医学界新聞

Japan Green Medical Groupのシンガポール,ロンドンでの医療活動

吉岡 保 (倉敷成人病センター・南くらしき病院院長)


10周年を機に海外活動を計画

 1970年代は徳田虎雄氏が率いる医療法人徳洲会が日本の医療界に大きな波紋を投げていました。わが 倉敷成人病センターも,開院10周年記念事業として,徳洲会の国際版をしてみないかと夢みたいなことを 考えました。
 その当時,海外での医療活動としては,外国の地に日本政府の援助で設立した病院や診療所で日 本人スタッフが一緒に働いているといった状況であり,その代表的なものが田中角栄元首相の肝煎りでで きた中国北京の中日友好病院です。
 今まで民間ベースで海外に診療所や病院を計画された数は多いのですが,実現されたものはほと んどないといった実状でした。我々もその場所は漠然とヨーロッパだとかアジアだとか考えていました。
 そうした折,1981年暮れに「インドネシアに日本の病院を建てないか」という話がインドネシア の財界人よりあったので,現地に行きました。しかし国情や法律の違いなどでジャカルタに建てることは 断念しました。

シンガポールで設立を決定

 帰国の途中,シンガポールで現地のドクターと会って医師登録のことを尋ねてみました。すると,日 本人医師でもシンガポールの医師免許がとれる可能性があるということでした。そこで予約もとらずに直 接シンガポールの厚生省に出かけて行き,病院開設や医師登録について説明を受けて帰国しました。その 後,厚生省の担当官といろいろ相談し,開院するまでの期間が約2年間かかりました。
 医師免許については,まずシンガポールより我々の出身校である岡山大学医学部への視察があり ました。次いで東京のシンガポール大使館で私たちの英会話のテストがあった後,シンガポール大学およ び国立病院で臨床家としてのアセスメントが行なわれ,レジデントと全く同じスケジュールで,外来およ び病棟で働きました。私の場合は産婦人科と外科でしたが,私は専門が産婦人科のため,外科では食道癌 や甲状腺癌,さらに腎移植などの手術記録を書くのには泣かされました。
 このときアセスメントを受けたのは,私のほか岡山出身の橋口宏先生(現Japan Green Medical Groupシンガポール院長)と東医歯大出身のローバンチャイ先生でしたが,3人とも頑張ってこのアセスメ ントにパスすることができました。アセスメント開始後1年目の1983年3月に,シンガポールで開業できる 医師免許証を受け取りました。これは日本人医師としては最初ということでした。大学病院や国立病院で 手術をしたり,一時的に働くための医師免許証はすぐに交付してくれるのですが,private sectorにおける 免許取得はむずかしいものでした。
 診療所の場所もオーチャード通りと決定 し,そこに日立のレントゲンや東芝の超音波などを入れたのち,1983年6月27日に開院することができま した。開院当時医師は3名でしたが,そのほかビルマ出身で東医歯大卒業のサオ先生が歯科を担当してく れ,すべての医師が日本の大学卒業者ということになりました。
 開院初日の患者数は24名でした。13年たった現在は,医師は現地医師を含めて5名(日本人医師3 名)で,総数40名のスタッフで診療しています。診療科目は一般外来(内科,外科,小児科)と健康診断 ドックを開設しており,歯科はやめています。
 来院する方はシンガポールのほかインドネシア,マレーシア,タイ,インドなどアジア各地に住 んでいる邦人が主ですが,のように年間4万5000人程度の人が受診していま す。夜間の救急も当直医が往診に出かけているために,一般の人のみならずシンガポール中のホテルから 日本人観光客の診療を頼まれて毎日忙しくしています。

ロンドンにも設立

 1985年よりさらに当時のEC(欧州共同体)統合に備えて日本企業の進出が増えるとの予想のもとに, 欧州にも同じようなものを設立しようとEC各国にアプローチをしました。もちろんフランスの厚生省に もアプローチはしてみました。しかしフランスの場合,話がなかなか思うように進まず「のれんに腕押し」 の感じがするのみで,時間のみが経過しました。約2年間かけましたが,パリのアメリカ病院から横槍が はいっているという噂も聞いていました。本紙医学生・研修医版に連載中の木戸友幸先生のレポートをみ て,パリのアメリカ病院も,当時日本人の医師をとりたいために我々と競いあっていたのだなと思いまし た。
 そこで我々はロンドンに進出することに決定しました。以前よりロンドンでは日本人クラブの北 診療所と南診療所に,慈恵医大から2名の先生が行かれ活躍しておられました。現在も当地で活躍してお られます。
 ロンドンでの診療所の開設もシンガポール同様多くの困難はありましたが,シンガポールの実績 が認められ1991年2月にロンドンのCityに診療所を開設することができました。開院当初,湾岸戦争が勃 発したために飛行機が飛ばず,日本からの医師を現地に送りこむのにも苦労しましたが,今年で設立から 5年が過ぎました。
 このJapan Green Medical Centreは市の中心 部にあるため,現地の日本人にとっては少し便利が悪いこともあり,1993年9月に日本人が比較的多く住 んでいる北部のアクトンの地に分院を設けました。現在日本人医師が3名おり,スタッフは総数約20名で す。主として内科,外科と健康診断をしています。海外からの日本人としてはヨーロッパ(EU)はもち ろんのことロシアや東欧諸国,さらにアフリカの各地から来ていますので,地球の半分の国に住む日本人 に我々の診療所を利用していただいていることになります。
 我々もますます頼りになる診療所にするように努力する覚悟です。

Japan Green Clinic(Singapore)
400 Orchard Road,#20―06
Orchard Towers, Singapore 0923
TEL 734―8871
FAX 733―1213

Japan Green Medical Centre(London,City)
205―207 City Road
London EC1V 1JN, United Kingdom
TEL 0171―253―2323
FAX 0171―253―5088

Japan Green Medical Centre(Acton)
Unit 7 Acton Hill Mews,
310―328 Uxbridge Road
London W3 9QN
TEL 0181―896―1424
FAX 0181―896―1332

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