医学界新聞

【看護版特別編集】 「看護界に新しい風」

 日本精神科看護技術協会の考える認定看護婦・看護士制度

 櫻庭繁氏(千葉大学講師・日本精神科看護技術協会常任理事)に聞く


エキスパートナースの養成

櫻庭 日精看では,1970年代からアメリカのCNSなどの情報が入ってくる中で,精神科看護の領域を発展させていくために,専門看護制度の導入を考えていましたが,1985年にその案を初めて出しました。その時の考えや名称も「専門看護婦・看護士」という形でした。その後1987年に厚生省の看護制度委員会が出した答申案を受け,より具体的な提案となったのは,1994年の総会(佐賀大会)です。そして提案が会員に承認され,翌年から認定制度に向けた講習会を実施しています。
 最初から認定制度を考えていたのではなく,基本的には専門看護士ができ,やがてアメリカ並みのCNS制度にいくという考えでした。その間に,看護協会でも専門看護婦の認定制について考えているから,同じ土俵で話し合いませんかと声がかかり,協議を持つようになりました。
 日精看としては,今後の医療の高度化や看護の専門分野に対処できるエキスパートナースを養成しようという考えが根本にあります。CNSについては,日本看護系大学協議会のほうでも進めていますし,おそらく将来の教育は看護大学や大学院で実施されるだろうとの考えがありました。ですから,それよりも会員のニーズの高い,エキスパートナースである認定看護婦・看護士制度に取り組みました。看護協会では専門看護師2年のコースを考えているようですが,大学協議会の考える大学院教育に一任したほうが基本的にはよいのではないでしょうか。ただ,どの専門看護の領域,分野での認定をするかについては,看護協会との協議は必要であろうとは思います。
 看護協会との話し合いでは,アメリカでは様々なCNSがいろいろな看護団体で作ってしまったために混乱を招いた,そういう意味での失敗もあるために,日本で認定制度を作る時には看護界が一本化した形で作ろうという趣旨がありました。

認定看護師との違い

・・看護協会が提示した認定看護師の精神看護領域と日精看が提示した領域には違いがあるようですが。
櫻庭 臨床に即した会員のニーズを基に,現在のところ精神科看護における救急,リハビリテーション,思春期・青年期,老年期という4つの領域を考えました。今後はアルコール,薬物中毒という領域も必要になるだろうと思っています。当面はこの領域に絞って認定作業を進めます。看護協会では,急性期,アルコール等依存症,訪問看護の領域を考えているようですので,領域には若干の違いはあります。
 それと,互いの規則・細則に盛られている目的とする文言に多少の違いがありますが,基本的に両者とも臨床の場における看護ケアの質の向上を大きな目標としていますので,目的とするところに違いはないと言えると思います。
 あとは教育システムに大きな違いがあります。日精看の場合は,講習会等での単位の積み重ねで認定試験の受験資格を取得しますが,看護協会では6か月の集中教育で認定をめざす形です。この集中教育については,日精看では非現実的だという会員からの批判が大きく指摘されました。6か月という長期にわたって病院を空けて講習会に参加というのはほとんど不可能に近いという意見でした。1か月以上看護職員が欠員になった場合には補充しなければならない問題等,病院の状況やその人の置かれている状況を考えますと,看護協会案は非現実的な制度なのではないかという批判です。そこで日精看としては2,3週間参加型の講習会の積み重ねで,認定に向けた教育を実施しようと決めました。
・・認定に必要な単位数と期間は。
櫻庭 必要単位は40単位,15時間を1単位としますから時間にすると600時間で,看護協会と同じです。期間については1年で取れるだろうと考えています。現在も熱心な方が講習に参加していますし,病院からもぜひ資格をと応援を受けている方もいます。ですから,実習を除いてあと2,3の単位を残すだけという受講生が結構いますので,来年早々には認定の試験を行なわなければと思っているところです。
 また,看護協会では認定のための講習を受けるのに入学試験がありますが,日精看の場合には会員を対象に間口を広げ,誰もが講習参加できるようにしています。ただし,修了試験,認定試験はきちんとします。そのために認定委員会を組織し,外部の方々,例えば日本精神病院協会や周辺領域の学識経験者,その他の関係する団体の方々に入っていただいて,認定看護婦・看護士審査会を作りました。

現状に即した認定を

櫻庭 看護協会の考える6か月の集中講習形式ですと,講師や実習施設の問題,さらに専任教員の採用とか,その他諸々の問題が生じてきますので,今の日精看としての状況では現実的には難しい面もあります。それよりは現実的な対応としました。3年前に認定制度を考えた時の看護界を取り巻く社会的状況と,今の状況は違ってきていると私は考えています。
 それが看護協会の専門看護師制度への批判につながっているとみることもできるでしょう。当時は看護婦不足だったため,病院の派遣というかたちで講習に参加できる状況があったと思いますが,6か月の研修となりますと,今では「あなたの勉強なんだから自分の時間とお金で行ったら」というケースのほうが多いのはないでしょうか。また,講習に参加するために病院を退職した場合,現場復帰も難しくなるでしょうし,他の病院への中途採用も厳しい状況だと思います。そういう雇用に対する不安があるだろうと思っています。この認定制度が,診療報酬に反映されるなど,社会的に認められた形になっていけばいいのですが,そうなるには実績評価も必要でしょうから,相当時間がかかると思っています。
 最終的に教育はどちらがいいのかというのは,認定を受けた人たちがどのような活躍をし,どう評価されるかにかかってくると思います。ですから,日精看でもむやみと認定をするというのではなく,そういう意味では認定試験を1つの関門として社会的な認知を受けられる人たちを認定していきたいと思っているわけです。
・・病院から派遣されている方は。
櫻庭 何人かいらっしゃいます。病院のほうでも認定看護婦・看護士に関心があり,ぜひにとの勧めで受けさせているようです。あとは,時代の流れなのでしょうか,日精看の中にも資格を取りたいと思っている人が相当数います。そういった動きをみますと,非常に多くの方が関心を持った制度と言えるでしょう。
 また,医療が高度化し,専門分化する中で精神医療そのものが変わってきています。そういった臨床での現実をみていけば,新たな身分制度ではなく,専門的な知識,技術が必要だと実感するでしょうし,今までのようなジェネラル的な考え方ではもうやっていけないというところを肌で感じているのではないかとも思います。そこから,自分なりに専門性をつかんでいきたいという考えもあるように私は感じています。
 講習会は年に14回開催されます。その講習会の中に,ある程度の単位を取れる科目は設定しています。つまり講習会に参加すると基礎の教育論の部分が2単位取れることなどで実施しています。あとは,4つの専門領域の講習会も開かれていますので,そこで専門科目の単位認定につながります。
・・精神科看護領域の修士修了者が無条件で認定を受けられるということは。
櫻庭 やはり無条件とはいかないですね。試験なり実習は必要でしょうし,むしろその方たちは,専門看護師をめざしてもらったほうがいいと思います。ですから,単位制とは言いましても大学院のカリキュラムあるいは教育プログラムとリンクさせることは考えていません。講習会で単位を取っていただくという形を考えています。
 教育にかかる費用ですが,看護協会の場合には受験料も含め80万ですが,日精看の費用も同じくらいだろうと思います。
・・1病院に認定看護士は何人ぐらい。
櫻庭 協会全体として考えたことはありませんが,私個人の考えでは1病棟1人いれば非常にパワーアップするだろうと思います。それを今後病院の組織の中でどう位置づけていくのかなどについてはこれからの課題です。
 例えば診療報酬の問題がありますが,その前に,賃金をきちんとそれに見合うだけの評価がなされればいいだろうと思っています。実践評価がされれば診療報酬に結びつくと思いますが,そういう意味ではやはり時間がかかると思います。ただ,看護協会をはじめ専門制度などの動きを見ていますと,そうは時間もかからないのかなという思いもあります。
 そういう人たちがいることによって病院のケアの質が向上したり,看護がよくなったという評価が出てこないと,いくら看護協会にしても日精看にしても,社会的な認知というか,評価はされていかないだろうと思っています。ですからこの資格を取った方々にぜひ質の向上につながるケアを実践していただきたいと思います。キュアからケアの時代になった,そのケアの評価の1つの目安として,診療報酬などで評価していただければと思っています。
(1996年6月27日,千葉大学にて)