医学界新聞

第1回CFS公開シンポジウム開催



 「第1回CFS(慢性疲労症候群)公開シンポジウム」が,木谷照夫会長(阪大教授,厚生省CFS 研究班班長)のもとで,さる3月8日,東京のツムラ本社において開催された。
 本紙第2179号で既報のように,厚生省研究班会議での報告は従来はセミクローズドであったが, 今回初の公開シポジウムを開催するに至った。
 会議は,木谷会長の開会の辞および「わが国における慢性疲労症候群―研究の歴史と現況」, Keiji Fukuda氏(アメリカCDC)の講演「Guidelines for evaluating and defining CFS」に続いて,「病 因」「病態/臨床像」「治療」の側面からさまざまなアプローチが試みられた。

わが国のCFS研究の歴史

 まず冒頭で木谷会長は,わが国のCFS研究の歴史を主に 「厚生省CFS研究班」の歴史に沿って概説。  今日CFSと呼ばれる疾患は,欧米では集団発生が見られたこともあって,早くから注目されていたが, わが国ではそのような事態がなく,ほとんど知られない疾患であった。しかし,1985年になってCFS類似 の症状を呈する患者の一部にNK活性の低下が見られ,これを 「NK活性低下症候群」と称したことがCFS 研究の嚆矢とされる。
 そして,1990年にCFSとしての初の症例が報告されたが,欧米でのCFSの現況がセンセーショナ ルに報道されたことによって社会的な話題ともに不安をも招来し,1991年,「CFS研究班」の発足をみ るに至り,その後は,この研究班を中心として診断基準の設定や疫学調査などが行なわれ,またウイルス 学,免疫学,末梢神経学などからの多角的な研究が進められた。

CFSの病因

 続いて,「病因」からのアプローチとして,「ウイルス」「精神/神経学的異常」「免疫異常」「内 分泌/代謝異常」の観点から報告が行なわれた。
 ウイルス感染症との関連からは,山西弘一氏(阪大)が「エンテロウイルス」「ヘルペスウイル ス」「レトロウイルス」「ボルナ病ウイルス」などを論じ,さらに「ボルナ病ウイルス」については生田 和良氏(北大)から追加発言があった。精神科との関連からは,志水彰氏(大阪外大)が94例に精神医学 的診察を施行した結果,「精神医学的異常のない群」「二次的に精神症状を示す群」「一次的に精神疾患 と考えられる群」に分かれ,その人数比は4;4;3であると示した。
 免疫異常との関連からは,松田重三氏(帝京大)が,「特定はできないが,CFSの症状をもたら す原因の1つとして,ウイルスの持続感染により,微量ながら産生されるインターフェロンが惹起するこ とが推察される」とし,松本美富士氏(名大)は「TGF‐βによる免疫抑制状態,未熟なT細胞を介した 感染防御系の障害,内因性オピオイド物質の低下による疼痛閾値の低下,NK細胞障害の結果,アレルギー 徴候の出現に結びつくことが定型的CFSの特徴と考えられる」と述べた。
 倉恒弘彦氏(阪大)は,内分泌/代謝異常の観点からCFSとの関連を検討。CFS患者ではACR (アシルカルニチン)が減少し,また減少したACRは病状の軽快時には上昇する傾向があることに着目し た倉恒氏は,ACRの分析を試みた。
 従来,ACRは長鎖脂肪酸のミトコンドリアへの輸送時における一時的な中間代謝物と考えられて きたが,詳細に検討を加えたところ,「ACRは脳や骨格筋,心筋などのさまざまな組織で利用されている 重要な生理的物質であり,細胞レベルおけるACRの減少が,各々の細胞の機能異常と結びついている可能 性もある」と述べ,さらに“痛みの科学”から“疲労の科学”への視点の変換をも示唆した。

病態/臨床像,治療

 一方,「病態/臨床像」に関して,橋本信也氏(慈恵医大)は,CFSの臨床症状をウイルス感染,膠 原病,鑑別不能型身体表現性障害(DSM‐IV),気分変調性障害(DSM‐IV)の4つのカテゴリーに大別 して,レーダーチャートにし,症状の強さを5段階に評価し,面積の和で重症度を示した。そして,この4 つの病態成分の症状の強さによって,CFS患者の臨床症状を解析することが可能であることを示唆すると ともに,精神科領域の成分の強い症例に対する慎重な診断を強調した。
 「治療」に関しては,「薬物療法」を取り上げた西海正彦氏(国立東京第二病院)は,これが困 難な理由として,二重盲検対照試験によって効果が証明された薬物がほとんどないこと,治療効果の判定 方法の未確立,良好な医師―患者関係を作ることの困難さを指摘。また,心身医学的側面からの治療を検 討した山岡昌之氏(九段坂病院)は,回復には長期間を要することから,患者の訴えを傾聴して信頼関係 を作ること,この疾患の存在を説明して,死に至る病ではなく,その予後の良好な点を保障すること,そ して,さらに大切な点として,日常生活における規則的な睡眠や食事,その状況に応じた適度な運動を奨 励した。
 多角的なアプローチが必要とされる本症の研究が,「公開シンポジウム」という形式で緒につい たことに期待したい。