医学界新聞

新しい内科学をめざして

第23回国際内科学会印象記

井形昭弘 
(国立療養所中部病院・長寿医療研究センター院長/日 本内科学会国際委員)


 第23回国際内科学会は,さる2月2日より6日までマニラの国際コンベンションセンターで盛大に開催 された。国際内科学会は46か国の内科学会が加盟して,すでに48年の歴史を持ち2年毎に総会が開催され ている。昭和59年には織田敏次会頭の下に第16回総会が京都で開催されたことをご記憶の方も多かろう。
 その後,ボゴタ,ブラッセル,ストックホルム,ブダペストなどでの総会開催を経て今回のマニ ラの開催に至ったものである。

今回の総会の特徴

 今回の総会に賭けるフィリピン内科学会の熱意はきわめて高く,外国からの参加者600名を含めて 4000名以上もの研究者が参加した一大イベントとなった。開会式にはラモス大統領自らが出席されてスピー チを行ない(写真),われわれ国際内科学会幹部との懇談の場も準備された。
 わが国からは黒川清東大教授(日本内科学会国際委員),柴田昭新潟大教授,泉孝英京大教授, 吉田純名大教授(脳外科)などのほかは30名程度の参加に留まったが,加盟国すべての参加があり,その うえ未加盟の諸国からの参加も少なくなかった。特に,このイベントがフィリピン内科学界に与えたイン パクトは極めて大きかったことは特徴の1つに挙げられよう。

学会の内容

 会議の内容は現在の内科学の持つすべての広い分野をカバーしており,世界の最先端の内科学が概観 できるものであったと言える。
 まず,「笹川―日野原レクチャー」(以前に本会の会長を務められた日野原重明先生と笹川財団 の支援による恒例の特別講演で総会の最大のイベント)ではジュネーブ大学のF.A.バルトフォーゲル教授 が,敗血症における多臓器障害について講演され,この問題を広い視野から,すべての起炎菌に共通する 病態メカニズムを論じ,内科学の統合的立場を強調された。
 このような全身に共通するメカニズムという観点は,単に各臓器単位の疾患という立場に限定す るものでなく,従来の縦割り臓器専門化に新しい統合への道が開かれつつあるとの実感を与えた。「血管 内皮機能と各疾患」や「抗フォスフォリピッド抗体症候群」も同様で,新しい研究の流れが内科の統合に 向けて大きく動き出していることを示すものであった。
 またplenary topicsとして「消化器ホルモンと臨床応用」「肝移植」「老年痴呆」「急性呼吸器障 害」などが総説的に語られ,各分野の進歩を概観することができた。
 シンポジウムでは,ウイルス肝炎,高血圧,冠動脈疾患,エイズ,脳卒中,喘息,慢性閉塞性呼 吸器感染症,骨粗鬆症,SLE,糖尿病,移植免疫,腫瘍診断マーカー,遺伝子治療,内科とサイトカイン, 骨髄移植など最先端の話題が取り上げられた。世界の権威とフィリピンの代表的研究者を含めたこれらの シンポジウムは大きな成果を上げ,全参加者に感銘を与えた。特にフィリピンの参加者には大きな刺激と なったと思われる。
 また,先進国ではやや関心が薄れているが,発展途上国になお残る問題として,結核,低栄養, 胆石なども話題を呼び,これでもフィリピンの参加者には大きなインパクトを与えた。この点も今回の学 会の特徴の1つと言えよう。
 さらには製薬メーカー主催のサテライトシンポジウムにおいても肝炎ワクチン,胃潰瘍,喘息, 結核,頭痛の治療,抗血栓療法,癌治療,敗血症,インスリン抵抗性,糖尿病性末梢神経障害などの対策 などがトピックスとなり,多数の聴衆を集めていた。同会場内には製薬会社関係の展示も盛大に行なわれ 多くの参加者があった。
 この他,ポスターセッションでは多くの話題が展示された。
 以上4日半にわたる学会は各会場とも,最後まで数多くの聴衆を集め,大きな成果をあげたといっ てよかろう。世界の頭脳を集め,自国の専門家を含めた国際討議の場を持つことは,国際学会開催の意義 を高からしめるものであるととともに,開催国の内科医ないし研究者に大きなインパクトを与えたことを 実感した。

国際内科学会の動き

 国際内科学会の行事としては理事会,国際委員会,総会が開催され,会計報告,予算案審議とともに 幾つかの事項が決定された。その結果,台湾(中国の名称は用いず)内科学会は加盟を果たし,次回総会 は1998年にはイスラエル,2000年にはメキシコ,2002年には日本で開催されることが決定された。
 また役員改選で私が本部会長(理事長に相当,任期2年)に選出された。前記のようにかつて日 野原重明先生が会長を務められた経緯があるが,東洋から会長(理事長)が選出された意義は決して低く なく,私個人の問題と言うよりわが国の内科学会が高く評価された結果であり,その責任の重さを深く自 覚している。この背景には世界の日本内科学会に対する大きな期待があり,その指導力が求められている ことを痛感している。
 今後2年間,日本内科学会の協力を得て内科学の分化と統合,最新技術導入,国際的内科教育, 各国間の研究連携などに全力を尽くしたいと決意している。

おわりに

 以上,第23回国際内科学会が大きな成果を上げて終了したこと,および現在の国際内科学会の流れを 報告した。2002年には各国からの要請を受けて本総会の日本開催が決定された。今から6年後であり,私 は第一線から退いているので,現在の日本内科学会の指導的立場の方が主導して世界の期待に応えること を含め,今後の諸先生のご理解とご支持を切にお願いして報告に代えたい。