医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


臨床場面に即した精神科看護過程の手引き

精神科看護 看護診断とケアプラン 川野雅資 編集

《書 評》北島謙吾(兵庫県立看護大)

 従来,精神科領域の看護診断やケアに関する書物は,ほとんどが海外からの翻訳書であったため,日本の現状では活用が難しい面もあった。つまり,患者を取り巻く入院環境や社会資源,看護スタッフの教育背景やそれに伴ったケア能力,当然ではあるが欧米との社会文化的背景も日本とは異なるため,臨床場面での適応はおのずと限界があった。そのため,診断の根拠となる理論背景を学んだり,ケア方法を日本の臨床場面に合うように工夫してその一部を活用するといった状況であった。
 本書は,臨床場面で看護診断とそれに基づいたケアプランを実際に展開したオリジナルなもので,読者が実際に患者のケアを行なう上で大いに参考になろう。

データベースとなるオリジナルの精神科モデルを示す

 また,幻覚,妄想,躁状態,うつ状態,興奮,昏迷,不安,依存,引きこもり,病気の受容など17テーマの事例を取り上げ,一連の看護過程の流れに沿って具体的に書かれている。例えば妄想の事例では,妄想の定義とアセスメント上の留意点が最初に記載され,学生が精神科看護を学ぶ上での配慮もされている。次いで事例紹介として,現病歴や既往歴,生育歴などが年齢を追ってエピソードを中心に簡潔に記載され,アウトラインがつかみやすい。
 データベースとなる患者情報では,編者である川野氏の精神科モデルが用いられている。このモデルは患者の背景,身体諸機能,発達課題とその達成,精神状態,医療と医療への反応,持っている力といった計6つの側面から全体像をアセスメントするようになっており,精神科の臨床になじみやすい。
 精神科領域では,身体面よりも精神面・社会面のデータの比重が重くなるが,その点も満たしているように感じる。このモデルでデータ収集した多くの事例が示され,実際にケアを展開していることからも,着々と実績が積み重ねられているようである。
 NANDA(北米看護診断協会)では看護診断データベースとして,交換,伝達,関係,価値,選択,運動,知覚,理解,感情の9パターンのモデルを開発しているが,パターンの理論背景や概念の理解が必要である。また各パターンの細項目が多岐にわたり,作業量も多いため実際の活用には躊躇するだろう。
 他にゴードンのデータベースの記載も一部あり,「どの収集モデルが患者の像を描きやすいか選択することになる」と読者に問いかけている。

実際のケアプロセスと評価も記載

 アセスメント・看護診断の展開では,患者の中核(自己意識と類似の概念と説明)がおかされているか,病気の段階,障害の程度,今後の見通しや社会的に自立していく可能性,日常生活能力,治療・看護の受け入れや継続といった6つの視点から臨床判断して看護診断を導いている。したがって,データベースの6つの側面が直接看護診断の分類枠を導くのではなく,6視点の判断を経て診断を構築するといった成り立ちである。
 ケアプランでは,看護診断名ごとに細かく看護婦の具体的行動が列挙され実際に患者をケアする上で示唆に富む。各事例の最後にケアプロセスの実際と評価が記載され,患者の実際の反応と看護婦の対応がわかるようになっている。
(B5・頁252 税込定価3,708円 医学書院刊)


臨床実習を授業として位置づけるために

学生とともに創る 臨床実習指導ワークブック 藤岡完治,村島さい子,安酸史子 著

《書 評》黒川紀子(北里研究所メディカルセンター病院看護部長)

 看護教育における臨床実習が占める割合は少なくない。その果たす役割も大きい。臨床の場は教室と違って常に変化しており,学習の対象も様々である。その中で学生とどう関わればよいか,授業として成立させるにはどのようにすればよいか,多くの看護教育者や臨床の指導者が,苦慮されていると思う。
 そんな方たちのために本書は,臨床実習指導のハウツーを教えるのではなく,指導者が実際に体験しながら学ぶワークブックとして作られている。内容は理論編,実践編,事例編から構成されており,臨床実習を教育の場として,授業として構築していくための新しい考え方を提案している。各編は「臨床実習で身につける学力とは実践知そのものである」という考えに基づいて進められており,筆者らが何度も話し合いを重ね生み出された結果であると納得できる。

読者自身が記入しながら読み進む

 理論編では,看護教育の中での臨床実習の位置づけを理論的に整理し,看護教育学の基本概念が述べられているが,文中に用いられる用語(例えば臨床,看護技術と教育技術,経験,臨床の知など)の解説が欄外に設けられ,本文を理解しやすくしている。
 実践編は,ひとまとまりの学習経験がunitで分けられ,13のunitの中をさらに2~8のテーマに沿ってworkするようになっている。1つのworkごとに,テーマとその内容・方法・時間・観点が簡潔に示され,tryの空欄に読者自身が記入できる方法がとられている。読者は自分の体験からの考えや,実習場面を振り返りながら読み進むことになる。また自分が苦手としていたテーマについてだけ書いてみることもできるし,その部分をコピーして何度も使うこともできる。
 テーマによってはtryの前にsampleが示される。例えば,学生カンファレンスの実際や実習生の医療事故への対処などである。実習場の教育環境上の問題点では,「業務と兼務しているので,実習生の時間に合わせられないことがある」など,臨床の指導者がいつも遭遇していそうなことが随所に出てくる。これらは実習指導の事例によって示されており,指導者の発想を助けてくれる。

実習指導の具体例を示す

 事例編は,臨床実習の教材は「あらかじめ用意されたもの」ではなく,臨床の場における患者と教師と学生の相互作用によって,その時々に「生み出されるもの」という理論をもとに書かれている。(1)どのように教材化するのか,(2)看護教員と臨床指導者が協力して行なった実習指導例について,学生の事例を通して説明される。具体的であるためわかりやすい。看護教育と臨床指導者との関わりについても,何かヒントが得られそうである。
 指導歴1年の臨床指導者の感想を開いたところ,「自分が悩んでいる場面が項目となっており,解決策が導き出せるようになっている。『観点』では,そこに必要なポイントを確認しつつ,安心して指導に臨んでいける。自分の実習指導の課題が見えてくる」などであった。
(B5・頁168 税込定価2,678円 医学書院刊)