医学界新聞

高齢社会における整形外科の役割を追究

第69回日本整形外科学会が開催される



 第69回日本整形外科学会が,矢部裕会長(慶大教授)のもと,さる4月11-14 日に,東京・港区の新高輪プリンスホテルを会場に開催された。
 学会では800題を超える応募演題の中から採用された一般演題593題,ビデオ演題13題が すべて口述発表形式で行なわれた。また,会長講演,記念講演「福沢諭吉と日本」(前慶大塾長 石川忠 雄氏)をはじめ,特別講演8題,シンポジウム9題,パネルディスカッション10題,外人招待講演6題 の他に,特別企画として「専門分野この1年の歩み」(11題),「対立する整形外科治療」(7題)や 教育研修講演(20題)など多彩なプログラムが4日間にわたり展開された。この企画の中では,新素材 の開発やそれらを活用した手術法の進歩,さらには患肢温存手術の現況と限界などの発表があり,整形外 科領域ににおける最新の知見が集約された学会となった。本紙では,先頃厚生省から試案の出された「公 的介護保険」が話題となったシンポジウムを中心に報告する。


公的介護保険の導入に向けて

 矢部会長は初日に「日本の医療-これでよいのか」を講演。「今日における日本の医療経営は極めて 厳しい現実があるが,この実態を国民に正しく伝えることが必要。また,民間資本を投資する医療や医 療 統制の抜本的見直し,公的医療保険に加えて民間医療保険を補完整備するなどの考慮も必要となろう」 と 日本の医療制度を憂える講話を行ない,「21世紀の医療がバラ色になるようともに考えていきたい」と ま とめた。
 また,八百板沙氏(八百板整形外科医院)石名田洋一氏(国立埼玉病院)両座長によるシンポジ ウム 「高齢化社会に向かっての整形外科の役割」では,厚生省老人保険福祉局課長の尾嵜新平氏ら7人意見 を 述べるとともに,学術会議の立場から鳥山貞宜氏(日大名誉教授)が特別発言を行なった。
 尾嵜氏は公的介護保険の導入に関連して,「スウェーデンでは70%となっている社会保障負担を 50% 台に抑えたい。国民皆保険は維持していきたいが,介護の問題をどう解決していくかが大きな課題であ る」 と述べ,介護保険制度のイメージ図を提示し,医療保険と介護保険の棲み分けやその範囲などはこれか ら の課題であることを明らかにするとともに,若年者からの負担,公費の導入での社会保障制度の成立が 不 可欠であるとの考えを示した。
 一方,医療経済の枠から「高齢社会の問題」を述べた舟越忠氏(舟越整形外科院長,整形外科医 会長) は,「医学的尺度だけでなくQOLを取り入れた社会的尺度からの医療の効率化が必須」と述べるととも に, 次世代に向けた提言として「公的介護保険の創設が前提。金を拠出するだけでなく,コミュニケーショ ン を図るためにも世代を越えた社会全体の支え合いと地域における介護支援の整備が必要」と訴えた。
 さらに「老人整形外科の特殊性」について意見を述べた林泰史氏(東京都衛生局)は,「戦後多 発し た肢体不自由児に対して整形外科医は精力的に治療に参加したが,重症心身障害児には関心が薄く,重 症 心身障害児施設で働く整形外科医はわずか27名。もっと早い時期から積極的に重症心身障害児に関わっ て いたら拘縮や変形を少なくし,より望ましい療育ができたはず」と指摘。「整形外科医は,重症心身障 害 児対策の遅れを反省し,もっと早い時期から骨粗鬆症に取り組むなどの姿勢が必要であろう。身体機能 の 回復をめざして老人の延命からQOLへ向かうのが整形外科医の役割。寝たきり防止,地域福祉などの要 に 整形外科医がなる時である」と強調した。

在宅医療における整形外科医の役割

 大井淑雄氏(自治医大教授)は,整形外科医自身の年代別ライフサイクル例を提示。40歳代で施設に おける最高技術責任者となり,70歳代で引退,80歳代では自身が介護入所となる可能性などを解説し, 「高齢者の退院後のコースを自分に置き換えて考えるとよい。整形外科医の将来は老人介護の分野へ」 と 示唆した。
 また勤務医の立場から関寛之氏(国立霞ヶ浦病院)は,関氏らが実践しているネットワーキング によ る在宅医療について報告。「在宅ケアに携わる勤務医,開業医,看護婦,行政担当者などの専門職のほ か, 患者・家族,ボランティア,地域住民も参加するケアカンファレンスを実施,そこでの結論をもって包 括 的医療を進め,在宅ケアが困難となれば入院・入所へつなげる対応をとっている」と実践例を紹介。運 動 器の専門家である整形外科医が地域医療に積極的に関与する必要性を訴えた。
 開業医の立場から久保谷康夫氏(鴬宿温泉病院)は,「整形外科医が訪問医療のケアプランナー やケ アコーディネーターとして,医学的,社会的に重要な役割を担うことになる。そのためにも学会として 在 宅医療の方法論・問題点,整形外科医の役割を例示し,会員に広く示唆する必要があろう」と提案した。
 最後に特別発言を行なった鳥山氏は,「これからの高齢社会に対しては各省庁で対策を講じてい るも のの,総合的な視野に乏しい。垣根を外して対策を立てることが急務。社会的コンセンサスが得られる 対 策を」と要望した。