医学界新聞

第18回日本生物学的精神医学会開催

分子遺伝学の最新知見を幅広く披露



 第18回日本生物学的精神医学会が,堺俊明会長(阪医大教授)のもと,さる3月27-29日の3日間 にわたり,大阪・豊中市の千里ライフサイエンスセンターにて開催された。近年,DNAクローニングによ るゲノム解析や,画像診断における解像力の飛躍的向上によって,生物学的精神医学は急速な興隆ととも に新たな展開を見せている。今回の学会でも,精神分裂病,感情障害,加齢・痴呆,アルコール関連・薬 物依存,てんかん,神経症,ストレス,疾患モデル,精神薬理などについて,解析技術の進歩による諸疾 患の病因解明と治療へのストラテジーづくりにおける最新の成果が披露された。

遺伝子座候補領域を明示

 会長講演「精神・遺伝行動学とともに-臨床遺伝学より分子遺伝学へ」では,堺会長が過去40年間の 大阪医科大学神経精神科における研究成果を総括。分子生物学の発達によってより精緻かつ実証的な研究 がなされるようになってきた,精神疾患の分子遺伝学における相関研究,連鎖研究,同胞対法などを解説 し,分裂病,感情障害,アルコール依存症,アルツハイマー病などの遺伝子座の候補領域を明示した。さ らに堺会長は,精神疾患の疾病学的分類について論じ,精神分裂病・躁鬱病・てんかんの他に,内因性精 神病としては非定型性精神病があること,神経症と分裂病における境界域,各神経症類型における家族内 変異などを指摘して,各種精神疾患が異種性のものであり,症候学的に一見類似したものであっても種々 の相違が認められることを示唆した。
 またこれに先立ち,Ming T. Tsuang氏(ハーバード大)による特別講演「Psychiatric Genetics: Epidemiologic Foundations and Molecular Genetic Advances」が行なわれた。

内因性精神病解明へのストラテジー

 初日に行なわれた,若手プレシンポジウム「精神神経疾患の分子遺伝学」(司会=阪医大 米田博氏, 帝京大 南光進一郎氏)では,基礎から臨床までの幅広い領域から,若手研究者にとって刺激に富んだレ クチャーが行なわれた。
 このなかで,「内因性精神病の分子遺伝学」について報告した康純氏(阪医大)は,まず精神薬 理学的アプローチとして,双極性感情障害とセロトニンAレセプター,またDSM―III―Rで精神分裂病と 判定された症例とセロトニン2Aレセプターにそれぞれ有意な相関が見られたことを提示した。さらに臨 床遺伝学的観察に基づくアプローチとして,内因性精神病における表現促進現象についての研究を報告。 そして最後に康氏は「さまざまなアプローチで病因遺伝子を単離する試みがあるが,未だ一定の結論は出 ていない。その一因として疾病の定義分類上の問題があり,操作的診断方法を用いても,病因に迫ろうと するにはターゲットが広がりすぎる感が否めない。しかし,十分に臨床的に検討された患者群と統制群と で相関解析を行なうことで,病気に対するリスクをわずかであっても増加させる因子を同定することがで きると考えられる」と指摘した。
 また,三木哲郎氏(阪大)は,家族性アルツハイマー病の分子遺伝学的研究を幅広い視点からレ クチャー。日本人早期発症家系研究の総括や,孤発性アルツハイマー病とAPO‐E4遺伝子との関連などが 解説され,危険要因として相関が認められたもの,否定されたものがそれぞれ提示された。
 さらに,「三塩基繰り返し配列伸長と精神神経疾患」を報告した佐野輝氏(愛媛大)は, DRPLAにおいて,配列伸長の程度が臓器や細胞別にかなり違いがあることを示したうえで「三塩基繰り 返し配列伸長との関連ということでは,まだ神経変性疾患との関連しか明らかになっていないが,表現促 進現象(世代を経るごとに発症年齢が若年化する)が,臨床症状として観察されることが相次いで報告さ れていることから,精神神経疾患についても同様のアプローチによる解明がなされるだろう」との見通し を示した。この他に,臨床から1題,基礎研究から2題の発表があった。