医学界新聞

討論を重視した新たな試みを実施

第22回日本看護研究学会が開催



 第22回日本看護研究学会が,さる7月27-28日の両日,野島良子会長(広島大教授)のもと,「生活者の視点から看護を考える」をメインテーマに,広島市の広島国際会議場で開催された。

artistic,academic,at homeを基本に

 同学会で野島会長は,会員同士が情報を交換しあい,じっくりとくつろいで話し合える集会の場とすべく,artistic, academic, at homeの3つのaを強調,学会開催の基本精神に据えた。これをベースとして,335題の応募の中から採用された一般演題320題の発表のほか,Mayo Medical FoundationのMerlene Hanson Frost氏による招聘講演2題が行なわれた。さらに講演の後には,「Q&Aフォーラム」セッションが設けられ,茶菓を持ちより自由な雰囲気で講演内容を踏まえた活発な質疑応答,意見交換,討議が行なわれた。この新しい試みは参加者らに好評であった。また,新人の発表を対象とした「研究を掘り下げてみよう!」や「実験的取り組み」のポスターセッションに多くの参加者が集まり,助言を呈するだけでなく研究に対する姿勢やこれからの課題などについてもするどい指摘があるなど,熱心な討論が相次いだ。
 その他,教育講演は2題。近田敬子氏(兵庫県立看護大教授)は,小児看護に従事していたおりに教えられたという子どもの“気”や,野島会長の提唱する“気”の概念などが看護と発動性を結びつけるきっかけとなったとして,「発動性の理論と看護―体験から理論構築をめざして」を講演した。理論構築がまだ不完全だとしながらも,人が本来持っている発動性について看護場面での活用の可能性を検討していること,主役としての発動性の発揮などの考えを述べた。一方,永田啓氏(滋賀医大,ワシントン大ヒューマンインターフェイス研究所)はビデオ放映による「インターネットと看護」を講演。ワシントン大の周辺環境を紹介しながら,インターネットが看護に及ぼす効果などをわかりやすく解説した。

生活の流れとしての看護

 野島氏は会長講演「看護を実践することと,看護を思索することと」の中で,「ナイチンゲールの『看護覚え書』に始まる看護学の歴史は140年余を経過しているが,知識体系としてみた場合の看護学に革命的発展がみられたのは,20世紀後半の50年間である」と指摘。その上で「前半をグランドセオリーの時代,後半は知識の本格的体系化へと向かう時代と呼ぶことができる。前半の時代には,看護理論家間に看護固有の役割と働きが明確にされなければならないという理論構築の共通認識があったが,世界観,価値観といったパラダイムの存在はなく,学問上の基本単位もなかった。成立は1970年以降のマーサ・ロジャースの生命過程理論からであり,ロジャースが提唱したユニタリーマン,ユニタリーパーソンという新しい人間像は,人間の本質を追求した看護界での最初のパラダイムシフトであった」との考えを示した。
 さらに野島氏は,ペプロウ,ウィーデンバック,トラベルビー,ロジャース,ロイ,キングらの看護理論の概念分析を1982-83年に実施し,学会報告したことに触れ,その看護理論の基本構造を明らかとする中から人間像が見えてきたと述べた。また,そこから導き出された看護論として「看護実践は,人間1人ひとりが可能な限り,自己の最良の人間的能力を発揮してよく生きることができるように,その人が健康上の条件を整えるのを手助けすることを目的とした,看護婦によって行なわれる秩序ある人間の働きである」と定義。この理論を検証するために,人間の全体性と統合性への意義づけを追求,氏は個人を「生活の流れ」として捉え,この中にこそ人間において看護が成立する領域があり,研究によって記述可能な看護科学固有の対象となる現象があるのではないかと考えるに至ったことを明らかにした。

生活に根ざした看護を再考

 さらに2日間のプログラム最終を飾って行なわれたシンポジウム「生活者の視点から看護を考える」(座長:滋賀医大助教授泊祐子氏,健和会臨床看護学研究所長 川島みどり氏)は,患者・家族と同じ生活者である看護職者が,提供する看護について見つめ直し,提供者と供給者がそれぞれにマッチできるケアとは何かを探ることを目的に開催。看護実践者からは一歩距離をおいた4者が,それぞれの立場での意見を述べた。
 最初に,訪問看護行政から大浦秀子氏(広島県御調町健康管理センター)が,御調町が進めている「お役所仕事」ではないケアの実践の内容をまとめた,地域包括ケアシステムの実践を報告。またリハビリテーション領域からは鎌倉矩子氏(広島大教授)が,「リハビリテーションの創始期は拘束からの解放をめざした人道療法(moral treatment)にあったが,現在のQOL支援はかつて捨てた人道主義を見直したものといえる」,「ADL評価の導入時は看護職,作業療法士,理学療法士とも患者への対応など同じだが,介入段階でそれぞれに違い生じる」と述べ,ADLの自立とQOLの実現についての考えを示した。
 さらに栄養士の立場から尾岸恵三子氏(東女医大看護大準備室)は,患者が理想とする食事像から患者の持つ問題を考える,「食事スケッチ療法」を紹介,人間らしい食生活への援助を通して看護の意味について述べ,田中千鶴子氏(レスパイトケアサービス萌)は,「障害児を持つ親は,保健・医療の面でも常に健常児の親より完璧さを求められている」という現実を語る中から,「生活を援助すること」における問題を提起するなど,患者,看護者がともに生活に根ざした看護を再考する機会となるシンポジウムとなった。