医学界新聞

IMIC公開セミナー「突然死予防の最前線」
心臓突然死の予防に医師は何をすべきか


 年間5万人を超えると言われる突然死の多くは,冠動脈硬化症に基づく心筋梗塞や狭心症,致死性不整脈による心臓突然死と言われている。その突然死をテーマに,さる6月25日,国際医学情報センター(IMIC)主催の公開セミナー「突然死予防の最前線」が,コーディネーターに小川聡氏(慶応大教授)を迎え野口英世記念館で開催された。
 まず「剖検例からみた突然死の実態」を徳留省悟氏(東京都監察医務院部長監察医)が報告。「突然死」の定義が現在あいまいであることを指摘し,同医務院で扱った東京都の突然死の実態調査によると,「23区内だけで年間約4000件発生。日常動作では“就眠中”が最も件数が多く,“入浴時”が数字では2位だが生活時間と頻度で割り出した危険率は群を抜いてトップである。既往歴のある患者群で突然死を起こした例では虚血性心疾患44%,脳卒中が20%である」と述べた。また突然死の剖検例をみると,50%以上閉塞した左冠動脈前下行枝における粥状硬化狭窄病変が最も多く,30-40代から著明に増加すると報告した。
 危険率が高い入浴中の突然死は6年間に2,559件(溺死,熱傷含む入浴中事故死3,100人中)発生していると発表。日本で入浴中の事故死が多い理由に,肩までつかる日本独特の入浴法と,湯水が高温であることが心臓に過度の負担をかけ,事故の危険率を高くしていると指摘した。

PTCAの限界を乗り越えるために

 次に「虚血性心疾患の治療-冠動脈形成術の進歩と遺伝子治療への展望」をテーマに朝倉靖氏(慶応大)が登壇し,新しい冠動脈疾患の治療法を中心に報告した。
 急性心筋梗塞はその40%が死に至り,その多くが突然死である。1977年グリュンツィヒがPTCAを確立し冠動脈疾患治療が一新した。しかしPTCAの最大の問題点である再狭窄は,(1)elastic recoil(PTCA後血管が拡大した部位が縮むと内腔が狭くなる現象),(2)冠動脈内血栓,(3)冠動脈解離,(4)平滑筋細胞増殖,(5)血管再構築(vascular remodeling: PTCA後に平滑筋細胞増殖があまりなくても血管サイズが縮む現象)が原因と検討されているが,克服はされていない。
 近年,PTCAの欠点を補うべく開発された様々な冠動脈形成術は,総じてnew deviceと呼ばれ,ステント,アテレクトミー,レーザー,cutting baloonなどがそれに当たる。朝倉氏は,「new deviceの効果として,PTCA不適例に施行できること,症例ごとに適切な手技が選択できる,成功率の向上,合併症の回避,緊急手術時の死亡率減少があげられるが,その反面,ステントの血管内脱離,血栓性閉塞,出血性合併症など新たな合併症が発生する可能性があり,また,患者1人に数百万円と費用がかかり,医療費がかさむ」と問題を指摘した。また,薬物による心筋梗塞の血栓溶解療法の効果についても報告した。
 同氏は,再狭窄を解決するには最終的に遺伝子治療導入が必要との見解を示し,「そのためには,(1)再狭窄に関与する遺伝子の解明,(2)どの手法を用いるか,(3)倫理問題をクリアしなければならない」と述べた。

不整脈治療イコール突然死予防ではない

 「致死性不整脈の予防-薬剤による突然死予防の現状と非薬物療法の最先端」と題して三田村秀雄氏(慶応大助教授)が報告。心室細動(VT)患者はほんの数分で転帰するため,救急車で病院に搬送される前に死亡するケースが多く(東京都では通報から病院到着までの平均時間は20分),VTの確実な予防が重要と述べた。
 また,VTの代表的な主訴は動悸,めまい,失神であるが,動悸が主訴である患者はば循環器科を受診するが,めまい,失神が主訴である場合には神経内科を受診し,特に危険であるめまいを伴うVTが見逃されてしまう可能性があると指摘した。
 三田村氏はまた不整脈治療の研究の流れについて次のように述べた。突然死の多くは致死性不整脈患者に発生することから,不整脈治療が突然死のリスクを軽減すると考えられ,かつて抗不整脈薬による心室期外収縮抑制を検討する大規模比較試験CASTが行なわれた。その結果,抗不整脈薬Ic群投与患者の予後が悪く,「抗不整脈薬が増悪因子」と皮肉にも結論づけられた。また効果が期待されたIII群薬アミオダロンは,慢性腎不全と不整脈患者を対象とした大規摸試験を行なったところ,不整脈自体は治療したが突然死を抑制できないことが判明した。
 心筋梗塞後+心機能低下例にⅢ群薬α-ソタロール投与の大規摸試験を施行,CAST同様,投与群が予後悪化という結果に終わった。これらから,「不整脈治療イコール突然死予防」では決してなく,むしろ増悪因子で突然死を引き起こす可能性が報告され,この事実は世界中に衝撃を与えた。その一方,β遮断薬による突然死抑制効果が報告され,またACE阻害薬でも突然死発生率低下の報告がある。
 抗不整脈薬療法が諸刃の剣であることから,不整脈起源を高周波による熱で焼却する高周波アブレーションや外科的切除(Maze手術)が試みられ,また,体内に装置し心室細動を治療するICD(埋め込み型除細動器)に期待が寄せられている。大規摸試験の結果,ICD着用の突然死ハイリスク患者ではほぼ100%の突然死を防ぎ,VTがたとえ起きても確実に治療でき,副作用がほとんどないことが報告されている。しかし三田村氏は,ICDは心不全患者には効果がなく,保険適応でないため費用は200~300万円かかり,既往患者には適切な治療法だが,健康人の突然死予防にはならないことを付け加えた。