医学界新聞

「第28回日本結合組織学会学術大会」を主催して

 中西功夫(第28回日本結合組織学会学術大会会頭,金沢大学教授・病理学第1)


 さる6月6-7日の両日,金沢市文化ホールを会場に第28回日本結合組織学会学術大会が開催された。
 本学術大会は,第5回大会を本大学皮膚科の福代教授が,また,第10回大会を同じく病理学の梶川教授が主催しているので,今回の28回学術大会は18年ぶりに金沢の地において行なわれたものである。
 好天に恵まれ,約400名におよぶ各界の結合組織の研究者が集い,A,B会場の2会場で終日熱気のこもった発表と討論が行なわれた。

MMPに関する国際ワークショップ

 第1日目,A会場においては,清木元治教授(金沢大がん研)と岡田保典氏(金沢大がん研教授)の司会による“Recent Progress in MMP Research”を主題とする国際ワークショップが行なわれた。招待演者としてMurphy氏(Strangeways Research Laboratory教授),Chen氏(ジョージタウン大教授),Werb氏(カリフォルニア大教授)を迎え,両司会者と伊東晃氏(東京薬科大生化学)が加わる形で,最新のMMPに関する研究成果が発表され討議された。
 MMP(マトリックスメタロプテアーゼ)は生体の恒常性の維持に関与しているのみならず,Ⅳ型コラゲナーゼ(72KDaゼラチナーゼ/ゼラチナーゼA)やMT-MMP(膜型MMP)の発見,TIMP-1,2,3によるMMPの制御,複合型や活性型の酵素が細胞外マトリックスの破壊・修復を調節していることなどが示された。特に,癌の浸潤・転移をターゲットにした研究戦略の1つに位置づけられていることが印象的であった。

Liotta教授による特別講演

 第1日目午後,A会場では私の会頭講演「細胞外マトリックスと癌の接点」に引き続き,Lance A. Liotta氏(NCI教授)による特別講演“Molecular Mechanisms of Cancer Metastasis”が行なわれた。
 Liotta氏はIV型コラゲナーゼの癌浸潤における役割および癌の浸潤,転移に関する接着・分解・運動の三段階説を提唱した病理学者であり,今回は癌細胞のgenetic instabilityとmotilityに関する研究アプローチが紹介された。癌細胞の浸潤先端細胞群をレーザー光線で切り取り,これを解析して浸潤能と関連する遺伝子の同定,遺伝子異常を乳癌,前立腺癌で行なった実例を示し,満員の聴衆を魅了した。
 またmotilityに関しては癌細胞表面に起こるリン酸化反応の重要性を示した。癌転移抑制遺伝子nm23(NDPキナーゼ)がリン酸化反応を通してミクロツブルス(microtubule)の集合を制御し,またG蛋白と結合,活性化することでシグナル伝達,続いて細胞運動に連動している可能性を示唆した。

公募型ワークショップ「動脈硬化と細胞外マトリックス」

 第2日目午後には,今回初の試みである公募型ワークショップが大山俊郎氏(東邦大教授・臨床生理機能)と大島章氏(和歌山医大教授・病理)の司会で行なわれた。
 公募に応じた13題のうちから5演題(演者は北陸大薬学の平賀祥一氏,防衛医大皮膚科の多島新吾氏,都老人研の山本清高氏,山梨医大病理の山根徹氏,和歌山医大病理LiQing氏の5人)が選ばれ,血流圧に耐える管腔にどのような増殖・制御因子が働いており,これらは互に細胞外マトリックス成分をどのように調節しているのかについて討論された。

吉岡氏と藤原氏が大高賞受賞

 第5回大高賞は吉岡秀克氏(岡山大助教授・分子医化学)の「ヒトXI型コラーゲンα1鎖遺伝子プロモーターの構造と機能解析」,ならびに藤原作平氏(大分医大助教授・皮膚科)の「450KDaヒト表皮自己抗原の同定」に授与された。
 両氏の研究内容はいずれも国際的に高く評価されており,選考委員会(委員長=弘前大教授 遠藤正彦氏)では満場一致で推薦されたものである。受賞講演は2日目午後に行なわれたが,学術内容のみならず,真摯な研究者らしい人柄が伝わり,将来の学会を担う人材であるとの評判であった。

各種のワークショップ

 その他のワークショップでは,第1日目に,林利彦氏(東大教授)の司会による「細胞外マトリックスの構造と機能を解明する上での細胞培養法の意義」,岩田久氏(名大教授・整形外科)と藤井克之氏(慈恵医大教授・整形外科)の司会による「軟骨細胞とサイトカインレセプター」が行なわれた。いずれの演者も実務専門家であり,具体的な内容と討論で,時間の短いのが残念という思いであった。
 第2日目の午前には木田厚瑞氏(都老人医療センター呼吸器科部長)と福田悠氏(日本医大教授・病理)の司会による「肺におけるマトリックス研究-臨床と基礎の接点」と題するワークショップが5名の演者によって行なわれた。
 この中で招待演者のWang氏(カリフォルニア大教授)は“Remodeling of Lung Matrix in Disease”と題して自身の豊富な経験の中から肺線維化の形態学的解析を美しい写真で示し,聴衆に深い感銘を与えた。
 また,74題におよぶ一般演題はすべて口頭発表であり,討論が熱心になされた。
 金沢では珍しいほどの青空と初夏の風の中で,早朝の街の散策をし,その後会場の熱気を肌で感じて充実した2日間を過ごした方が多かったことであろう。来年は弘前市の弘前文化センターにおいて6月5-6日の両日,遠藤正彦会頭(弘前大教授)のもとで開催されることが決定している。