医学界新聞

連載第2回 ― 受験準備から合格まで

USMLEを受験して

荻野周史 ペンシルベニア医科大学附属Allegheny General Hospitalレジデント


Step2は日常診療が準備

 USMLEのStep2全般にわたって言えることは,日常の診療や実習そのものが準備であるということで す。普段から疾患に遭遇するたびに,どのような病態なのか,なぜその治療をするのかを考えてください。 それは何科を回っていようと変わらぬ真実であると思います。
 また本番では驚くほど症例問題が多いので,普段から症例問題を中心に解くようにしてもよいかもし れません。私にとっては症例問題のほうが問題意識を喚起するという面でもよかったように思います。最 近は症例問題といっても単に疾患名を答えるのではなく,ひとヒネリしてあるのが普通なので,その点で も一般問題のような要素も持ち合わせているのです。
 全科の問題集として私は,Appleton & Lange社の問題集を使いました。各科別のシリーズとしては NMSやPretestがあります。

科目別の対策

(1) 精神科学
 アメリカではメジャー科目の1つです。しかしあまり時間のない人は,総論と主要な疾患だけ(例え ば分裂病,そううつ病,人格障害)を押さえて,わからない問題はすぐに捨てるつもりで,他の科目に時 間をまわしたほうが得策かもしれません。しかしやはり,基本的な問題は落としたくないものです。参考 書としては『Psychiatry made ridiculously simple』(Madmaster)とNMSを使いました。とくに前者は,すぐ に読め,大筋を把握するのに絶好の本でした。日本の本では『チャート式精神科』(医学評論社)がよい と思います。
(2) 予防医学/公衆衛生(Preventive Medicine/Public Health)
 これも日本で勉強したことがあまり通用しません。大事なところは統計,成人病,癌などのリス クファクターでしょうか。特に統計はBehavioral Scienceのところで述べたようなことが頻出します(2186 号参照)。
(3) 産婦人科学
 特に産科は正常,異常とはどういうものかをしっかり押さえておきましょう。これはいったん理解し てしまえば,点を稼げる科目です。参考書としてはNMSと日本の教科書があればよいでしょう。NMSの 巻末にあるcase studyはたいへん勉強になります。これで足りないところはAppleton & Langeの『Current Diagnosis & Treatment series―Obstetries and Gynecology』を使いました。参考書としては『チャート式産婦 人科』(医学評論社)がよいでしょう。
(4) 4小児科学
 小児科は範囲が広く覚えることが多いわりに配点が小さいですが,勉強しないわけにはいきません。 参考書としてはNMSと『Current Diagnosis & Treatment』のシリーズを使いました。NMSの若干舌たらずで 不足のところを後者で補いました。日本の本ではやはり『チャート式小児科』(医学評論社)を使いまし た。これは全科についても言えることですが,アメリカと日本では試験によく出る疾患が若干異なるので 注意しましょう。例えば小児科では,日本では稀なcystic fibrosisは頻出です。
(5) 内科学
 アメリカで試験によく出る疾患(例えばsickle cell anemia・trait)を押さえておきましょう。参考書と してはNMSを主に使いました。巻末にあるcase studyはたいへん勉強になります。問題集としてはNMSや Pretestを使いました。
(6) 外科学
 外科は日本の国試をクリアしていればほとんど問題にならないと思います。
 麻酔科などは少し復習したほうがよいかもしれません。

USMLE本番にあたって

 以下本番で気をつけるべきことを列挙します。
(1) 同じ問題が繰り返し出ますので,それぞれに同じ答えで解答すべきです。というのは同じ問題を 出す目的というのは,解答者がその答えについて確信があるかどうかをためしている可能性があるからで す。したがって,同じ問題には「確信を持って」同じ答えを選ばないと,コンピュータにヤマ勘で答えを 出したと解釈され,点を失ってしまうでしょう。
(2) まず問題の形式を把握すべきです。私の場合Step1もStep2も2日間でA,B,C,Dと4つのパートに分 かれており,1日目はAとB,2日目はCとDを解くことになっていました。A,C,Dはほとんど同形式ですが, Bはいずれも写真が多く,Step1はhistologyやpathologyの写真,Step2はX線写真が多用されます。
(3) まず試験開始と同時に,答案用紙をみるべきです。何問あるか? 選択肢の数は? そしてまず 選択肢の多い最後のほうの問題からスタートすべきです。なぜならもしも時間が足りない場合,選択肢の 多い(つまり,ヤマ勘の当たりにくい)問題を残したくはありませんから。
(4) できるかぎり1問1分で解答するペースを守りましょう。簡単な問題は配点も高い基本的な問題で す。これらを残すのはもったいないことです。難しい問題にあまり拘泥せずに,ペースを崩さず最後まで がんばりましょう。
(5) 試験時間はたいへん長いものです。3時間15分という長丁場を乗り切るために,エネルギーが必 要です。手軽な携帯食を準備しておくに越したことはありません。
(6) これは特にStep2について言えることですが,症例問題の文章が非常に長く,じっくり読んでい ると時間がかかります。こうした場合,途中から病歴を読んで患者が結局何の疾患にかかっているのかを まず把握し,もう一度最初に返って確認しながら読むといいと思います。USMLEは日本の国試よりは素 直な問題が多いので,あまり悩まずに素早く反応して大丈夫です。日頃から,問題を解く際に,最初から 最後まで速読して一応結論を出し,後で精読して考えるなどの工夫をするのがよいでしょう。
(7) 決して後でもう一度問題を解こうと思って残さないこと。これは大量の未解決問題を残すことと なります。また解答用紙に1問題分誤ってマークして,問題番号と解答番号との間にフレームシフトが起 こってしまうと目もあてられません。必ず解答用紙に空白を残さぬよう,捨てた問題も解いた問題も1つ ひとつ順番にマークすべきです。

ECFMG English Testについて

 ECFMG English Test(以下English Test)はTOEFL(Test of English as a Foreign Language)に似ていま すが,TOEFLにあるreading sectionはありません。レベル的にTOEFLのほうが少しやさしく,基本的には TOEFLの準備をしておけば大丈夫です。結果はpassかfailしかありません。failの場合はそのEnglish Test後 に受験したTOEFLのスコアを提出すれば,English Testの代わりとして認めてくれます。そのためには少 なくともスコアとして550点必要です。ただしTOEFLで550点をとったとしてもそれで合格が保障されるわ けではありません。つまり,English TestとTOEFLの出来があまりにも違う場合は,TOEFLとEnglish Test を再評価するのです。  TOEFLをEnglish Testの代わりとして認めてもらうための手続きはInformation Bookletを参照してくだ さい。

ECFMG Certificateを得る

 ECFMG Certificateを得るには,
(1) USMLE Step1,Step2,English Testに合格する
(2) 当人が母国において医療行為を行なうことができる医師であることを証明する ことが必要条件です。

 (1)のほうは試験に受かればよいのです。(2)のほうは少し面倒です。まず医学部の卒業証書(学 位記)のコピーとその英文翻訳(医学部で発行してもらえます。翻訳にはオリジナルのサインや判が必要), 医師免許証のコピーとその英文翻訳(申請書は厚生省健康政策局医事課に問い合わせて取り寄せましょう。 これにもやはりオリジナルのサインや判が必要)と数枚の写真が必要です。
 ECFMGの事務処理は結構遅いので,早めに提出しておきましょう。これらの書類は試験の合否に関 係なく受け付けています。
 このようにしてようやくECFMG Certificateが得られますが,これはアメリカのレジデントにならない かぎり2年間の有効期間しかなく,2年以内にEnglish Test(+TOEFL)を受け直して更新しなければなり ません。またUSMLE Step1とStep2の有効期間は7年ですので,7年以内にまた受け直す必要があります。
 アメリカのレジデントになってしまえば,ECFMG Certificateはpermanentなものに切り替えることがで きます。

応募するプログラムを選ぶ

 今日では,東京海上メディカルサービスや野口医学研究所などがアメリカのレジデント・プログラム とのパイプ役として毎年数名の日本人医師の渡米に貢献しています。まず最初にこういった機関に問い合 わせて,そこに自分の求めているプログラムがあるかどうか調べてみることをお勧めします。というのは, 自分自身で応募してpositionを得るのはたいへん労力と時間を要するからです。にもかかわらず,これら の機関を通じてでは自分のめざすプログラムに入れない場合,方法は下記のように幾つか考えられます。
(1) こうしたパイプ役的機関を利用してとりあえず1年目のレジデントとして渡米し,2年目以降にプ ログラムの変更を狙う。アメリカでは1年目のpositionを外国人が得るのは難しいが,いったんアメリカの レジデントになってしまえば2年目以降の変更は意外なほどあっさりと希望のプログラムに入れることが あるそうです。
(2) 自分で希望のプログラムに直接応募する。
(3) 自分でやや希望度の低いプログラムに応募し,2年目以降の変更を狙う。

 (2)や(3)の方法ではとりあえず自分で応募しなければなりません。以下にその方法を述べます。
 まずプログラム選びですが,これには『Graduate Medical Education Directory』が役に立ちます。この本 には専門科別・病院別のレジデント・プログラムが全て網羅されています(応募先:USMLEのInformation Bookletに掲載)。
 プログラムを選ぶにあたって考慮すべき点について述べます。
 まず西海岸(カリフォルニア,オレゴン,ワシントンの3州)は外国人には入りにくい所です。特に カリフォルニアやオレゴンは特別な免許が応募の際に必要でした。詳しくはカリフォルニアやオレゴンの プログラムに資料を請求してみるとよいでしょう。また南部は人種差別が厳然と残っていて,外国人は住 みにくいといわれています。
 最も外国人医師が多く,またその受け入れに慣れているのは東海岸でしょう。とくにニューヨーク, ニュージャージー,ペンシルバニア,マサチューセッツの4州はFMG(Foreign Medical Graduates)の多い 所として有名です。中西部にもシカゴのような大都会にはプログラムも多く,FMGも多いのです。  基本的には輝かしい業績や強力なコネのない若い医師は,できるだけたくさんのプログラムに手紙を 出さなければなりません。遅くとも夏までには手紙を出して早めにApplication form等を手に入れておきま しょう。こうしたApplicationを手に入れるためには特に他の書類は必要ありませんが,ECFMG Certificate のコピーは同封しておいたほうが返事が多く来るかもしれません。返事のないプログラムはもともと外国 人には興味を持っていないのでしょうから,深追いするのはやめましょう。つまり,返事が来るかどうか は外国人医師受け入れのスクリーニングも兼ねているのです。
 いずれにせよ,手紙を数多く出せば出すほど,様々なプログラムのApplicationや情報が手に入るので, 労力を惜しまずに手紙を出しましょう。100通以上出せれば上出来だと思います。 (つづく)