医学界新聞

第12回NANDA看護診断分類会議開催

看護の共通言語づくりへの模索続く



 さる4月11―15日,NANDA(北米看護診断協会)の第12回看護診断分類隔年会議が,ロイ・ホスキン ス会長(カトリック大)のもと,アメリカ東部のペンシルバニア州ピッツバーグ市で開催された。
 会場となったヒルトンホテルには,アメリカはもとより,カナダやオランダ,スペイン,フラン ス,ブラジル,韓国,台湾など計14か国から総勢270余名が参集。海外からの参加者が約1/3を占める中, 日本からは,日本看護診断学会長の松木光子氏(阪大)はじめ7名が出席し,海外からの参加者数では, オランダ,カナダに次いで3番目となった。
 今大会のテーマは,アメリカ合衆国建国の舞台となったペンシルバニア州の別称“Keystone State"にちなみ,“The Keystone to a Unified Nursing Language(看護用語の統一に向けての礎)”。11日の プレ・カンファレンスと,14日の本大会終了後から15日にかけて行なわれたポスト・カンファレンスを含 め,講演,委員会報告,小セッション,ポスターセッションなど,密度の濃い討議が繰り広げられた。

看護を包括する分類への脱皮

 会議での議論は,アメリカ国内のヘルスケア システムの中で,現存する他の分類と共働しながら看護診断から看護介入,介入結果まで有機的に関連さ せた包括的な枠組みを構築していこうという,NANDAのイニシアチブを強く感じさせるものとなった。       
 会議初日の12日,会長挨拶の後に基調講演に立ったジョアン・ディッシュ氏(ミネソタ大病院) は,ANA(アメリカ看護婦協会)内に設置された看護実践支援データベース構築に向けての委員会などに おけるNANDAの対外的な活動を紹介。統一的な看護用語体系(Unified Nursing Language System:UNLS) を基盤とした全米的なデータ収集や看護実践の科学的な評価を通して,臨床と研究とが総合的に情報をフィー ドバックしあうネットワークづくりの展望を語った。
 続いて行なわれた“Developing the Unified Nursing Language System(UNLSの開発に向けて)”と 題するセッションでは,次期会長のジュディス・ウォレン氏(ネブラスカ大メディカルセンター),現会 長のホスキンス氏,カレン・マーチン氏が登壇。口火を切ったウォレン氏は看護用語の統一について, goodという言葉の持つ幅広い意味を引き合いに,用語の多義性をまず排していく必要性を強調し,聴衆の 共感を呼んだ。
 一方,マーチン氏は,ヘルスケアコンサルタントという立場から,用語統一の方向性について見 解を発表。柱となる分類概念の下に,臨床で現在さまざまに運用されている看護用語に検討を加えつつ, 統一化を進め,最終的に行政を含めたヘルスケアシステム全体での統一用語(Uniform Language)を創造 するまでの構想を語った。そして,その鍵となる概念づくりに,在宅の分野で応用されているオマハ分類 やホームヘルスケア分類(HHCC)とともに,NANDAが果たす役割の重要性を述べた。
 また,翌13日には,NANDAとアイオワ大との共同研究の様子が紹介された。同大は,NANDA分 類とは別に,看護診断拡張分類(NDEC),看護介入分類(NIC),看護結果分類(NOC)の開発を行なっ ている。看護診断のパイオニアを自認するNANDAがこうした一連の分類に強い関心を示し,診断カテゴ リーとその内容の見直し,実地検証を含めた共同研究プロジェクトを積極的に展開していることは,看護 診断の行く末を予見させる動きの1つとして注目されよう。

看護診断をめぐる国際的な動き

 一方,国際的な看護診断の広がりをかいま見せ たのが,大会初日の12日のプログラムであった。
 午前11時から各部屋に分かれて行なわれた小セッションの1つでは,佐藤重美氏(ボストン・カ レッジ)が,日本における看護診断カテゴリーの使用頻度について,ゴードンの枠組みに基づいて調査・ 分析した結果を報告。入浴/清潔,更衣/整容,排泄,食事などのセルフケアの不足や,不安,知識不足 など,診断頻度が高い10のカテゴリーを抽出した上で,NANDA診断の妥当性検証に際しては,これらの カテゴリーを優先させるべきとの見解を述べ,文化の違いによっておのずと研究アプローチが異なってく ることを示唆した。
 同日午後には,デンマークのランディ・モーテンセン氏が招待講演を行ない,デンマークやベル ギー,フランスなどヨーロッパ15か国共同で行なわれた国際研究プロジェクト“TELENURSING "につい て紹介。これは,ICN(国際看護婦協会)が旗振り役となっている看護実践国際分類(ICNP)の一環とし て,各国で電子データ化した看護ケア記録を収集・分析し,西欧圏内共通のデータセットを開発すること を意図したもの。この研究プロジェクトを振り返る中で,氏は「用語の統一に関しては,使用言語の違い から,どうしても意味論上の問題が残る」と,診断概念の共通理解を持つことこそが,国際共同研究には 不可欠であることを指摘した。
 また,この日に限り本会場ロビーで催さ れたポスターセッションには,アメリカやイギリス,ブラジル,オランダなどからの研究発表・提言が並 び,それぞれに意匠を凝らしたプレゼンテーションに参加者が足を止めて見入っていた。なかでも,全展 示数の半数近くを占めたブラジルのポスターは,“Risk for Misery"や“High Risk for Social Marginalization"など,社会事情を色濃く反映した新診断名を提案する内容が目立ち,関心を集めた。

分類法の見直しは今なお継続中

 さて,前回の1994年大会以来,改変の動きが見られる看護診断分類法については,13日午前に分類法 委員会による報告が行なわれた。
 演壇に立ったケイ・アバント委員長は,これまでの検討経緯を説明する中で,メンタルヘルス領 域などからの新診断ラベルの増加に伴い,これまでの9パターン分類に無理が生じてきているため,新し い分類枠組みを創出する必要が出てきていることを指摘。そして,「これは結論ではなく継続審議の中間 報告」とことわった上で,Oxygenation, Elimination, Nutrition, Activity/Rest, Protection, Sensory Perception, Self Concept, Self Care, Psychosocial Adjustment, Thought Processes, Interpersonal Processesの11パターンからな る,これまでのNANDA分類法とは大きく異なる枠組みを考慮中であることを発表した。
 さらに,今後2年間の活動として,(1)Q技法を用いて理論的枠組みの妥当性を検証していくこと, (2)次回の会議までに少なくとも新分類の予備案を用意すること,(3)診断診査委員会(DRC)とのジョイ ント委員会を設置し,NIC, NOC, NDECとの共働を推進するよう,NANDA理事会に要請することなどを あげた。
 新分類法の発表が期待される第13回会議は,NANDA創設25周年を記念して,第1回開催の地セン トルイス市において,1998年4月23―26日の日程で行なわれる予定である。