医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

消化器病学の臨床にとって貴重な書

消化管粘膜下腫瘍の診断と治療 信田重光,中村恭一 著

《書 評》福田守道(札幌医大名誉教授)

急速にクローズアップされる粘膜下腫瘍の診断の重要性

 二重造影法など上腹部消化管レ線検査の進歩,特に胃集検の普及,消化器内視鏡検査の発達により消 化管の診断法は長足の進歩を遂げ,さらに超音波診断とくに超音波内視鏡,X線CT,MRIなどの画像診断 法の進歩とその応用が消化器疾患診断法を完全に一新したといって過言でない。
 消化管疾患のうちで最も重要な癌の診断がほぼ完成の域に達した現在,同じように消化管に発生する 腫瘍のうちで大きな比重を占める粘膜下腫瘍の診断の重要性が急速にクローズアップされつつある。癌や 悪性リンパ腫などと異なり,組織診断のつけにくい消化管粘膜下腫瘍の存在は,治療方針の決定にあたっ て消化器病専門医の頭痛の種であったといって過言でない。

統計的考察が主幹

 今回消化管粘膜下腫瘍をライフワークとされてきた信田名誉教授および中村教授により『消化管粘膜 下腫瘍の診断と治療』が刊行されたことはまことに時宜を得たことといえよう。
 本書の第1の特徴は,第1章・消化管粘膜下腫瘍の概念,歴史的展開と展望で信田教授が述べられてい るように,1974年から1984年までの約10年間に本邦で報告された食道から直腸にいたる全消化管の粘膜下 腫瘍の統計的考察が主幹をなしていることで,巻末に加えられた文献とともに,研究者,臨床医の格好の 参考書となっている。これに加えて病理学的な解析,新しい診断法とその評価,そして新しい手技が加え られ,さらに第一級の消化器病専門医による最近の粘膜下腫瘍の診断例が多数加えられ,up―to―dateな 内容のモノグラフとなっている。
 第2の特徴は粘膜下腫瘍の超音波内視鏡所見の呈示で,美麗なEUS像,良悪性の鑑別に関する診断基 準の試案,および超音波内視鏡所見を参考とした生検法の工夫など,新しい知見が付け加えられているこ とである。

斬新かつ広範な内容

 第3の特徴は悪性リンパ腫の知見との対比が試みられていることで,これまた実地臨床に役立つアプ ローチと考えられる。
 本書をひもとくことにより,粘膜下腫瘍のかなりの部分は筋原生腫瘍に占められるとはいえ,それ以 外に多くの疾患の存在すること,とくにその特性を正確に把握しておくことがいかに大切かを思い知らさ れる。ただ85年以降の統計的な資料もつけ加えておいていただきたかったというのは率直な感想である。 これはいわば一里塚という編者の言葉を信じ,近い将来に書き加えられると期待したい。またEUS画像の 画質のばらつきが若干気になる。多くの読者がこれらの画像を参考とされるであろうことから,いま少し 配慮をいただけたらと惜しまれる。
 専門分野のいかんを問わず,正確な診断が治療法の策定,予後の推定に密接に関連することは申すま でもない。その意味で斬新かつ広範な内容を盛った本書が,今後消化器病学の臨床に貴重な資料としての 役割を果たすであろうことは疑いの余地がない。ここに本書を内科,外科領域の臨床医,とくに消化器疾 患の研修医,消化器内視鏡検査を専門とされる医師,技師の方々に必読の書としてひろくご推薦申し上げ る次第である。
(B5・頁200 定価24,720円(税込) 医学書院刊)


広範囲の医師,技師に推めたい恰好の入門書

Computed Radiography入門 臨床医に必要な基礎知識 草野正一 編集

《書 評》船曳孝彦(藤田保衛大教授・外科学)

 臨床各科のうちでこの20年間で最も進歩の著しかったのは放射線科領域ではなかろうか。CTに始まっ たコンピュータを駆使してのデジタル画像は,それまで想像しなかったような断面をみることを可能とし てきた。
 従来のレントゲン写真で読影していた像をデジタル化し画像処理して,得ようとする所見をいかにク ローズアップさせるかというのがComputed Radiography(CR)であろう。われわれ診断にたずさわっては いても放射線科医でないものとしてはCRの画像で「成程これならよくわかる」と納得したり「オッ,こ こまでわかるぞ」と感心したりすることはあってもCRによってどのような画像を出したいのか,という よりどのような画像を生むことができるのかという知識も薄く,またその種の本をみても新しい用語や略 語にはばまれ,仲々身近なものとし得なかったのも事実である。

専門用語や略語も丹念に解説

 本書はまさにこのような要求に答えるものであり,放射線画像診断にかかわりをもつ非放射線科医と, これからの若い放射線科医,放射線技師にとっては必携の書となりうる小冊子である。また先に述べた専 門用語,略語が一々解説されているのもうれしいし,CRの長所,あるいは短所が列記されていたり,通 常の画像(film/screen:F/S写真)との比較がなされているのも非常に助かる。例えば偏位のない小さな 骨折などではF/S写真を欠かすことができないことが明記されている。
 また本書の構成が,CRの原理,基本的特徴に始まり,X線被曝量の低減,検診への応用,CRに対す る各種の要求(X線透過の広い範囲への応用,コントラスト強調,縁の強調,最適画像濃度,反転画像, サブトラクション),CRの構成機器,機能,PACS,今後の展望,と上述の対象読書が全て満足できるよ うになっている。

今後の発展への夢も広がる

 いかにして良い画像を作り出していくかについて具体的な気管狭窄の例をあげ,階調処理,ウィンドー 幅の狭小化,周波数処理の過程を経て,鮮明な画像となっていくのが説得力のあるグラフとともに解説さ れている。縁の強調の項では胃癌の広がりについて議論沸騰していた症例検討消化器カンファレンスでも この画像を出されれば鎮静化するに違いないという画像が載っている。またギプス固定後の骨の写真はF /S画像で育った世代にとっては驚きであり,さらに反転画像や,サブトラクションでは見えなかった病 変が現れてくるのをみていると今後の発展への夢が広がってくる。一方で,撮影方法,画像処理,診断時 に陥りやすい過ちについての警告も記されている。
 本書は21世紀には放射線画像の主体となるであろう,否,今すでに主体になりつつあるCRについて, 先に述べた広い範囲の医師,技師に推めうる恰好の入門書であろう。
(B5横・頁222 定価12,360円(税込) 医学書院刊) 


臨床上高頻度にみられる疾患を重点的に選ぶ

泌尿器科ベッドサイドマニュアル 秋元成太,西村泰司 編集

《書 評》小野寺昭一(慈恵医大助教授・泌尿器科学)

 臨床医学としての泌尿器科学の多様性については,改めて指摘するまでもないが,最近の泌尿器科学 における新しい画像診断法の普及や治療法の目覚ましい進歩は,結果として膨大な量の情報を生み出すこ ととなり,泌尿器科専門医をめざすものにとって,増え続ける情報をいかに整理していくかが大きな課題 となっている。一方で,第一線の泌尿器科臨床医あるいは専門医として知っておかなければならない基本 的な診察法や処置の「コツ」も数多くあり,これらの技能をいかにして覚えていくかということも重要な 問題である。
 このような,教科書や文献からだけでは会得することができない臨床医としての「ワザ」は,先輩の やり方を見よう見まねで覚えるか,あるいはマニュアル的な本を読んで身につけていくしかないが,正し い技法を学ばないと自己流に陥ってしまう危険性をはらんでいる。

困った時に本当に役立つ

 これまで,泌尿器科診療マニュアル的な本はいくつか出版されているが,研修医あるいはレジデント が白衣のポケットに入れて持ち運ぶことができ,外来の急患の処置や病棟での対応に困った時に本当に実 践的な面で役に立つマニュアルは少なかったように思える。 救急疾患や基本的処置・トラブル 対処法などで優れた記載が
 本書は,日本医大泌尿器学教室ならび関連病院で,実際に泌尿器科診療に携わっているスタッフが中 心となって,とくに,臨床上高頻度にみられる疾患を重点的に選んで,それらの診断法,治療法が実地診 療上の手引きとなるようにまとめられている診療マニュアルである。本書は,13の大項目と93にわたる小 項目に分けられてそれぞれがていねいに記載されており,ベッドサイドマニュアルとして必要とされる知 識が最近のトピックスも含めて述べられている。
 悪性腫瘍に関して言えば,すべての泌尿器科悪性腫瘍について病期分類とTNM分類が記載され,浸 潤度診断法や臨床進行度別治療法などがそのままベッドサイドで応用できるように書かれている。実際に 悪性腫瘍患者に遭遇した場合,その疾患の大まかな概念を把握し,病期診断のために必要な検査の予定を 立て,病理的な検査の結果が判明した時点で正確な病期分類を行なって予後因子を判断し,臨床進行度別 に治療計画を立てるという一連の流れが,本書を手にすることによって自然に身についていくものと思わ れる。

救急疾患や基本的処置・トラブル対処法などで優れた記載が

 本書はまた,「尿路結石」「神経因性膀胱」および「尿失禁」などの項目などにおいても実践的な治 療法がコンパクトに述べられているが,これらの項目のなかでとくに,「救急疾患」の項と「泌尿器科基 本処置とトラブル対処法」の項の記載が優れている。「救急疾患」の項では,各臓器損傷の重症度診断と その治療法が簡潔かつ適切に述べられており,「泌尿器科基本処置とトラブル対処法」の項では,カテー テル挿入困難な場合の対処法や経皮的膀胱瘻造設法,腎瘻が抜去されてしまった時の処置などがone point adviceを折り込みながら,実地診療に即して記載されている。
 本書は,いつも白衣のポケットに忍ばせておけば,診療手順のチエックやデータの判定,あるいは薬 物処方量の確認に役立たせることができ,研修医クラスはもちろんベテランのドクターにとっても利用し やすい泌尿器科診療マニュアルになり得ると確信する。
(B6変・頁368 定価5,356円(税込) 医学書院刊)


心に配慮した救急医療の実践に必携の書

救急患者の精神的ケア
Michael Blumenfield,Margot M.Schoeps著/堤 邦彦 監訳

《書 評》黒澤 尚(日本医大教授・精神医学)

 救急医療の場に収容された患者には不安,抑うつを始めとして,せん妄など種々の精神症状が認めら れる。これらの症状は発症(受傷)して収容されたことを契機に出現したり,自殺企図や自傷行為のよう に収容前から精神症状が認められることもある。また,救急医療の場で見られる精神症状は患者のみなら ず,その家族にも,治療チームにも認められる。
 わが国では1978年に日本医科大学附属病院に救命救急センターが開設されてから,現在では全国で百 数十施設が運営されている。この約20年間に救命救急センターで行なわれている身体医療は長足の進歩を 遂げ,多くの命が救われている。その一方で,精神症状への取り組みは一部の施設では精神科医が常駐し ていたり,リエゾン精神科医が回診を行なっていたりするものの,立ち後れているのが実状である。
 さて,心に配慮した医療を行なえば身体的な医療に好影響を及ぼすのは言うまでもない。そこで,心 に配慮した医療を行なおうと適当な書物を探してもその数は多くないのが実状である。このような状況下 で本書は出版されたのである。

項目建てからしてわが国の類書と比べ大きく違う

 本書は,『Psychological Care of the Burn and Trauma Patient』を,精神科医であり救命救急センターで 働く我が友人堤邦彦君が監訳したものである。本書の内容を一口に説明すれば,熱傷患者と外傷患者の精 神的な問題について症例をあげながら述べている。まず,項目を紹介しよう。
  1. 痛み
  2. 救急処置室での患者および家族に対するケア
  3. 器質性精神症候群
  4. 熱傷や外傷に対する心理的反応
  5. 心理的介入
  6. 向精神薬の使用
  7. アルコールおよび物質の乱用
  8. 肢切断と移植
  9. AIDSの影響
  10. 家族のケアとサポート
  11. 医療スタッフへのケアとサポート
 このように内容は,わが国の類書と比べればその項目建てからして大きな違いがある。まず,患者の 誰でもが苦しんでいる痛みの項が最初にあり,わが国の類書ではその記載が少ない肢切断と移植,AIDS の影響の項目があり,家族や医療スタッフへのケアとサポートまで記載されている。
 多くの項目では患者へのケアやサポートの方法だけでなく,ケーススタディとして症例をあげて具体 的に説明がなされている。したがって,救急医療の場で働く救急医,精神科医,看護婦,ソーシャルワー カーにとって,心に配慮した医療を実践しようとすれば本書は必携の書である。
(A5・頁256 定価4,635円(税込) 医学書院MYW刊)