖マリアンナ医大)の会長により行なわれることが決定している。