医学界新聞

連 載 ― American Hospital of Paris

パリ・アメリカ病院便り 第7回 パリでの情報収集と発信

木戸友幸 木戸医院(大阪)副院長,パリ・アメリカ病院(フランス)



 前回は院内でのコミュニケーションというテーマで,自らの体験と私見を述べた。今回は視点をもう 少し広げて,医学以外のことも含め,パリでいかに効率よく情報を収集するか,あるいは自らの体験を発 信するかについてこの1年間溜め込んだノウハウを公開したい。

収集 ― 新聞が一番の情報源

 世の中一般のことをじっくり知るには,やはり新聞が一番の情報源である。その中でもパリで発行さ れているインターナショナルヘラルドトリビューンは,情報が最も正確かつ普遍的である。この新聞はニュー ヨークタイムス,ワシントンポストなどのアメリカの有力紙からの転載記事とヘラルド独自の記事からなっ ている。パリ発行の新聞なのでもちろんフランスのニュースも比較的多い。それと英語なので時間の節約 にもなる。ヘラルドの他に地元紙のどれか一紙にざっと目を通せば,まず毎日の世界の動きにはついてい ける。
 テレビ,ラジオも確かにリアルタイムの情報源としてはいいのだが,あいにく夜は人との食事で出て いることが多く,あまり見聞きしていない。しかしパリでの人脈作りは筆者の仕事の1つであり,ここか ら得る情報も貴重であるので,これは悔やんでいない。たとえ短い時間でも,テレビもラジオもできるだ けニュースに接するようにしている。テレビはケーブルに加入すれば英語のものも観ることができるのだ が,フランス語の勉強のためにケーブルには加入していない。
 パリは世界で最も催し物の多い街であるが,それに通じていなければ,本人も楽しくないし,他人と の話題にもついていけない。この目的に一番かなっている情報紙が毎週水曜日発行のオフィシアル・デ・ スペクタークルである。その週のパリの催し物のすべてが項目別に網羅されている。目的なしにパラパラ めくっていても十分楽しいのだが,案外そんな時に,これはと思う催し物を発見したりすることがある。
 海外に在住していると,日本の情報に意識的に接する必要が出てくる。パリでも朝日,読売,日経が 衛星版で同日の新聞を出していて,宅配もあるし,主要な地下鉄駅の売店にも置いてある。しかし,これ らの印刷メディアよりもっと便利なのがインターネットの新聞ホームページである。現在,毎日と朝日が 無料でアクセスできる。見出しと簡単な補足説明のみだが,朝の出勤前にざっと目を通すにはむしろこの 方が便利である。毎日にはスポニチまで付録でついていて,夜のゆっくりした時間にはスポーツニュース や芸能ニュースなどを覗くのも楽しい。また最近重宝しているのが,患者がおみやげに持ってきてくれる 日本の週刊誌である。患者の中に何人か日仏間を定期的に飛んでいるスチュワーデスがいて,機内で使用 済みの週刊誌を持ってきてくれるのである。

発信 ― 非常に多い副産物

 さて,情報発信のほうは,現在書いているこの連載そのものが筆者の一番詳細なパリからの発信であ る。この他にも医学書院の月刊誌「JIM」に「パリ・アメリカ病院の総合診療」を,また新企画出版社の 「公衆衛生情報」にはエッセイを連載している。連載以外にも外務省や厚生省の外郭団体の広報誌に執筆 を依頼されることがあるが,これらもできるかぎり断らないでいる。
 なぜここまで執筆にこだわるかは,筆者の十数年前のニューヨークでのレジデント時代の体験に基づ いている。その当時は今回とは比較にならないくらい医業で忙しい生活を送っていたのだが,ひょんなこ とでいくつかの出版社からレジデント体験談の連載を依頼された。当時は執筆自体も初体験であったし, ワープロなどという便利な器械もなかったので,かなり苦しんで連載をまっとうしたが,反響はかなりの ものがあった。周りへの反響以上に,生活を公表することによって怠惰な自分にけじめをつけたり,また 書きながら考えることでよりよいアイデアが生まれるといった,自らに戻ってくる副産物が非常に多いこ とがわかった。
 その時から現在まで,何か新しいことをするときには必ず文章で公表することを習慣づけている。湾 岸危機時の派遣医療隊の時も,国際看護団体の機関紙が体験談を依頼してきて,もちろん引き受けた。あ の時はいろいろ微妙な問題がたくさんあって,執筆を依頼された人物の大半が執筆を断ったとその特集記 事の中に載っていたのを覚えている。
 現在執筆中の連載物に関しては,終了までの内容の目処はほぼたっているので問題はまったくない。 今計画しているのは,こちらでの詳細な診療データをもとにして,family practice(家庭医療)の海外での 一形態として英文で発表するというものである。これに最も適当な投稿先と考えているのが,Journal of the American Board of Family PracticeのFamily Practice World Perspectiveという投稿カテゴリーである。
 最後に今回のテーマに関連して,1つ提案がある。情報は一方通行より相互通行がよいに決まってい る。それには現在E―mailという最適の手段がある。筆者のパリでのE―mail adressは kido@club.ntt.fr である。 読者の方のご意見を送っていただければありがたい。もちろん日本語で送っていただいてまったく問題は ない。