医学界新聞

第37回日本神経学会開かれる

難治性神経疾患治療の現状などを報告



 第37回日本神経学会(会長=埼玉医大 濱口勝彦氏)が,さる5月15-17日の3日間にわたり,大宮市の大宮ソニックシティにて開催された。
 学会では,1000題を超す一般演題の他,会長講演,教育講演さらにH. Wekerle氏(ドイツ,マックスプランク研究所)とR. Traystman氏(アメリカ,ジョンズホプキンス大)による招待講演,2題のシンポジウム,ラウンドテーブルディスカッションが行なわれた。また「今日の話題」として「起立性低血圧と食後性低血圧」(埼玉医大 田村直俊氏),「神経疾患と瞳孔異常」(北里大 石川哲氏)など12のテーマで講演が企画されるなど,充実したプログラムが組まれた。


「急性免疫性神経疾患」の提唱

 濱口氏の会長講演「Guillain‐Barre症候群と急性散在性脳脊髄炎」では,Guillain‐Barre症候群(GBS)に関する長年の研究成果が報告されるとともに,GBSと急性散在性脳脊髄炎(ADEM)との関係についての考察が述べられた。
 1916年に最初に発表されたGBSは運動障害性優位の多発根神経炎で,脳脊髄液所見で蛋白細胞解離があり,予後は良好である。濱口氏はGBSについての免疫学的な研究結果を解説。GBSが自己免疫疾患であることを示し,GBSでの抗神経抗体についての最近の論文を紹介した。
 続いて,GBSとADEMの関係を考察。ADEMとは感染後(ワクチン接種後)脳脊髄炎のことで,免疫機序により神経症候を示す。濱口氏はADEMが中枢・末梢に病変を持つことを示したのち,GBSとADEMのT細胞サブセットの検討結果から,両者がかなり共通の免疫学的機序を持つことを示唆した。さらに免疫が関与する神経疾患を分類し,その中から急性の免疫性神経疾患を1つの型として提唱。GBSとADEMを「急性免疫性神経疾患」に含め,症候学的にGBSの診断基準を満たすものをGBSとするとの考えを述べた。

難治性神経疾患の治療を再確認

 シンポジウムとしては,「神経疾患とニューロトランスミッター」(司会=東大 金澤一郎氏,広島大 中村重信氏),「難治性神経疾患の治療の現状」(司会=三井記念病院 萬年徹氏,東邦大 木下真男氏)の2つが企画された。
 このうち「難治性神経疾患の治療の現状」では,筋萎縮性側索硬化症,脊髄小脳変性症,多発性硬化症,痙性,慢性炎症性脱髄性ポリニューロパチー,デュシェンヌ型筋ジストロフィーについて,6人の演者が現時点での治療法の情報を提供した。
 この中で,典型的な神経難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療については,柳澤信夫氏(信州大)が報告。特に近年開発が進む神経細胞保護治療薬の現状を解説した。柳澤氏は,神経細胞保護治療薬のうち,臨床試験が行なわれているリルゾール,ヒトインスリン様神経成長因子Ⅰ,レシチン化SODなどの効果を示し,日本で3月に終了したリルゾールの治験でも延命効果が認められたことなどを紹介。その上で,「現時点では作用機序の異なる複数の薬剤の併用によって,いっそう病気の進行を遅らせることが期待できる」と述べてまとめとした。
 また,梶龍兒氏(京大)は,痙性に対するボツリヌストキシン筋注療法とMAB(Muscle Afferent Block)法の効果について報告。それぞれの方法でほぼ同様に症状改善効果がみられたことを紹介し,ボツリヌス療法では抗毒素抗体が問題となるが,MABとの併用により投与間隔を延長できることから両者の併用療法が有効との考えを示した。

神経内科の教育を考える

 一方,ラウンドテーブルディスカッション(司会=濱口勝彦氏,東海中央病院 高橋昭氏)では,「神経内科の卒前・卒後教育」と題して4人の演者が意見を交換した。
 卒前における神経内科の教育については,まず司会の濱口氏が「学生が神経内科を好きになる」ような講義・実習が求められると指摘。それを受ける形で最初の演者である大野良三氏(埼玉医大)は,神経内科の卒前教育改善のため,知識の整理・統合の他,技能と態度の教育の重要性を強調。小グループでの能動的学習を活用することが効果的であると述べた。また庄司進一氏(筑波大)は,教育の3領域である認知・情意・精神運動のバランスを重視。そのための取り組みとして1年時の「臨床人間学」(テュートリアル形式)や4年時のコロッキウム(ロールプレイ形式の臨床授業)など,筑波大での実践を紹介した。
 続いて,神経内科の卒後教育に関しては,栗原照幸氏(東邦大)が,日米の現状を比較。日本の系統的な卒後教育プログラムの不備を指摘した他,小児神経・脳外科・精神科等のローテーションや,認定医試験以前の教育を充実させる必要があると述べた。さらに田代邦雄氏(北大)は,神経学の基礎・臨床の知識の他に多くの診療科との協調が必要な神経内科の性格から,1つの専門分野として独自の研修プログラムを持つべきであるとし,内科初期研修と神経内科専門医研修の試案を提示した。
 その後はディスカッションが行なわれ,教員不足の打開策や,プログラムづくりの具体的アイデアなどについて討論。神経内科のみならず医学教育全般に関わる改善策が話し合われた。