医学界新聞

臨床教授制度など提言

文部省「21世紀医学・医療懇談会」
第1次報告出される

 次世紀に向けた医療関係者養成のあり方を検討している文部省の「21世紀医学・医療懇談会」(座長=私立学校教職員共済組合理事長 浅田敏雄氏,昨年11月20日設置)がさる6月13日,「21世紀の命と健康を守る医療人の育成を目指して」と題する第1次報告をまとめた。
 今回の報告は「全体報告」と「教育部会報告」に分かれており,全体報告では(1)医療人育成を見直す背景,(2)21世紀における医療人育成の考え方,(3)21世紀における医療人育成の姿についてそれぞれ考察。さらに教育部会報告では「早急に行政および各大学等において取り組むべき課題」として具体的な改善策を示している。

将来はメディカルスクールを

 報告では,現在の医療関係者の養成に,国民の期待に応える医療人育成の観点に立っていない状況が見られることから,「抜本的な見直し」が必要と指摘。(1)国民が望む人間中心の医学・医療を推進する必要があること,(2)医療人は生涯にわたり倫理観と責任感を持つことが求められることの2点を強調している。
 また,医療人には感性豊かな人間性,人間性への深い洞察力,社会ルールについての理解,論理的思考力,コミュニケーション能力,自己問題提起能力や自己問題解決能力が求められると提言。この考えをもとに,次世紀における医療人育成のあるべき姿として,「21世紀における」新しい学校制度の創設を提唱した。これは,人間的な成熟を促し,幅広い教養を身につけさせるための教育を行なった後に,医療に関する専門的な学習を行なうというもの。医師の例で言えば,米国のように,大学の学部4年間で幅広い教養教育の学習を修了した者が4年制のメディカルスクールに進学し,医療に関する専門的な学習を集中的に行なう制度を提案している。
 しかしこの問題にあたっては,リベラルアーツ型の学部教育を実施している大学が少ないこと,また育成年限が現在より2年間延び経済的負担も増すことなどから,さらに幅広い議論が必要であると認めている。このため報告では,以下のような「現行制度下で当面すぐにでも対応できる方策」も示された。

医療人としての適性を重視

 まず現在大学・学部の選択において,医学部を中心に受験学力が高い者が進学する傾向があることを問題視。「医療人として活躍するに十分な能力を持ちつつ,明確な目的意識を持った者や医療人としての適性を持った者」が医療人になれるような人材選考システムを作ることを求めている。また,中・高等学校における進路指導の改善の他,社会人等を対象にした特別選抜の実施や編入学枠の拡大,2年次修了時点での選抜(適性判断)などを提言している。
 特に社会人入試や編入学に関しては,原則として高卒時(18歳)に学部の進路決定がなされる現状では必要な制度であると評価。多様な学習経験・社会経験を持つ者が切磋琢磨し合う環境を育てる効果も予想している。逆に,医療関係学部に入学した者が他の道を歩みたいと考えた場合にも,転学部を容易にすることへの配慮が必要だとしている。
 また大学入試については,学力検査とは異なる評価方法も活用することを重視しており,今後はさらに,医療人としての適性や明確な目的意識を持っている者を積極的に受け入れるよう,面接にかける時間を長くしたり調査書や適性検査の活用を検討したりするよう求めている。

実習の改善は再重要課題

 大学入学後の学部教育に関しては,改善・充実のために各大学・学部が理念や目的についての十分な検討を行ない,講座制の枠にとらわれないカリキュラム編成など,教育内容および方法の改善を図ることを期待。統合カリキュラム作成の推進のため,各大学・学部でモデルカリキュラムの作成や学部内コース(良医の育成に重点を置いたコースや研究の推進に重点を置いたコースなど)の検討を進めるよう求めている。
 さらに,少人数教育やテュートリアル教育を積極的に導入するとともに,マルチメディアの活用も必要であると提言。そのための教育方法の研究開発を進め,指導体制の充実(ティーチングアシスタント制度の活用など)を図るべきとしている
 また実習については,「わが国における医療人育成において最も改善を要するのは実習である」と強調。改善策としてクリニカル・クラークシップの積極的導入などをあげた他,研修医などの若手が指導者として参加する体制も提案している。

大学外の人材を活用

 一方指導者については,国民から信頼される医療人を育成するにあたっては「まず第一に大学人自身がその責務を果たすことが必要」としながらも,特に実習の充実を図るために,大学以外の多彩な医療人や医療機関等との連携を図り,地域の中で医療人を育てていくことに強い期待をかけている。そのために,新たに「臨床教授(仮称)」制度を設け,大学外の医療人が現場での経験を踏まえ大学の教員とともに教育に参加することを提案。一定基準に基づいて各大学において臨床教授の称号を付与するとの考えを示した。この場合,ある程度の経済的裏付けを確保するなど,臨床教授が継続的に学習できる環境を維持できるような工夫も必要であると付け加えている。
 また,教員の教授法に関する研究開発と能力の向上を図ることの他,今後は教員選考にあたって,研究能力だけでなく教育能力や診療能力を今まで以上に積極的に評価するよう提言。適切な評価を可能にするため,教員等の大学間交流を進めることも有益であると述べている。
 この他報告書では各種国家試験の改善などについても触れられているが,「医学・医療の施策を進めるにあたっては,文部省,厚生省などの行政機関,医療関係団体,学会,大学などの関係者が,国民の意見を十分に聞きつつ,相互に緊密な連携を取りながら進める」との考えを明示。また今後は大学院や医学・医療研究のあり方,大学病院や医療のあり方について議論を深めていくことにしている。