医学界新聞

人工皮膚の開発と臨床応用で論議

第22回日本熱傷学会が開催される



 第22回日本熱傷学会が,さる5月16-17日の両日,相川直樹会長(慶大教授)のもと,東京・港区の明治記念館で開催された。
 同学会では,会長講演をはじめ招待講演「人工皮膚の応用とその臨床応用」(ハーバード大名誉教授 John F. Bueke氏)や一般演題93題(うち看護部門演題15題)の他,教育講演3題,シンポジウム「熱傷とサイトカイン」(司会=杏林大教授 島崎修次氏,慶大 篠澤洋太郎氏),パネルディスカッション「熱傷患者における抗菌化学療法」(司会=市立札幌病院 吉田哲憲氏,川崎医大教授 藤井千穂氏),ワークショップ(1)「ストレスモデルとしての熱傷」(司会=帝京大教授 小林国男氏,東海大 猪口貞樹氏),(2)「培養皮膚・人工皮膚の臨床応用」(司会=慶大教授 藤野豊美氏,東女医大 根岸直樹氏)が行なわれた。

有効性が示された熱傷創治療法

 ワークショップ(2)は招待講演直後に催され,講演に関連した内容の発表が相次いだ。まず最初に黒柳能光氏(北里大)が,北里大と横市大のグループが開発した抗菌剤含有創傷被覆材の臨床試験評価の結果を報告。スルファジアジン銀含有ポリウレタン膜に吸水性不織布を貼付した被覆材を12医療施設136症例に実施したところ,「スリット構造を有する被覆材は,壊死組織の融解物を含む過剰な滲出液の貯留を防止でき,また抗菌剤を徐放することにより重症熱傷や難治性皮膚潰瘍の治療に有用であることが確認できた」とした。さらに,同氏は「同種複合培養真皮シート(CDS)の臨床試験評価」についても発表。コラーゲンマトリックスに繊維芽細胞を組み込んだCDSを開発し,深達性熱傷や難治性皮膚潰瘍など70症例の治療に応用した結果,「深達性Ⅱ度熱傷に適用した場合には,早期の表皮形成が,またⅢ度熱傷や難治性皮膚潰瘍の治療に適用した場合は,良好な移植床の形成が可能だった」と報告。CDSは同種培養表皮と同様に生物学的被覆材としての有効性を持つことを示唆した。
 続いて矢永博子氏(久留米大)は,「凍結同種培養表皮のbankingと移植」の中で表皮移植例を紹介。凍結同種培養表皮の大量にbankingでき早期に移植できる利点を述べるとともに,3~4か月しか生着できない欠点を指摘。しかし培養期間に3~4週を要する自家培養表皮との組合わせにより有用な治療法となることを示した。
 同様に凍結保存同種培養表皮の臨床応用について報告した副島一孝氏(東女医大)は,広範囲III度熱傷の早期治療には創傷被覆材と凍結保存同種培養表皮の併用を実施していることを前提に,培養表皮移植直後の被覆材にポリウレタンフォームを選択。「培養表皮には長期生着よりも創傷治癒促進因子を産生するbiological dressing材としての役割を期待している」と述べた。
 猪口貞樹氏は,生着率が悪く長期維持の困難な皮膚全層欠損創に対する培養表皮細胞移植に関して,マウスを用いてⅢ度熱傷全層切除創へ培養表皮細胞,培養真皮線維芽細胞の混合移植をした結果を発表。これによると,移植した皮膚全層欠損創面積の80%を閉鎖することができたとし,「培養表皮細胞,真皮線維芽細胞混合移植法により,熱傷患者の皮膚全層欠損創を高率に閉鎖することが可能だった。適切な応用でⅢ度熱傷の予後向上に期待できる」と述べた。
 その後の全体論議の中では,最も使いやすい素材,時間的問題,コスト評価についてなどが話題となった。

抗菌化学療法の理論と実際で論議

 パネルディスカッションでは6名が登壇し,抗菌化学療法の理論と使用法の実際について論議が交わされた。
 望月徹氏(日本医大)は,MRSAに対する抗菌薬としてバンコマイシン(VCM),アルベカシン(ABK),およびST合剤を選び,抗菌特性の違いについて比較した結果を報告。MRSA肺炎症例の効力評価ではVCMが優位で,次いでABKが有効であったことと並んで,ST合剤はMRSA肺炎の発生を抑制したこと,ST合剤は予防的投与に効果があることを明らかにした。また仲沢弘明氏(東女医大)は,熱傷におけるMRSA感染対策としてFOM(ホスホマイシン)の併用療法の有用性について発表。FOM単独療法よりも併用で相乗効果が認められ,高位に有効例が得られたと述べた。さらに田熊清継氏(済生会神奈川県病院)は,Ⅲ度熱傷創に対する全身投与抗菌薬の移行性について,創汚染の影響,熱傷数日後の影響,ならびに感染予防効果についての検討を行なった。その結果,「抗菌薬全身投与は,受傷後に汚染を受けたⅢ度熱傷の感染予防に有効であり,特に早期投与が有効」と述べた。
 さらに,最後に登壇した澤田幸正氏(弘前大教授)が,銀に注目した「新しい局所抗菌剤徐放性創傷被覆材の開発」について報告した他,総合討論ではST合剤の超早期使用法などについてフロアを交えて熱い討論が行なわれた。