医学界新聞

第96回日本外科学会シンポジウムで論議

「卒後外科臨床研修のあり方」

専門領域としての外科研修と他の領域との関係



 
 医師の卒後臨床研修についてはさまざまな論議が行なわれてきているが,さる4月10-13日に千葉市の 幕張メッセで開かれた第96回日本外科学会(会長=千葉大教授 磯野可一氏,前号参照)でも,「卒後外 科臨床研修のあり方」が特別シンポジウムに取り上げられた。
 外科領域は高度の専門技術を要求されるのはもちろん,技術の良否が直接医療の評価につながり 得ることから,研修の内容や外科医の到達目標を明確にすることへの関心は高い。シンポジウムでは,ど のような外科医がどのような形で育つのが理想的かについて,激動する時代の外科医に焦点を当てた幅広 い論議が繰り広げられた。

プログラムの充実と明確な評価を

 シンポジウムは行天良雄氏(医事評論家)の司会で,文部・厚生両省の卒後研修に対する見解や取組 み,外科分野の各領域の研修の現状と問題点などを6氏が報告したほか,3氏が指定討論を行なった。
 まず「卒後臨床研修-総論」と題して報告を行なった石野利和氏(文部省高等教育局)は,「昨 年10月に発表された科学研究費による研究では,臨床研修を行なう上で大学病院は社会的責任を負ってい ること,研修は現状のままではなく改善が必要なこと,改善をするには研修の質をどう向上させていくか を基本に検討すべきことが報告された」と解説。また「研修の必修化は,臨床研修の改善を基本に十分な 議論が必要である。また卒後臨床研修を2年間だけ切り離して考えるのではなく,学部教育,卒後の生涯 教育の中で一貫性を持って考えるべき」と述べた。
 続いて「卒後臨床研修の改善」について報告した今田寛睦氏(厚生省医事課長)は,戦後の臨床 研修制度の推移や厚生省の臨床研修に関するこれまでの施策を解説。「現在,医学生の学ぶべきことはま すます拡大してきている。一方,医学の専門分化が進んでいることから,卒後ただちに専門医としての技 術をみがいていく傾向にある。全人的医療の重要性が叫ばれている今日,制度が整わず廃止されたインター ン制度の反省の上に立って,国民医療に役立つ臨床研修制度を考えていきたい」と述べた。
 「卒前・卒後教育の整合性と外科専門医教育の到達目標」をテーマに報告した青木照明氏(慈恵 医大教授,日本外科学会認定医資格認定委員会委員長)は,「卒前・卒後教育には一貫性と段階的到達目 標の設定が重要であり,卒後臨床研修のあり方にもこの明確な位置付けが必要である」と強調。卒前臨床 教育でのクリニカルクラークシップの到達目標が低ければ,卒後研修の負担になると述べ,「卒前臨床教 育の充実には,効率よく専門性の高い後期研修プログラムの導入が可能となる」とクリニカルクラークシッ プの重要性を訴えた。
 また三富利夫氏(東海大教授)は,「卒後外科臨床研修と消化器外科」について発言。日本には 臨床研修の内容の点検や評価を行なう機関がなく,各学会が自発的に役割を担っている現状を指摘し,研 修はまず医師としての充実,新しい知識と技術の習得を目標とするのが原則と述べた。その上で卒後外科 臨床研修について「将来の質のよい消化器外科の臨床医を育てるためには,現在の医療体制に合わせた医 師を育てるのではなく,新技術や教育方法を共同討議し,高度情報化社会における臨床医学の振興をも視 野に入れ開発していかなければならない」と主張した。
 「胸部外科医の卒後一般外科教育」をテーマに報告した松本昭彦氏(横市大教授)は,日本の医 学教育とアメリカ,イギリス,ドイツの教育を比較。日本の医学教育の中で内科・外科の占める割合は, 欧米の1/4から1/5ときわめて低く,欧米の学部卒業生は,日本の認定医と同じかそれ以上の知識と臨床 経験を有していると指摘した。また臨床研修の将来の方向については,「外科医の教育にとどまらず,わ が国の医学教育はもっと内科・外科教育に重点を置くべきであり,外科の臨床研修にはプログラムの充実 と,明確な評価基準を取り入れた全国共通の制度が必要。また経験や臨床実績を重視した制度を作り,技 量のみならず倫理観をそなえ,社会と協調できる外科医の養成につとめるべき」と述べた。
 最後に「災害医療センターの立場から」と題して報告した西法正氏(国立病院東京災害医療セン ター院長)は,同センターの機能と概要を紹介。救急救命部は各診療科の密接な連携のもとに運営されて いることから,救急医療は初期臨床研修として非常にふさわしい部門であると強調した。

外科専攻以外の医師の研修内容の検討を

 シンポジウムではこの後,臨床研修のあり方などの総論と実際の外科臨床研修のあり方をつなぐ意見 として3名の指定討論者が発言した。
 武藤輝一氏(新潟大学長)は,これまでに出されている臨床研修をめぐる論議としては,(1)研修 方式,(2)研修内容の第三者機関による評価の必要性,(3)地域医療と研修施設群構想,(4)研修の必修化論 議と学会認定医制度,基礎医学研究者の養成,(5)臨床研修医の経済的基盤と財源,(6)一貫教育による卒 前臨床教育の充実と卒後臨床研修との関連,(7)大学院のあり方との関連などがあげられるとし,「他科や 総合診療方式との関連で外科の臨床研修は何を提供すればよいかも考えていかなければならない」と結ん だ。
 続いて内科医の立場から発言した開原成允氏(国立大蔵病院長)は,「外科の研修は整然とした 体系を持っており,他科の人が入りにくいように思う。外科医を志望していない人でも外科の研修を受け たい場合があるので,すべての医師にどのような外科の臨床研修を提供するかも考えてほしい」と要望し た。
 さらに日本医師会の立場で発言した坂上正道氏(前日本医師会副会長)は,「外科研修のプログ ラムは細かく積み上げられたものと実感した。しかしシンポジウムでは一般の外科教育を受けて専門家に なっていくルートは詳しく述べられたが,外科専攻以外の人を含めた研修が問われるであろう」と述べた 上で,卒後研修の問題点とあるべき姿をまとめた日本医師会の意見書の概要を紹介した。
 その後の討論では文部省の石野氏が「臨床研修の必修化をめぐり,文部省・厚生省の対立がある と伝えられているが,どのような医師が求められており,どのような医療を行なうべきかについての議論 をしていくべき。今後は現実を踏まえた幅広い論議が必要」と発言。厚生省の今田氏は「厚生省がすべて の医師のGP(General Practitioner)化をめざしているのではないかという声があるが,厚生省は医師が備 えるべき技量をどう位置づけるかを提起している。医師に必要な素養の中に外科的分野をどのように位置 づけるかについての議論に期待したい」と述べた。
 さらに武藤氏が,「外科の専門性の上で必要な研修のほかに,これからは他の領域で外科の研修 を希望する人にどのようなプログラムを用意したらよいかを考えていかなければならない」と述べるなど, 高度の専門性を必要とする外科領域の臨床研修と,それ以外の領域の人の外科研修プログラムをめぐり活 発な論議が行なわれた。

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