医学界新聞

第10回日本助産学会開催される

助産学の体系化と発展をめざして10年



 このほど日本助産学会が創立10周年を迎え,その記念行事および第10回学術集会(会長=名市大看護短大 三井政子氏)が,さる3月16―17日,名古屋市公会堂において開催された。
 10周年記念行事では同学会理事長の近藤潤子氏(札幌医大)が「助産学の発展過程と課題」と題して記念講演。この中で近藤氏は,経験に根ざした助産業務を評価・検証すること,助産婦の事業内容を全国的に調査しアピールすることが,助産婦の必要性の強調に通じると発言。また「助産学の研究には,産婦の満足感や感想を含めた心理社会的側面と生物科学的側面を統合したアプローチが必要」と述べるなど,今後の研究の発展を期待して講演を結んだ。
 近藤氏の講演に続く招請講演「助産婦活動の新しい試み」では,イギリスのレスリー・ページ氏(テームズバレー大教授)が登壇。ページ氏は継続的ケアの推進,助産婦の地位の確立など,妊産婦中心の出産のためにイギリスで取り組まれてきた助産業務の組織改革について解説し,助産婦は助産業務の臨床的・科学的・社会的機能のバランスをとることが大切だと述べた。

助産診断の方向性を模索

 翌17日の学術集会で会長講演「助産診断を考える」を行なった三井氏は,助産診断の意義を,(1)課題の明確化,(2)ケアの客観的明示,(3)ケアの共有と理解であるとして,これがチームワークにつながり医療に貢献することになると述べた。また今後の課題としては,診断枠組みの開発と,診断基準の確立をあげ,「助産婦の自己満足にとどまることなく,対象に評価され,よいお産につなげられるものとしたい」と達成に向けた意欲を示した。 助産診断をめぐっては,シンポジウム「よりよい助産をめざして―診断のプロセス」(座長=神戸大 新道幸恵氏,聖隷クリストファー看護大 藤本栄子氏)も企画された。この中で島田啓子氏(金沢大)は,助産婦学生への授業展開を示しながら,入学当初は学生のアセスメントが問題解決思考に偏っており,観察から判断結果への道筋に論理性を欠くこと,正常事例に対する診断が苦手なことなどを指摘。菅万里子氏(神戸大附属病院)は,病院助産婦の立場から,実際の診断プロセスを分娩期に絞って紹介し,助産婦間の情報交換や医師とのチームワークの意義を重視した。
 また,開業助産婦の石塚和子氏(石塚助産院)は,助産診断とは目に見えない部分を見て先を予測することだと述べ,「助産所ではこの客観的推論(診断)なくしてケアはできない」とその重要性を強調した。

助産婦のレベル認定制度を

 この他,学会ではワークショップ「助産婦の将来像」(座長=聖路加看護大 堀内成子氏,高知女子大 岸田佐智氏)も行なわれた。まず全国助産婦教育協議会(全助協)副会長の平澤美恵子氏が,全助協での助産婦教育制度についての検討経過と内容を解説。検討中の試案では,大学卒業後に1年ないし2年の助産婦教育を位置づける考えであると述べた。また,松本八重子氏(前都立医療技術短大)は,助産婦が高い専門性を確立しているオランダの状況と,アメリカにおける助産婦の質の確保のためのシステムを紹介し,聴衆の参考とした。
 さらに日本助産学会「将来の助産婦のあり方検討委員会」委員長の松岡恵氏(東医歯大)からは,同委員会で検討した「今後10年間の助産婦の達成課題」の中間報告がなされた。これは(1)実践,(2)教育,(3)研究の3領域ごとに検討されたもので,松岡氏は「学会に求められるものは助産婦業務の水準の向上と維持に関するモニタリング活動」と述べ,助産婦のレベル認定制度の検討を行なう予定であることも報告した。