医学界新聞

第48回日本産科婦人科学会開催

産婦人科領域における最新の知見をめぐって討議



 第48回日本産科婦人科学会が,水口弘司会長(横市大教授)のもと,さる4月6 -9日の4日間にわたり,横浜市のパシフィコ横浜で開催された。
 前半の2日間には,会長講演の他に生殖内分泌に関する招請講演(カリフォルニア大教授 R.I.Weiner氏)や受精・着床をテーマとした特別講演が2題,また教育講演6題,生涯研修プログラムと してクリニカルカンファレンスなどが企画され,最終プログラムとしてシンポジウム「婦人科癌の浸潤と 転移-その基礎と臨床」が開かれ,4人のシンポジストが癌の浸潤や転移のメカニズムの解明,悪性腫 瘍の治療をめぐって活発な討論を交わした。また,後半の2日間で集中的に行なわれた一般演題発表は, 1000題を超える応募の中から選ばれた口演・ポスターセッションが約770題。その他にもインター ナショナルセッションでは50を超える演題発表があり,4日間を通して産婦人科領域における最新の知 見をめぐる多彩な講演と発表が行なわれた。



 会長講演「婦人科における骨粗鬆症の管理」で水口氏は,「産婦人科学は,周産期医学,生殖内 分泌医学,腫瘍学など専門性の高い分野に分化しつつあるが,21世紀に向けては各分野における専門施設 や専門医の養成が必要」と提言。また,「骨粗鬆症は発症してからの治療では限界がある。そのためにも 女性の思春期から老年期までを包括する内科的婦人科学の発展も極めて重要」と強調。「閉経後2年で25 %,10年で50%の女性が閉経後骨減少症になる。骨粗鬆症は骨量測定により予測が可能。ホルモン補充療 法をすることが医療のコストエフェクティブにつながる」など,高齢社会に向けた骨粗鬆症に対する見解 を示した。

倫理的配慮が必要な不妊治療技術

 出生前診断の発達は周産期死亡率の低下に貢献し,診断技術は遺伝子レベルでも可能となったものの, 一方では新たに安全性や診断精度などの生命倫理的側面も問題となってきている。その中で永田行博氏 (鹿児島大教授)は「受精卵の着床前遺伝子診断」をレクチャー。「対象疾患を伴性劣勢遺伝性疾患の 中 でも筋ジストロフィーなどに限定し,着床前遺伝子診断を2年前に大学医学部倫理委員会に申請してお り, 現在も検討中」であることを明らかにし,臨床における有効性を解説。「発病者が家族にいること,重 篤 な疾患があることなど限られた人たちが対象になり,その人たちを救済できる。また出生前診断より着 床 前診断のほうがより倫理的といえる」と述べた。また,「欧米ではすでにこの診断により30名を超す子 ど もが誕生している。現段階では高価であることが問題だが,将来は一般的な検査法になるだろう。遺伝 子 治療が確立し,出生後の対応が可能となれば,この診断法は不必要になるだろう」との考えも示した。
 廣井正彦氏(山形大教授)は「受精機構の解明と生殖補助医療への応用」を特別講演。顕微授精 法 (ハムスターテスト)で,通常の受精法より優れている精子囲卵腔内に注入する方法を確立したことを 報 告。臨床応用への可能性を示唆するとともに,「生殖補助医療技術が定着し,従来不可能であった不妊 症 の治療に貢献している。急速冷凍保存法の開発・普及によりさらにこの分野は発展するだろうが,受精 機 能のより詳細な解明や基礎的研究をもとに,倫理的な配慮をしつつ臨床応用につなげることが必要」と の見解を述べた。

婦人科癌の浸潤と転移

 野澤志朗氏(慶大教授),薬師寺道明氏(久留米大教授)の司会によるシンポジウム「婦人科癌の浸 潤と転移-その基礎と臨床」で,嘉村敏治氏(九大助教授)は「卵巣癌における転移能の獲得と変調の 機 序に関する研究」を最初に発表。「卵巣癌の再発に抗癌剤が関与するのか。化学療法が転移能に影響す る のか」という問題に対して,抗癌剤であるシスプラチンを材料にヌードマウスによる実験の結果を報告。 「シスプラチンは再発に影響していること,遺伝子変異を惹起させることが明らかとなった」と述べ, 転 移能に影響を与えない薬剤の開発を促した。
 続いて藤本次良氏(岐阜大)は,「婦人科悪性腫瘍の浸潤・転移における内分泌関与」を口演。 「女 性生殖器の発育には性ステロイドが関与するが,転移癌にも関与するのではないか」との前提から,婦 人 科癌の浸潤・転移の内分泌関与を検討。「性ステロイドは婦人科悪性腫瘍の発生,発育に関与し,癌の 浸 潤,転移にも関与することが分子レベルで明らかとなった」と解析の結果を報告した。また,「エスト ロ ゲンは癌細胞の浸潤,血管新生に促進的に作用し,プロエストロゲンは抑制する」ことも明らかにし, 「婦人科癌の発生,発育抑制以外に,特に転移抑制にプロエストロゲン療法を考慮すべきである」との 考 えを示した。
 また,吉川史隆氏(名大)は「婦人科癌組織および細胞株におけるマトリックス分解酵素の分泌 調節 機構」の中で,「正常組織ではMMP-2(マトリックスメタロプロティナーゼ)が優位に関与し,癌で は MMP-9が優位」と報告。MMP調節機構とMMP阻害蛋白であるTIMP(tissue inhibitor of metalloproteinase) の関係について述べた。さらに小林浩氏(浜松医大)も「細胞癌の細胞外マトリックス破壊の機序とそ の制御による浸潤,転移抑制」を口演。「卵巣癌患者の予後をみた場合,癌細胞にはUTI(urinary trypsin inhibitor)と結合するレセプターがある」との見解を示し,キメラ蛋白を使った実験例を提示,転移抑制 に著効であることから遺伝子治療への応用の可能性を示した。