医学界新聞

連載
脳腫瘍
発生要因から遺伝子治療まで(4)

最新の診断・診療機器の現状と展望(1)

小林直紀(東京女子医科大学脳神経センター教授・神経放射線科)


CT・MRIなどの発展とその臨床応用

 CTが世に出てから今年で24年になるが,24年前といえば,今年最短距離で医師になった人たちが生まれた年でもある。この間のコンピュータを利用した画像診断手法の進歩にはめざましいものがあり,DSA(digital subtraction angiography),MRI(磁気共鳴画像)が開発され,さらにはPET(positron emission tomography)が出現している。
 脳腫瘍の診断においてもこれらの恩恵を大いに受けており,モダリティーの最近の空間分解能,コントラスト分解能,さらに時間分解能の向上は,その診断手法に大きな付加的価値を与えている。また,この間には非イオン性の水溶性造影剤の開発もあり,安全でより大量の造影剤を投与できるようになったこともCT診断における大きな進歩である。加えてMRIにおける造影剤の使用もその価値を大きく引き上げた。

CT・MRIによるconventionalな診断

 CT(X線CT)の画像はX線吸収値からなるが,MRIではその画像はT1,T2緩和時間,プロトン濃度および流れの情報からなっており,脳腫瘍組織内の構造をより具体的に推定し得る。脳腫瘍周囲の脳浮腫の診断はT2強調画像においてより明瞭に診断できる。
 腫瘍の組織推定には,壊死巣の存在や嚢胞の存在の診断が大きな手がかりとなるが,この診断にもMRIのT2強調画像が有効である。さらにMRIでは嚢胞内や壊死巣内のプロトンの性状,すなわち蛋白等の水の性状に影響を与えるものの存在をその信号強度より判定し得る。一方血液成分の存在もそのT1緩和時間およびT2緩和時間への影響から信号強度の違いとして診断可能である。また,黒色腫のようにメラニンの周囲プロトンのT1緩和時間の短縮作用が腫瘍の信号強度に影響を与え,組織の同定を容易ならしめるものもある。
 以上のように,現在では脳腫瘍の画像診断においてはMRIが不可欠のものとなっているが,MRIで情報の得られないものに石灰化巣の存在と骨の変化がある。石灰化巣は,大きなものではMRI上では無信号となり,軽度あるいは小さなものでは信号強度の低下として出現する。このため,骨の変化や石灰化巣の情報はCTに頼らねばならない。しかし,石灰化巣内や骨の内面の情報に関してはMRIに頼らねばならない(図1)。
 脳腫瘍診断に関するCTとMRIの有用性はここにあり,最近のMRIの検査時間の短縮により,CTとMRIの使い分けがより明瞭となってくるものと考えられる。
 前述のようにMRIでは血液成分を信号強度の違いとして捉えることができるので,腫瘍内の石灰化巣と出血巣の鑑別もこれによって可能となる。
 MRIにおける造影剤の使用は日常的に行なわれており,その有用性に関してはいまさら述べるまでもないと考える。しかしながら,CTのように骨による影響のないMRIでは,頭蓋のスロープによるshading effectがなく,脳の表面に近い小さな転移性脳腫瘍の発見も容易である。さらに小さな転移性脳腫瘍の検出には普通に使われる造影剤の倍量(0.2mmol/kg)が用いられることも多い。

脳腫瘍診断におけるCTおよびMRIの特殊撮影の応用

 高速CTや特殊なMRI撮像法を応用し,conventionalな方法では得られない情報を得る方法も,脳腫瘍診断のために広く用いられつつある。

三次元表示CT

 造影剤を投与しながら薄いスライスの高速スキャンを行ない,これらの画像を3次元の画像に再構成する手法は脳動脈瘤の診断などに利用されているが,脳腫瘍の診断にも応用が可能である。この方法により,血管とエンハンスされた脳腫瘍が同時に表示され,脳底部腫瘍の手術法の検討が容易となる(図2)。スキャンにはX線管球とX線検出器を連続的に回転させ,被験者寝台をこれと直角に連続的に移動させて撮影するヘリカルスキャンが広く応用されている。






脳表面のMRIによる表示(SAS)

 薄いスライスの合成,あるいは一定の厚さを持った体積のスキャンによって得た画像より脳の表面を描写し,術前の脳表の構造の観察に供するものである。この方法では,腫瘍のエンハンス画像(図3a)や,血管画像(図3b)を同時に表示することも可能である。

MRIによる拡散画像の応用

 強い傾斜磁場を用いると,水分子の自由な運動によって信号は低下する。これを応用したものがMRIの拡散(diffusion)画像である。拡散画像の応用により,腫瘍内の嚢胞の存在を明瞭にしたり,あるいは同じ信号強度を有するクモ膜下嚢胞と類表皮嚢胞との鑑別に利用したりすることができる(図45)。

MRIにおける脂肪抑制画像

 眼窩内腫瘍や,眼窩内に伸展した腫瘍の診断には,脂肪のT1画像における高信号のため,診断が不明瞭となり,造影剤によるエンハンスメントの判定も困難となることが多い。T1画像において脂肪の高信号を抑制できればこの障害を除去することが可能である。これにはいくつかの方法がとられているが,ここではその方法について省略する。この方法は腫瘍内の脂肪と血腫の鑑別にも応用され得る。

dynamic CTあるいはdynamic MRIの応用

 造影剤を投与しながら連続的にスキャンを行なうのがdynamic studyである。この方法は,腫瘍内の血液の流れを連続的に観察することによって,腫瘍の性質を推定するためにも用いられるが,一般的には下垂体の微小腺腫の診断に主に用いられている。正常でも血液脳関門のない下垂体組織と腺腫を,それらのエンハンスメントの時間的な違いを利用して区別する方法である。

functional MRIの応用

 functional MRI(fMRI)は赤血球中のdoxihemoglobinのsusceptability効果を利用したグラジェットフィールドエコー画像である。静脈血の赤血球に含まれるdeoxihemoglobinはT2*緩和時間を短縮させ,T2*画像の信号強度を低下させるように働く。しかし,血流の増加したところでは,相対的にこの効果を持たないoxihemoglobinが増加し,この効果が減弱する。体の一部を運動させるか,あるいは刺激を与えると,それに相当した脳皮質の血流が増加し,刺激のないときに較べて,同部位の信号は相対的に上昇する。これを捉え画像にしたのがfMRIである(図6)。
 この方法は本来脳の機能の研究のために開発された方法である。脳腫瘍の診断への応用として,手術前に脳における運動や知覚の重要な機能分野と腫瘍の位置関係を知る目的にも使用される。

PETの応用

 PETは脳の血流や代謝の検査および研究に大きな武器となるが,脳腫瘍の診断にはあまり応用されていないのが現状である。これには,検査のための施設や維持に費用がかかりすぎることが大きな原因ともなっている。しかし,脳腫瘍の悪性度の判定や,脳腫瘍再発と放射線壊死との鑑別等にPETは大きな威力を発揮し得る(図7)。
 最近,FDGがSPECT(single photon emission CT)にも使用できるようになりつつあり,このような薬剤が提供されるようになれば,脳腫瘍診断でのアイソトープの利用もさらに広がることが期待される。