医学界新聞

糖尿病性腎症透析患者の問題で論議

第41回日本透析医学会開催される



 第41回日本透析医学会が,さる7月5-7日の3日間,前田憲志会長(名大教授)のもと,「基礎科学の応用と基礎科学への発信」をメインテーマに,名古屋市の名古屋国際会議場で開催された。
 15万人を超えるとされる透析患者の中には,20数年に及ぶ長期症例も増加している。教育講演「長期透析患者の問題点」(信楽園病院顧問 平澤由平氏)ではこの問題に焦点が当てられ,また,生命予後が不良なことから社会問題視されている「糖尿病性腎症透析患者」については,シンポジウムやワークショップで取り上げられた。
 なお学会では,教育講演7題,シンポジウム3題,パネルディスカッション,ワークショップ12題,カレントコンセプト2題,およびEnglish session 4題の他,一般演題1406題(ポスター含む)が行なわれ,医師,看護婦の他,臨床工学技士,栄養士からも多くの発表がなされた。

長期透析患者の問題

 透析医療機器,透析療法の技術進歩に伴い透析患者の生存率は向上し,患者の高齢化の問題とともに,在宅療養,要介護透析など新たな課題も増えてきている。
 平澤氏は教育講演の中で,「透析に特徴的な敗血症やB型肝炎などの合併症は,ダイアライザー等の透析医療機器の発展によりなくなり,平均余命は上がった」と述べ,これからの透析療法の課題として,(1)余命の延長(国民の平均余命の50-70%に),(2)QOLの向上(苦痛の軽減,合併症対策,福祉対策),(3)腎移植の普及をあげた。
 また,看護部門の中で長期透析患者との関わりを発表した大坪はるみ氏(西部腎クリニック)は,「長期透析患者は看護婦よりも透析に関することを知っているため,看護婦が患者に不信感を与えることもある。これは透析看護の経験年数が5年以下の看護婦が多いことが一因」と指摘した。

増えている糖尿病性腎症透析患者

 シンポジウム「糖尿病性腎症透析患者の問題点と対策」(座長:阪市大病院長 森井浩世氏,慈恵医大教授 川口良人氏)では8人が登壇し,意見を述べた。
 統計調査から糖尿病性腎不全患者の透析の現況と予後規制因子の解析を行なった中井滋氏(名大分院)は,「1984年末の透析人口に占める糖尿病患者の割合は8.4%であったが,1994年末の割合は19.2%と,10年間に倍増した。一方,1983年以降の糖尿病透析患者の5年生存率は,慢性糸球体腎炎患者に比べ低い」と指摘するとともに,筋肉療法と制限食療法の併用で死亡リスクが低下することを,糖尿病患者群と非糖尿病患者群のクレアチニン産生速度の比から実証した。
 また吉川隆一氏(滋賀医大教授)は,「失明,虚血性心疾患などの合併症を有している糖尿病患者の透析導入後の生存率は極めて悪く,腎症の発症や進行を抑えることが急務」であるとし,腎症の治療法として,(1)血糖コントロール,(2)血圧管理(降圧剤投与),(3)蛋白制限食,(4)薬物療法をあげた。吉川氏は,「降圧剤の投与により腎症の進展が阻止される。また蛋白制限食は,血圧,血糖管理より腎症の進行阻止には有効であるが,コンプライアンスがよくない」と述べ,糖尿病性腎症透析患者に関する問題には,糖尿病専門医と透析専門医の協力体制が必要であると示唆した。
 さらに市川一夫氏(社保中京病院眼科部長)は眼科医の立場から発言。「糖尿病性腎症透析患者の増加により,眼科での糖尿病性網膜症に対する硝子体手術と白内障に対する手術が増加している」ことを指摘,「9割が網膜症とのデータもあり,網膜症の有無に関わらず,透析患者の糖尿病がわかった時点で眼科を受診させる必要がある」と,透析専門医との連携を強調した。
 フロアからは,「総合病院以外などでは透析専門医だけがいるのが日本の現状。その中で透析専門医と糖尿病専門医との連携は難しい」との発言があり,またシンポジストの中尾俊之氏(東京医大助教授)は,「糖尿・腎臓病学」の必要性を訴えた。
 総会では,佐藤威理事長の退任に伴い森井浩世氏が新理事長に就任したこととともに,次回は明年7月18-20日の日程で,阿岸鉄三会長(東女医大腎センター教授)のもと,札幌市で開催される旨報告された。