医学界新聞

第12回日本国際賞授賞式開催される

神経科学分野で伊藤正男氏が受賞
「小脳の機能原理と神経機構の解明」で高い評価

 日本のノーベル賞とも言える日本国際賞(第12 回)が,伊藤正男氏(理化研国際フロンティア研究システム長,日本学術会議会長)に与えられ,さる4 月26日,東京の国立劇場にて授賞式が開催された。
 伊藤氏の受賞対象分野は生命科学技術領域の「神経科学技術」。伊藤氏は長年小脳の運動調節機 序の研究に従事し,電気生理学を含めた様々な手法を駆使して,小脳の神経機構とその機能原理を明らか にしている。まず小脳の出力を司るプルキンエ細胞がもっぱら抑制作用を持ち,その化学伝達物質がγア ミノ酪酸であること,さらに小脳片葉の神経回路網に長期抑圧が起こり,このシナプス可塑性により前庭 動眼反射の動特性が適応制御性に変化すること,すなわち学習能力が発現することを解明。また分子生物 学的に長期抑圧の分子過程を明らかにし,長期抑圧の効果を検証した。これらの成果は小脳にとどまらず, 脳の学習と記憶機構に関する世界の神経科学の研究に大きな業績を残すもの。最近では日本学術会議の会 長として科学技術全般を振興する立場から,「戦略的研究」の必要性を提唱している。
 授賞式で伊藤氏は,「情報,コンピュータおよび通信システム」分野で受賞したアメリカのチャー ルズ・クーエン・カオ氏(香港中文大学長)とともに登壇。受賞者挨拶の中で「脳の中にあるのは神経細 胞の作る回路網であり,その機能原理を解明することが脳の持つ大きな謎に迫る最短の道程であると信じ て研究に励んできた。小脳はその目標を実現するのに最も適した脳の部分と思われ,幸いにしていくつか の基礎的な所見の積み上げの上に統一的な小脳の機能原理を描き出すことができた。しかし,まだ多くの 問題が残されており,今回の受賞を機にさらに研究に励みたい」と述べた。
 なお日本人の単独受賞は今回が初めて。授賞式では賞状,賞牌のほか5000万円の副賞が贈られた。
 日本国際賞は,国際科学技術財団によって全世界の科学者・技術者を対象に創設されたもので, 「科学技術の分野において独創的・飛躍的な成果をあげ科学技術の進歩に大きく寄与し,それによって人 類の平和と繁栄に著しく貢献した者」に贈られる。これまでの受賞者31人のうち3人が,その後にノーベ ル賞を受賞している。選考にあたっては,3年で循環する分野領域の中から2つの対象分野を決定して候補 者を選ぶシステムで,来年の対象分野領域は「人工環境のためのシステム技術」と「医学におけるバイオ テクノロジー」。また同財団では今回の授賞式をはさむ4月22-29日を日本国際賞週間として様々な行事を 企画。25日には日本学術会議講堂で伊藤氏,カオ氏による記念講演会も開かれた。