医学界新聞

【看護版特別編集】 「看護界に新しい風」

 専門看護師・認定看護師制度-その検討から誕生まで



 日本看護協会(見藤隆子会長,会員約43万人:以下看護協会)では,本年5月に「専門看護師」認定試験合格者6名を発表。日本初の「専門看護師」の誕生となったが,個々に至るまでには紆余曲折があった。また,この専門看護師とほぼ並行して検討が続けられてきた「認定看護師」についても,その誕生に向け本年10月より6か月間の教育が開始される。しかしながら看護職全般をみる場合,専門看護師と認定看護師の両者を混同して捉えている面も見受けられ,その考え方,役割認識なが十分浸透していないのもまた現状と思われる。一方,日本精神科看護技術協会(以下日精看)では独自の「認定看護婦・看護士」制度を検討,すでに昨年より認定に向けての教育を始めている。
 本号ではこうした背景を踏まえ,改めて「専門看護婦(士)制度・認定看護婦(士)制度」について考える機会として特集を企画した。看護協会の制度を中心に,これまでの経緯を振り返り,その成り立ちから誕生に至るまでの問題点を整理するとともに,看護協会の考える専門看護師と認定看護師の違い,さらに日精看の認定看護婦・看護士との違いなどを,それぞれの代表者に聞いた。加えて専門看護師5名の声として,(1)現在の仕事・役割について,(2)これからの抱負,(3)同僚・後輩に向けての3点を基準にご執筆いただいた。

 1987年に厚生省「看護制度検討委員会」はその報告書の中で,専門分野で卓越した能力を持つ専門看護婦(士)の育成の必要性を指摘した。これを受けて,看護協会,日精看,日本看護系大学協議会(以下,大学協議会)および看護関連団体などでは,専門看護婦(士)制度およびその目的・役割・領域などについての検討を始めた。
 看護協会では,同年に開催された通常総会を経て会長(有田幸子氏:当時)の諮問機関として「専門看護婦制度検討委員会(委員長=加藤万利子氏)」を設置。検討を重ねた結果,1990年3月31日付で会長宛に答申(報告書)を提出。この「専門看護婦制度についての試案」は,同年7月に会員検討資料として公表された。

専門看護婦制度についての試案

 ICN(国際看護婦協会)の見解などを参考にしたとされる看護協会の試案(1990年7月)の概要は以下の通り。
【専門看護婦の必要性】(1)近年看護の分野は一層拡大し,多様化してきている状況にあって,看護婦(士)に万能を期待することは困難,(2)必要とされる特定看護領域に専門看護婦(士)を1病院1領域に1~2名を置く,(3)看護実践をやりたいと考えている人に目標となるものが必要,(4)会員の資質の向上に寄与し,社会的評価を得られるような認定制度の意義は大きい。
【役割】(1)専門看護領域において,他の看護婦(士)モデルとなるような看護を実践する,(2)教育的支援をする,(3)保健医療チームメンバーへのコンサルテーションを行なう,(4)研究活動を通して,自己の専門知識・技術の向上,開発を図り,実践の場における研究活動を支援する。
【専門看護の領域】(1)小児看護,(2)精神看護(リエゾン精神看護),(3)救急看護,(4)腎不全患者看護(臓器移植患者のセルフケア),(5)脳卒中患者看護(リハビリテーション),(6)がん患者看護(ターミナルケア)
【教育について】専門看護婦(士)は,将来,大学修士課程に位置づけるのが望ましいと考えているが,教育の現状を見た時必ずしも満足できるものではない(当時の看護大学は11校,大学院は4校)。したがって当面の間,これに匹敵する教育課程を別途作る必要がある。教育期間は2年を基本とし,1年次基礎課程の修了者を「専門看護婦(士)補」として位置づける。受験資格者は保健婦,助産婦,看護婦(士)資格取得後5年以上の実務経験を必要とする。
【認定について】2年の専門看護課程の修了者,あるいは専門看護婦(士)育成の修士課程修了者に対して認定試験を行なう。認定に関する試験,認定書の発行は看護協会が行なうが,5年ごとの更新とする。
【位置づけ】認定された専門看護婦(士)が,その役割効果を発揮できるためには,従来からの看護管理システムの再考が望まれる。少なくとも看護部のスタッフ部門的位置にあって,教育,コンサルテーションの役割がとれるような活動が望ましく,その力量によっては管理職と同等に位置づける。専門看護婦(士)補は,その専門看護領域において,スタッフあるいは学生の指導を担う位置づけが望ましい。

専門看護制度から資格認定制度へ

 その後,この試案をもとに各県協会レベルでの検討が進められる一方,通常総会の場でも議論が重ねられ,1991年度の通常総会で議案「専門看護婦(士)制度試案について」を提出,可決された。翌(1992)年の通常総会では「専門看護婦(士)制度」の表記では保助看法に定める「免許制度」と混乱するとして,「専門看護婦(士)資格認定制度」と表現を改めた。また,1年次修了時点の「専門看護婦(士)補」についても見直しを図ることとなった。
 そして1993年1月12日付で「専門看護婦(士)制度推進検討委員会(委員長=加藤氏)」が,報告書を有田会長宛に提出し,同年の通常総会で公表された。その中で,専門分野として前述の6領域に加え,老人,感染,地域看護が時代の要請でもあるとしてあげられた。このうち実現可能であるとともに緊急度が高いことから,「クリティカル看護」「がん看護」「感染看護」の3領域の具体的カリキュラム案を提示,課題として専門看護婦(士)認定にまつわる諸条件を整える委員会の設置を提言した。なお,その他の実現に向けて提言された内容は以下の通りである。

専門看護婦(士)制度推進検討委員会報告書

【専門看護婦(士)の定義】ある特定の看護領域において卓越した看護実践能力を有することが認定されている看護婦(士)をいう
【教育について】1,2年次の分離案から,2年制1本案として進めることになり,看護協会研修センターの充実化とともに,教育機関も厚生省看護研修・研究センターとの2本化を提示,当面は前者のみで実施するとした。
【カリキュラム】教育目標を明確に設定,これを到達目標とし,教育内容を(1)専門看護婦(士)共通科目8単位,(2)臨地実習を含んだ専門科目28単位を設定した。
【専門看護婦(士)資格認定制度実現に向けての提言】看護にまつわる社会情勢は大きく変化している。急進する看護教育の大学化,また関連学会の動き等をみると,将来に禍根を残さないような認定制度を考える必要がある。そのために,(1)専門看護婦(士)認定にまつわる諸条件を整える委員会の設置,(2)カリキュラム試案は大枠を示したにすぎず,実現にあたっての具体的なプログラム等については準備室を設け,専門看護婦(士)にまつわる一切の業務を行なう部門の設置を提言している。
 この報告の背景には,看護教育の急速な大学化がうかがえるのが特徴といえる。そのためには,将来を十分に見越した適切な専門看護婦(士)の出現をめざす必要があるとして,前回試案に検討を加え,専門看護婦(士)の定義を明確にし,役割についても一部の修正を行なうなど,資格認定制度の実現に向けての提言もしている。
 なお,同年の通常総会を経て「専門看護婦(士)資格認定制度検討委員会(委員長=南裕子氏)」が発足し,その後,課題に対しての検討を重ねることになる。

資格認定制度の問題点

 しかしながら,その後の土台となったこの案には様々な点で疑問視する声があった。例えば,見直しが図られたものの「基本とされた専門領域の6分野は医学のカテゴリーに沿った分類であり,看護の視点から見た分類ではない」とする意見は主に看護の有識者の間で強かった。方向性に反対ではないものの,「医学に追従する専門看護婦制度ではなく,看護独自の分類を模索するべき」という批判もあった。また,「新たな差別階層を作ることになるのではないか」という懸念は,通常総会において現在なお繰り返される意見として根強く存在しているが,この意見は「看護制度」と「専門看護婦(士)資格認定制度」を混同した意見とみることもできよう。
 「専門看護婦(士)制度」自体は,ここまで看護が大学化する以前に出されたものであるが,2年間の教育1本化,修士課程と同等に結びつけるなど,大学化の影響を余儀なくされ,これがまた「現場の看護職に直結する制度ではない」という危惧感を抱かせる結果ともなった。大学化が進んでいるから専門看護婦なのか,現場の質を向上させるための専門看護婦なのかという点,また教育機関が東京に一極集中していることから,地方の看護職には利点がないことも指摘されていた。

専門看護婦(士)から専門看護師へ

 1994年1月31日付で,専門看護婦(士)資格認定制度検討委員会は,見藤隆子会長宛に報告書を提出。制度発足の提案が同年の看護協会通常総会に議案として提出。審議の結果「専門看護師」として新たな制度となり,1995年より認定を開始することがうたわれた。その概要は以下の通り。

専門看護師資格認定制度

【目的】複雑で解決困難な看護問題を持つ個人・家族や集団に対して,水準の高い看護ケアを効率よく提供するための,特定の専門看護分野の知識,技術を深めた専門看護師を社会に送り出すことにより,保健医療福祉の発展に貢献し合わせて看護学の向上を図る。
【役割】専門看護師とは,ある特定の専門看護分野において卓越した看護実践能力を有することが認定された看護職に携わる者をいう。専門看護師とは,専門看護分野において実践,教育,相談,調整,研究の役割を果たす。
【現在考えられる分野】(1)小児看護,(2)精神看護(リエゾン精神看護),(3)急性期患者看護,(4)慢性期患者看護,(5)リハビリテーション看護,(6)がん患者看護,(7)母性看護,(8)ターミナルケア,(9)地域看護,(10)老人看護,(11)感染看護。
【専門看護師認定試験の受験資格】(1)日本看護協会専門看護師2年課程(仮称)で特定の専門看護分野の所定の単位を取得した者,(2)看護系大学大学院修士課程修了者で特定の専門看護分野の所定の単位を取得した者,(3)保健婦(士),助産婦,看護婦(士)のいずれかの免許を持ち,看護学以外の関連領域の大学院を修了した者では,(1)または(2)において必要単位をさらに取得した者で,保健婦(士),助産婦,看護婦(士)の資格取得後,実務経験が通算5年以上(そのうち特定分野の経験が通算3年以上)の者。
【名称】この制度の検討過程では,仮称として専門看護婦(士)という名称が用いられてきた。しかし,専門看護婦(士)には,当然保健婦(士),助産婦,看護婦(士)が含まれることから,誤解を招かないためにも免許や性別を越えて包括する名称が必要であると考える。専門看護婦(士)が今後保健医療福祉の分野で果たす役割を考えれば,“婦(士)”の代わりに医師,歯科医師等と同様に「師」を含む専門看護師という名称を使用することを提言する。
【育成について】専門看護師の教育については,将来大学院修士課程に位置づけるのが望ましいと考えているが,専門看護師の育成が看護の質を高め,会員の向上心を高めるという考えから,当面看護協会が専門看護師の育成を行なうことを提案する。なお,教育期間は2年とし,育成が急務とされる分野として,感染看護,がん患者看護,急性期患者看護の3分野をあげた。

認定看護婦(士)の検討

 1994年度の通常総会では,前述の「専門看護師資格認定制度」案の提出とともに,「認定看護婦(士)認定制度」の必要性が唱えられ,この制度に関する検討について審議された。カリキュラムモデルが提示され,総会決議の上,検討が開始されることとなった。この議案の概要は以下の通り。

認定看護婦(士)資格認定制度

 専門看護師について関心やニーズが高まりその実現が期待される一方,看護現場では,特定の看護分野において熟練した看護技術と知識を用いて高度な看護を実践できる看護婦(士)へのニーズは高い。また看護関係の他団体や学会が独自にそのような看護婦(士)を育成し認定しようとする気運が高まっている。このような現状から,看護現場における実践の向上に寄与できる者を認定する制度を持つ意義は大きい。
【資格認定制度(仮称)の必要性】(1)看護現場では,より高度化専門分化する医療や多様化するヘルスケアニーズに対応できる熟練した看護実践者の必要性が高いにも関わらず,熟練した看護婦(士)を評価する体制が整っていない,(2)会員が看護現場で充実感や満足感を得,看護職として誇りと自覚を持ちながら役割を果して自己研鑽していくためには,そのための制度を設けることが必要である,(3)看護関係の団体や学会においては,独自に特別な看護分野における熟練した看護技術と知識を持つ看護婦(士)を育成し,認定しようとする気運が高まっていることからその要請に応える必要がある,(4)特定の看護分野における臨床経験を通して,熟練した看護技術を持つ者を評価し,さらに必要な知識を修得することによって,看護現場における実践の質の向上に寄与することのできる者を認定する制度を持つことの意義は大きい。
【定義・役割】特定の看護分野において,(1)個人・家族や集団に対して熟練した看護技術を用いて,高度な看護を実践する(実践),(2)看護実践を通して他の看護職者に対し指導を行なう(指導)。
【育成と認定が考えられる特定分野】感染管理看護,救急看護,ICU/CCU看護,手術室看護,透析患者の看護,精神科服薬援助看護,精神科訪問看護,精神科急性期看護,ストーマケア,難病地域ケア,アルコール依存症者地域ケア,思春期問題地域ケア,救急助産,妊産婦スポーツ指導,疼痛緩和看護,失禁コントロール看護。
【教育】(1)教育期間は6か月,(2)教育課程の受験資格は,保健婦(士),助産婦,看護婦(士)の免許取得後,通算5年以上の実務経験が必要で,そのうち3年以上は特定看護分野の経験を有すること。
【認定】(1)認定看護婦(士)は前述の6か月の教育課程の修了者に対して認定試験を行ない,その結果認定される,(2)看護協会会員であること,(3)認定は終生のものではなく,何らかのかたちで5年ごとに更新する。

認定看護師制度の発足

 1994年度の看護協会通常総会で可決された「認定看護婦(士)資格認定制度に関する検討について」を受け,その発足に向けて検討を重ねてきた「認定看護婦(士)資格認定制度検討委員会」は,1995年1月31日付で報告書を提出。同年5月の通常総会で,「認定看護婦(士)制度試案について」を公表,議題として提出した。名称も認定看護婦(士)から,専門看護師と同様に認定看護師とすることが盛られた。同総会にで決議承認の上,同制度が発足。その後「認定看護師制度委員会」「認定看護師認定委員会」を設置がされた。

認定看護師制度試案

 特定の看護分野において熟練した看護技術を用いて水準の高い看護実践のできる看護婦(士)の育成が強く望まれている。実践を通して看護職として誇りと自覚を持ちながら役割を果して自己研鑽していくためには,そのための制度を設けることが必要である。他の看護関係の団体や学会では,独自に育成し,認定しようとすでに準備を開始した組織がみられる。このような状況から,看護協会が認定看護師制度を設ける意義は大きい。
【役割】特定の看護分野において,(1)実践,(2)指導,(3)看護職者に対しコンサルテーション(相談)を行なう。
【認定する看護分野の特定する原則】(1)3~5年の臨床経験で得る知識や技術を越える,特定の知識や技術を持っていること,(2)他の看護分野との重なりや競合することがあったとしても,独自の知識や技術を持っていること,(3)今後,特定されるであろう看護分野を想定しても,独自の体系が維持できること,(4)何らかの法的支援や経済的支援があり,すでに実績があること。
【他の看護関係の組織との連携】(1)看護協会は,認定看護師の育成および認定に関して,他の看護関係の組織と協同して行なうことがある,(2)本協会が育成および認定する看護師と同等の資格を独自に認定する他の組織とは,水準を均一にする努力を行なうために協議機関を設ける。
【開始時期】認定看護師の育成および認定は準備が整った看護分野から開始する。
【育成】(1)教育期間は6か月,(1)教育課程の総時間数は600時間
【教育機関】(1)看護協会看護研修センター,(2)認定看護師の教育機関として適切であると認められたもの。
【教員】教員の資格は,(1)その看護分野の看護系大学大学院の修士課程以上を修了し,高度な看護実践力を有する者,(2)認定看護師の資格を有し,上記と同等以上の能力を有する者。配置については,専任の教員が必要であり,各看護分野ごとに主となる教員とそれを補佐する教員を適正に配置する。具体的な配置については検討課題。また必要時に非常勤講師を置く。
【育成が急務な看護分野】(1)ET看護,(2)救急看護,(3)クリティカルケア看護,(4)周手術期看護,(5)訪問看護,(6)ケアマネージメント,(7)がん性疼痛看護,(8)感染管理看護。このうち(2),(6)について平成8(1996)年度より育成を開始する予定。

専門看護師の誕生

 専門看護師の誕生に関しては,認定看護師より一歩先んじ,1995年7月の看護協会理事会で「専門看護師・認定看護師認定室」の設置を承認。8月には看護協会看護研修センター内に同認定室(室長:富律子氏)が設置された。
 また,同年11月の理事会において,専門看護師制度の専門看護分野について申請が出されていた「精神看護」「がん看護」が特定される。特定の用件は資料(専門看護師規則・細則)および図2を参照。この2分野についての認定試験の実施要項〔(1)書類審査(締切=96年1月31日),(2)筆記試験・口頭試問(書類審査合格者のみ),試験日=4月13日〕が12月に発表され,本年要諦どおりに実施された。そして,同年5月に開催された通常総会において初の認定専門看護師6名(精神看護分野2名,がん看護分野4名)が発表された。
 なお,専門看護師の教育については,兵庫県立看護大学(南裕子学長)が本年7月に,専門看護師養成の大学院設置認可を文部大臣宛に申請していることを明らかとした。これによると明年4月の開設で,入学定員は25名を予定している。

認定看護師の誕生

 認定看護師については,1996年2月の理事会で認定看護師の専門分野について,「救急看護」「創傷・オストミー・失禁(WOC)看護」の2分野を特定。10月からの教育実施が示唆された。同6月に,認定看護師教育の入試要項が公表され,前述2分野で(各コース20名定員)入試による選抜が8月2-3日の両日実施された。
 なお,教育期間は10月より6か月間。研修会場(実習を除く)は看護協会看護教育・研究センター(研修センターより7月に改称)。費用は,入学選抜料5万円,授業料65万円,実習費10万円,計80万円。