医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


すぐに活用できる実用的な英単語テキスト

知っておきたい医療英単語 飯田恭子,望月郁子 著

《書 評》猫田泰敏(東医歯大・看護学)

 国際化社会を迎え,情報がインターネット等を通じて一瞬にして世界中を回る世の中になりました。このような社会では,英語が標準的な言語として使用されており,日常的に接する英語情報についてその都度通訳や翻訳の手をわずらわせていては時代遅れになってしまいます。どうしても自分で読み表現する英語能力が要求されるようになりました。
 医療や看護の分野においても同様に,英語教育の必要性はますます高まってきています。また,医療や看護の進歩は英語で発表されることが多く,新しい概念 - ターミナルケア,インフォームド・コンセント,ホスピス,バイオエシックス,ドナー等々 - には英語から導入され,そのままカタカナ語で定着しているものが多くみられます。医療従事者が自ら英語で文献を読んだり,また文章を書いたりする機会もますます増加するものと考えられます。

医療英語教育の専門家による執筆

 この本の著者らは,医療・看護の分野と英語教育の両方に通じた,わが国でも数少ない医療英語教育の専門家です。長年,医療技術系の学生および臨床家を対象として,英語を基礎から段階的に学習できるような統合的な教育方法の開発に精力的に取り組んでおり,英語教育のシステム化をめざして次々と著書を発表しておられます。
 今回出版された「知っておきたい医療英単語」では,私たちが高校までにすでに習得している単語や表現を中心として,これらが医療や看護の分野,特に文献中で用いられる場合の使い方について解説されています。
 医療や看護の分野で使用される英語というと,とかく難解な印象があります。しかしこの本を読んでみると,実際に文献中で使用されている語は決して特別な単語ではなく,ごく一般的な語であるが,医療関係の文脈で表現されているために使われているニュアンスが少し異なっているということがふんだんな例文を通してよくわかり,なるほどこのように使用するのかと大変納得がいきます。
 高校までに習得した言葉の意味と医療や看護の文献中で使われている場合の意味とのギャップを埋めるためには,実際にたくさんの文献を読みこなしていかなければなりませんが,これは初歩の学生には期待できません。ここにこの本の持つ意義があります。

「読む」だけでなく「書く」上でも役に立つ

 本文中のパート1では実際に高校までに既に習得している一般的な語が,またパート2には医療・看護分野で最低限必要な専門用語が例文とともにあげられています。これらの単語は,実際に英語文献中に高頻度に出現する語を調査した上で精選されており,少なくともこれらをマスターすれば英語文献を読みこなすことが容易になるだけでなく,自分で文章を書く上でも大変役立つものばかりです。
 さらに巻末には,理解レベルをチェックするための問題集に加えて,医療・看護現場で日常的によく使用されるカタカナ語ベスト100のリストが,対応する英語ととも掲載されており,医療関係者にとってすぐに活用できる実用的な内容となっています。
 医療や看護の現場で働くすべての関係者のための基礎的かつ実践的な参考書として,また医療技術系の学生用のテキストとして,さらには文献を読むための辞書として,本書の活用を推薦します。
(A5・頁216 税込定価2,266円 医学書院刊)


指導の実例からシステムづくりまで,外来看護の豊富な内容を網羅

外来プライマリナーシング 数間恵子,岡本典子 編集

《書 評》小坂直子(千葉大附属病院副婦長)

 例えば,手術や疾患で1つの臓器の機能を失った人は,その臓器の機能を補う生活を余儀なくされる。また,特に消化器の手術後や糖尿病では,最も人間にとって基本的で,その人の精神的・社会的側面ともからんでいる「食生活」の調整が必要となる。

在宅療養指導料新設以来の活動を紹介

 この本の編集・執筆者の1人である数間氏は,4年ほど前から学会で胃切除後の患者の遠隔期の問題を取り上げ,発表している。手術後の生活(特に食生活)に体が適応できた人はよいが,適応できない人では,体重の減少がみられ低栄養となって,「食べられない」という悩みをかかえて生き続けているという。イレウスで入退院を繰り返す人も多い。しかし,いずれも外来でのきめ細かな生活指導があれば乗り越えていける課題であることが,数間氏の研究から示唆されている。
 この本には,それらを含む外来での指導の実例と,指導のプロトコール,さらに最近関心が高まりつつある外来看護の専門性の追求,外来看護のシステムづくりにまで及ぶ豊富な内容が網羅されている。何より,在宅療養指導料(看護婦が外来で個別に行なう指導に対する報酬)が新設されて以来の,社会保険船橋中央病院における活動の実態が紹介されており,現場で外来看護に取り組む人々と,病院経営者・管理者の両者に参考になる書である。

退院時指導のあり方の参考に

 数間氏の研究に触れ,私の病棟でも,退院時指導で遠隔期に起こりうる問題を紹介し,予防的にどう対処すればよいのか指導し始めた。その結果,退院後の生活に適応できた人は外来通院のみを続けているが,退院時の指導で紹介された問題が生じている人,または努力して何とか生活している人,今後環境が変わる人等では,退院後も外来受診のたびに病棟を訪れ,生活の状況や工夫を報告・相談しにきている。
 本来,外来で果たすべき役割であることだが,外来での相談・指導体制が整っていない現在,病棟に支援を求めざるをえないということであろう。しかしそれも,退院時に遠隔期の問題が紹介されていたからこそであり,まずは,病棟ナースが退院後の人々の切実な悩みを知り,具体的な対処方法を知る必要がある。退院時に指導されたことが,患者自身が自分の問題に気づく第一のきっかけになるかもしれないのである。退院時指導のあり方を考える上でも,参考にしていってほしい書である。
 現在,在宅療養指導料の算定対象は,「在宅療養指導管理料を算定している患者(10項目)および,入院中以外の患者で器具を装着しており,その管理に配慮を要するもの」となっている。外来通院者の一部にしか認められていないというのが現状である。
 この本の執筆者らが掲げる,糖尿病者や胃切除者への食事指導や精神的支援は,残念ながらまだ対象には含まれていない。しかし,それらの人々への生活指導も,看護の専門的役割であるところの「療養上の世話」にあたるとし,今後の外来看護における「療養上の世話」の範囲の拡大と,そこから派生する新しい看護の業務範囲確立の可能性を探るためにも,相談指導を続けていくことが述べられている。
 例えば,手術で臓器を切除した時点では,その病気に対する治療のゴールに到達したとは言えない。手術を受けたことによって生じた障害に対しても,療養行動が適切に行なわれ,自分はよりよく生きていると思える生活を人々が獲得する - これが,医療の目標である。
 その達成に向けて歩き始めたと言えるこの書の刊行に寄せて,外来プライマリナーシングの今後の発展を祈りたい。
(A5・頁140 税込定価2,472円 医学書院刊)