医学界新聞

各施設の自由裁量を大幅に増やす
看護職員の養成に関するカリキュラム等改善検討会を終えて
松野かほる氏(山梨県立看護短期大学学長)に聞く



 看護教育カリキュラムと養成所の施設基準が改正され,1997年度から実施されることになった。今回の改正は1988年以来7年ぶりのもので,単位制の導入や科目の弾力化など高等教育にふさわしい教育を目指している。そこで医療関係者審議会保健婦助産婦看護婦部会長でありカリキュラム等改善検討会の座長を務めた松野かほる氏に,改正のポイントをうかがった。(報告の概要は,『看護職員の養成に関するカリキュラム等 改善検討会中間報告書(抜粋)』をご覧ください。)

21世紀に必要な看護職員の養成めざす
カリキュラム改正の経緯と目的

 一昨年(1994年)12月に「少子・高齢社会看護問題検討会」において,21世紀に向けての看護の課題として,訪問看護の進展や医療の高度化に対応できる看護職員を確保するために,看護婦等養成所の魅力を高めることの重要性が指摘されました。そこでは,養成施設,教員,実習施設などを充実させることや,施設が創意工夫をし教育を行なうこととともに,看護ニーズの変化に対応したカリキュラム内容の見直しと単位性の導入を検討することが提言されました。
 これを受けて,医療関係者審議会からの諮問で検討会が設置され,保健婦,助産婦,看護婦教育ならびに保助看の統合・一貫教育,養成所の施設・設備などが論議されたのです。
 なお,現在,准看護婦問題調査検討会で准看護婦養成のあり方についての検討が行なわれているため,准看護婦課程のカリキュラムは同検討会の報告を待つということで,今回の報告は中間報告としました。

改正にあたっての基本姿勢

 カリキュラム改正にあたっては,(1)学生の自己学習能力を高めることのできる学習体制を推進する,(2)各養成所の自由裁量が発揮できるように単位性を導入する,(3)週休2日制の導入に伴い,ゆとりをもたせたカリキュラムにするの3点を基本的な考え方として論議を進めました。
 これまでのカリキュラムは,基礎科目も専門科目も,指定規則によって科目名から時間数まで細かく規定されており,各学校に合った特色ある教育がしにくいこと,臨床看護総論と各論の重複があることなどが指摘されていたので,新カリキュラムでは,基礎科目から専門科目まで大枠を決めるにとどめることになりました。
 したがって今度のカリキュラムでは,これをどう具体化するか,各学校の力量が問われることになります。


個々の教科は定めず領域別に編成
改正の具体的内容(看護婦3年課程)

 看護婦3年課程のカリキュラムを検討するにあたっては,1991(平成2)年に発表されたカリキュラムで個々の科目の内容は論議されているので,科目の内容には触れないことにしました。これを前提に,教科目の設定ではなく,さまざまな規制をはずし,重複を避けながら大枠で教科の内容を規定し,その内容と留意点を示すことにしました。
 また教科は時間数ではなく単位制を採用しました。短大から大学に編入する場合には短大での単位が認められますが,専門学校である養成所から大学に編入する場合,カリキュラムが時間で編成されているので単位の互換性はありません。そこで将来,編入が可能になる時を想定して単位制にしたわけです。ただ国家試験の受験資格は時間で規定されているので,時間も併記しました。

基礎科目について

 これまで基礎科目は,人文科学,社会科学,自然科学,外国語,実技を含む保健体育の5教科でしたが,まず基礎科目の内容として,(1)科学的思考を高め,感性を磨き,自由で主体的な判断と行動を促すことのできる内容として「科学的思考基盤」と表現しました。この中には人文科学,社会科学,自然科学,情報科学,外国語,保健体育などが含まれ,さらに人間関係論,カウンセリングなど人間関係を幅広く理解できる内容としました。また(2)「人間と人間生活の理解」に関する内容,および国際化,情報化へ対応し得る能力の育成が可能となるような内容が盛られていることが望ましいと規定しました。

専門基礎科目

 専門基礎科目は,従来,医学概論,解剖生理学,社会福祉,精神保健など11教科からなっていたものを,(1)人体の構造と機能,(2)疾患の成り立ちと回復の促進,(3)社会保障制度と生活者の健康の3つを包含するような内容で示しました。身体的状態の観察と判断が適切にできることを目的とし,学生が理解しやすいよう,各学校,養成所で科目だてをしていただくことになります。
 「社会保障制度と生活者の健康」については,社会保障制度の概要を学ぶとともに,医療制度,福祉制度,地域保健などが地域でどのように関連しあい,健康を支えているかを,実践的な知識として活用できるよう意図しています。
 従来の精神保健の「精神」に関する内容は専門科目の精神看護学に含め,「性」については成人・老人・小児・母性の看護学に含めることにしました。なお医学概論の内容の一部は「社会保障制度と生活者の健康」の中に統合しています。

専門科目

 専門科目は,(1)基礎看護学,(2)在宅看護論,(3)成人看護学,(4)老年看護学,(5)小児看護学,(6)母性看護学,(7)精神看護学の7領域で編成されました。
 基礎看護学については,看護学概論,基礎看護技術,臨床看護総論の3教科があったわけですが,教科の枠をはずしました。基礎看護学の内容は,人間のライフサイクルにおける健康の意義,保健医療サービスにおける看護の役割について理解させ,看護行為の基礎となる知識,技術,態度を身につけさせる内容とし,施設内に限らず在宅療養者の看護も視野に入れて教育することにしました。
 基礎看護学で習得すべき内容としては,看護学概論をはじめ,問題解決技法としての看護過程,看護援助技術,健康の状態に対応した看護,調整とリーダーシップおよびマネージメント,看護研究の基礎,看護の国際協力などが含まれています。
 高齢化社会を迎える中で新たな分野として加えられた在宅看護論は,これまで講義も実習も施設中心であった看護から,地域で生活しながら療養する人,あるいは障害を持ちながら生活する人々とその家族を理解して,在宅での看護を身につけるものとしました。施設の中でも外でも力が発揮できる看護婦を養成していこうということです。ただ論議の過程では,名称を「地域看護学」とするという案もありましたが,3年課程の教育のなかではまず「在宅看護」を身につけようということになりました。
 また,精神看護学はこれまで成人看護に含まれ,専門基礎で「精神保健」を入れていましたが,精神障害者の看護も独自の位置づけが必要ということになりました。精神保健も含め,人間の心の健康を成長,発達,社会適応の面から捉え,心の健康を守る看護を身につける領域として独立したわけです。


40人学級・教員定数を8名以上に
施設基準の改正について

臨床実習から臨地実習へ

 新カリキュラムでは,従来の臨床実習を臨地実習と名称を変更しました。これは病院の実習のみならず,看護が行なわれているあらゆる場で直接患者に接する実習を行なうためです。新たに設定された専門科目7領域において学んだ理論や方法を,臨床,在宅をはじめさまざまな場で体験し,看護の実践に必要な知識,技術,態度を習得できる内容としています。
 病院以外での実習は,在宅看護論実習を含め指定規則に定める時間数の1~3割程度と定められました。
 なお在宅看護論の実習の対象者は,成人,老年,小児,母性,精神障害者のいずれでも可としました。
 学生定員に関する規定は,これまで15~50人以下であることと規定されていましたが,専修学校の設置基準に合わせ40人以下であることとしました。
 また一番論議されたのが専任教員の定数です。これまで最低4名でよかった専任教員を,40名学級で,新たなカリキュラムの7領域に各1名ずつ,それに教務主任を加えて8名が最低必要ということにしました。ただし在宅看護と精神科看護の教員確保が困難なことも予想されるので,当分の間は6名としました。
 また養成施設の校長または副校長のうち少なくとも1人は看護職で,ということも規定されました。
 学校施設には,在宅看護の領域ができたことにより,在宅看護の実習室を設置することが義務づけられました。


保健婦・看護婦,助産婦・看護婦の総合教育
統合カリキュラムの提示

 保健婦課程,助産婦課程でも同様の改正が行なわれました。
 保健婦・助産婦の教育期間は現在6か月とされていますが,現実は1年間の教育を行なっており6か月では十分な教育ができないということで,1年に修正をという意見も出ました。特に助産婦の方から1年でなければという強い意見が出されたのですが,法律の規定が6か月以上となっているという理由で従来通りとなりました。
 ただし,保健婦・助産婦教育を行なうにあたっては,現行の看護婦教育3年プラス1年の教育では効率が悪く,これを4年間通した統合教育にすれば,教育内容の重複が避けられ効率がよいし,学生も創造性豊かなゆとりある教育ができるのではないかという意見が出されました。これは4年間であっても大学ではなく養成所でということです。
 統合教育にすると4年制で看護婦・保健婦教育を統合して行なうものと,看護婦・助産婦教育を統合して行なうものの2通りができるわけです。これによって,保健婦・助産婦教育への門戸が広く解放され,また3年プラス1年だと看護学科と保健婦・助産婦学科の教員がそれぞれ必要だったのが,統合されれば教員も効率的に配置できるという利点もあります。
 これは少子高齢化社会において,魅力ある看護職員養成施設にしていくための具体策としてカリキュラムが作成されたもので,保健婦・助産婦教育にとっては大きな変革となります。
 このように今回のカリキュラム改正では,指定規則で細かく規定されていた教科目を大枠で決めることにより,各養成機関の自由裁量の部分が大幅に増えたわけです。それだけに,どのような教育を行なっていくかの力量が問われます。