医学界新聞

将来へのビジョンを持って臨みたい

在沖縄アメリカ海軍病院でのインターン研修

朴 勝大(在沖縄アメリカ海軍病院1996年度シニアインターン)


 沖縄県北谷町のキャンプレスター内にある在沖縄アメリカ海軍病院は,海外にあるアメリカ海軍病院の中では180床と最大規模を誇る。ここで日本人インターン制度が始まったのが5年前。私たちは6期生ということになる。横須賀の海軍病院に比べるとまだまだ歴史は浅いが,卒業生のほとんどがECFMGの資格を取得しており,現在アメリカでレジデントとして研修している先輩方も少なくない。
 いまも6名のインターンが研修を受けているが,それぞれに海外飛躍の夢や,より優れた教育に触れたいとの熱意を持っており,お互いに触発を受けることが多い。
 海軍病院での研修を考える医学生の皆さんの何らかの参考になればとの思いで,私たちインターンの立場から見た研修プログラムの実際と,メリット,デメリットを考えてみたい。

北米式研修の魅力

 この病院でのインターン研修は1年間。最初の6か月で内科,一般外科,小児科,産婦人科,家庭医学,救急医学の6科をローテートし,残りの5か月間は前述の6科に加えて整形外科,泌尿器科,耳鼻咽喉科,眼科,脳神経外科,精神科,放射線科,麻酔科,新生児室などの各科の中から,好きな科を選んで2週間または4週間単位でローテートすることになる。
 各科とも短期間での研修であり,特定の科について深く学ぶことは難しいかもしれないが,各科における要点や,検査方法などをおおざっぱにつかむことは十分可能である。
 このプログラムの最大の利点としては,英語で北米式の研修が受けられることにつきるだろう。英語で患者さんを診て,英語でカルテを書き,英語で指導医とディスカッションをする。アメリカ人にとってあたり前のこととはいえ,私たち日本人はかなりの苦労を要する。日本の医学がいかに優れているといっても,国際的な場においては英語が共通語として使われている。英語を使いこなせる利点はいくら強調してもしすぎることはない。将来海外への飛躍を考える人にあってはなおさらだろう。
 残念ながら,今の日本の教育システムの中で十分な英語力を養うのは至難の業である。USMLEの試験科目には,英語で患者さんの病歴や理学所見をとる能力を見るクリニカル・スキル・アセスメントが近いうちに加えられそうな動きがある。そういう中にあって,英語で英語で北米式の研修が体験できるこのプログラムはますます貴重になっていくだろう。

インターン研修の実際

 インターンの1日は朝のモーニングレポートから始まる。7時30分になると回診を終えた(途中のこともある)インターンたちがカンファレンスルームに集まってきて,前日の当直(4日に1度)のインターンが,その日にあった入院患者さんについてプレゼンテーションするのである。毎朝4~7名程度のアメリカ人医師も出席し,プレゼンテーションの方法をはじめ,1つひとつの症例のポイントや治療方針などについて,ディスカッションしながら指導してくれる。
 ある意味で,このモーニングレポートこそが,私たちの英語力やプレゼンテーションの技術,そして臨床医としての能力を培う上で中核をなしていると言えるかもしれない。5月1日からこのモーニングレポートが始まったのであるが,その後の3か月間で,プレゼンテーションの要領,正確さ,ディスカッション内容と,インターン1人ひとりが大きく成長していることを感じずにはいられない。
 モーニングレポート終了後は,各科に分かれて外来や病棟で患者さんを診ることになる。外来では,インターンがまず患者さんの病歴聴取や診察を終えた上で,鑑別診断や検査,治療のプランを立て,指導医の前でプレゼンテーションし,ともに患者さんを診た上でその疾患について話し合うというスタンダードな形式がとられることが多い。アメリカ人に囲まれ不十分な英語で患者さんを診ていくのは時につらいこともあるが,それを忘れさせてくれるような親切で教育熱心なスタッフ,そして患者さんの存在に励まされながら,それぞれに英語力の向上と医師としての実力向上に努力を重ねている。
 私たちの指導にあたるスタッフの中には,アメリカでいうレジデントを終えて間もない若手の医師たちが多くいる。レジデントを終えたばかりといっても,彼らの医学的知識の正確さと教育への姿勢には目を見張るものがあり,彼らを通して様々な知識を身につけさせてもらっている。上のレベルの医師から教育を受ける中で医師としての能力を磨いてきた彼らにとって,「教える」という行為は当然のことであり,人によっては喜びでもあるようだ。
 またこの病院にはナースやコアマン(衛生兵)をはじめとするコメディカルの人々が多く働いている。彼らの専門分野に対する知識と技術は大変優れていて,私たちインターンの質問にも懇切丁寧に答えてくれる。
 それでは海軍病院における研修のデメリットとしてはどういうものがあげられるだろうか。まずは1年間という限られた期間や,若い患者が多いことによる疾患の偏りなどがあげられよう。また,何といっても私たちはアメリカの医師免許を持っていないインターンであるため,十分に責任を与えてもらえないこともあり,物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
 全体としては,日本の研修医に比べて時間の余裕があり,自分の努力次第でUSMLEの勉強やスキューバダイビング等の趣味の時間を持つことも可能である。このプログラムは,次の飛躍のためのステップと位置づけるのが適当と言えるかもしれない。

インターンに求められるもの

 このプログラムに入るために何が必要なのかを考えてみたい。
 何よりも重要なのは,当然英語力である。帰国子女のような英語力が要求されることはないが,最低限自分の言いたいことを確実に伝えるくらいの英語力は必要であろう。病院英語ということもあり,学生時代に英語の教科書で勉強することやUSMLEの試験に挑戦することがもたらす利点はいくら強調してもきりがない。
 次に大切なことは,将来へのビジョンを持って,研修に来ることであろう。
 このプログラムに携わるスタッフが口を揃えて言うことだが,「テストで点が取れる医師と優秀な医師は違う」。彼らは,「筆記テストで1番であっても面接で人間性に問題があれば採用しない」とはっきり言う。ここでトレーニングを受けた日本人インターンが,将来日本やアメリカ,また世界を舞台に,医学の向上のため,病める人のために活躍していくことこそが彼らの願いであり,私たち現インターンの願いである。
 以上,長々と述べてきましたが,私個人としてはこの病院に来て本当によかったと思っています。来年以降も,志と熱意を持った優秀な皆さんが研修を受けにくることを楽しみにしています。