医学界新聞

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内

臨床医が「基礎眼科学」に興味を持つきっかけになる

オキュラー・サイエンス 眼科臨床医のための基礎医学と実際統計学
大鹿哲郎,谷原秀信,平形明人,岡田アナベルあやめ 著

《書 評》吉田晃敏(旭川医大教授・眼科学)

 今日まで出会ったことのない,ユニークで卓越した教科書,我々眼科臨床医のために基礎医学と統計 学をわかりやすく解説した教科書がついに出版された。
 著者らが「序」で示されているように,今日はまさに「情報化時代」である。マルチメディア,イン ターネット,WWW,ウインドウズ○○……。 今,仮に1か月間目と耳を休めると,大きく変わってしま う世の中に驚くでしょう。世の中は世の中でよい。さて,我々の眼科領域は?というと,これまた日本語 の雑誌を数誌,英語の雑誌を数誌毎月読んでいないと,たちまち状況がわからなくなってしまう。自分の 興味ある分野ならまだ何とかついていけるが,その他の分野なら,かなり厳しい。そんな現在,私は「基 本的」なことでわからないことが出てきた時,どの本を読めばよいか?誰に聞いたらわかりやすく(内緒 で)教えてくれるか?と困ってしまうことが多い。おそらく,研修医の方々や,臨床医の方々も同様なこ とでお困りのことが多いことと思う。

実に素晴らしい「実際統計学」

 本書を初めて読んだ時,私は「これだ!」と思った。最も進歩が速い,分子生物学・細胞生物学,免 疫学をはじめ,基礎的な生理学,薬理学,そして最近目覚ましく新しい機械が開発されている検査・ME 部門について,実にわかりやすく,最近のエッセンスをまとめて示してくれている。特に,図と漫画がと てもわかりやすい。著者と出版社の“心”が伝わってくる。さらに,最後の「実際統計学」が実に素晴ら しい。眼科領域で用いる統計学的手法がすべて網羅されており,方法の説明と例題が実にわかりやすく展 開されている。この章を一読すると,どんな時にどの統計学的手法を用いればよいかが理解でき,論文を 書く時に役立つことはもちろんのこと,眼科臨床医は自分の臨床データを解析してみようという意欲をも かき立てられるだろう。

定期的な改訂を望みたい

 研修医として眼科学を学び始めた方々へ。自分の専門分野の研究に没頭している方々へ。「日眼誌」 や「英文雑誌」から少々遠ざかった方々へ。そして,誰よりも,毎日多くの患者さんの診療に大部分の時 間を費やし「基本的な本」を読む機会のない,いわゆる眼科臨床医の方々に,ご一読をぜひお勧めしたい。 この本が,皆様方の心のどこかにきっとある,「基礎眼科学」に対するコンプレックスを,必ず解消して くれるものと確信している。そして,この本の一読を足掛かりとして,「基礎眼科学」に対する興味を持 ち続けていただきたいと熱望する。
 結びに,著者らと出版社にはこの本の定期的な改訂をぜひお願いし,我々が「情報化時代」に立 ち遅れないよう適切な刺激を与え続けていただければ幸いと思う。
 本書の出版を心からお祝いし,1人でも多くの眼科医がこの本に触れ,情報化社会の大海から溺れる ことなく救われることを心から祈念している。
(B5・頁212 定価7,931円(税込) 医学書院刊)


人間全体を見渡した医療のための貴重な本

人間ドックマニュアル  健康評価と指導のポイント(第2版)
日野原重明,田嶋基男 編集

《書 評》西 満正(癌研附属病院名誉院長)

 『人間ドックマニュアル』第2版が出版された。医学の進歩は急速であり日々新たになっているので, 誠に重要で喜ばしいことである。  医学の細分化,社会の高齢化が進む中で,このような人間全体を見渡した総合的な健康評価と,さら に指導のポイントも重視した本はまことに貴重である。

三大成人病について 危険因子・予防・生活指導を記述

 総論では人間ドックの歴史,現状,将来展望,あるべき姿が述べられ,危険因子の回避や運動などの 基本的な疾病予防,健康維持が述べられている。
 各論は循環器系,呼吸器系に始まり,各臓器ごとに十項目,さらに関心の高い高脂血症,糖尿病,肥 満,腫瘍マーカーなどについて,最新の進歩を取り入れ,検査方法,検査の進め方,検査法の読み方など, 丁寧に述べてある。
 とくに日本の三大成人病であるがん,心と脳の疾患には,危険因子,予防,生活指導まで適切に書か れており,他に類を見ないいい本となっている。
 執筆者はいずれも第一線で活躍しておられ信頼できる一流の方々である。いろいろな疾病の早期発見 と適正な治療がきわめて重要なことは,すべてのひとが認めるところである。そして集団検診や人間ドッ クがそのことに大いに貢献していることは,私ども専門病院の医師が日常診療の場で実感していることで ある。データの精度管理や評価の項もまことに重要である。

全人的で正確な人間ドックの重要性

 医療の原点は2つあると思う。ひとつは難治不治の病気に対する挑戦である。第二はより多くの人に 適正な診断と治療をなるべく安価で,短い期間で終わるよう,提供することである。今後ますます全人的 で正確な人間ドックの重要性は増加するであろう。
 日本人の平均寿命は戦後わずか50年余りで世界一となった。生活環境の改善もあるが,世界に類をみ ない集検やドックの全国的な普及も貢献していると思う。絶えずレベルの向上に努力して世界の模範となっ てほしい。
 日野原,田嶋両氏が力説しているように,検診やドックで異常の見落としがあってはならない。その ためのガイドラインとして必読の書であると思う。
(A5・頁432 定価6,180円(税込) 医学書院刊)


数々の独自性がある骨・関節疾患の病理学の好著

Histological Differential Diagnosis of Skeletal Lesions
Harry A. Schwamm,Carl L. Millward 著

《書 評》町並陸生(東大教授・病理学)

 米国ペンシルバニア大学医学部病理学教授,Schwamm博士と,カリフォルニア大学医学部サンフラ ンシスコ校病理学教授,Millward博士の共著により,骨病変の病理組織学的鑑別診断について記述がされ ている。
 一見してこれまでにないユニークな生検診断のための骨・関節病変の教科書であるとの印象を受ける。
 序論では骨の発生,外傷,パジェット病,代謝性骨疾患などについて豊富な図と写真で理解しやすく 記述されている。次いで1.骨病変の診療のための病理医のありかた,2.腫瘍に類似した良性反応性病変, 3.類骨形成性病変,4.多量の軟骨形成を示す病変の鑑別診断,5.線維性結合組織を形成する病変の鑑 別診断,6.骨巨細胞腫瘍,7.円形細胞病変,8.滑膜および軟部組織病変,の8項目に分けて主として骨 腫瘍の病理組織学的な鑑別診断について要領よくまとめられている。言い方を変えれば,非腫瘍性の主な 疾患については序論のところで20頁を割いて豊富にカラー写真を用いて,非脱灰標本も含めて病理組織像 の解説を行ない,次いで8項目にわたり,骨腫瘍の鑑別診断に関する記述が91頁を割いてなされ,ここで も組織像を示すカラー写真が多数提示されているということができる。
 本書のユニークな点は,日常の病理診断業務に直接役立つように配慮されていること,非腫瘍性病変 と腫瘍性病変の両方が,1つの本にまとめられていること,非腫瘍性病変は序論に通常の教科書的書き方 で要領よくまとめ,腫瘍については鑑別診断を中心に最新の考え方を取り入れ日常の病理診断業務に役立 つように8項目にまとめて記述されていること,腫瘍の発生部位に関して理解しやすいように多数の図が 用いられていること,などであると思われる。

最新の事実を簡潔にまとめる

 生検標本に関する病理組織学的診断の目的は適切な治療を行なうことであり,骨病変についてはこの ような目的のために,病理医には日常どのような心がけが必要かは,医学,医療の根源に遡る重要な事柄 である。本書では骨腫瘍の病理診断についての記述の第1章でこの問題を扱っており,これは本書が単な る骨病変の病理組織学の教科書ではないことを示している。
 骨・関節疾患の病理学の領域でも最近いくつかの新しい知見が紹介され,その病理学的診断について も進歩の跡がうかがえるが,本書はその方面の最新の事実を取り入れ簡潔にまとめた個性のある好著であ り,病理医および整形外科医にとってはぜひ座右に置きたい本であると思う。
(頁122 \15,200 Igaku-Shoin New York刊)


各章が切れ間なく有機的につながる

老健法大腸癌検診に対応するための 大腸検査法マニュアル 多田正大,長廻 紘 編集

《書 評》西沢 護(東京都がん検診センター所長)

 多田正大先生,長廻紘先生お二人の編集された『大腸検査法マニュアル』を通読させて頂いたが,ま ず感じたのがその内容の豊富さである。一般にマニュアルといえば,座右の書として持つものではなく, 初心者が通読して理解し修得すれば不必要になり,打ち棄てられるものが多い。しかし“マニュアル”を 冠してはいるが,この書の場合は事情がまったく異なる。

マニュアル本の要素を持ちながら最先端の情報まで記載

 本書は,大腸検査の技術修得というマニュアル本の要素を十分に持っていながら,他方では最先端の 情報までかなり突っ込んで書かれている。たとえば微小大腸癌や表面型とくに表面平坦(IIb)・陥凹(IIc) 病変までが解説され,粘膜切除の標本の取り扱いや,実体顕微鏡の方法,意義まで,将来の研究材料とし ても十分役立つようなところまで記載されているのである。
 最近のように医学の進歩が急速で扱われる主題も多岐に分かれてくると,基礎研究はともかく,診療 や臨床研究は1人ですべてを網羅することは難しくなってきた。もちろん,浅く広い知識をもつ一般医が 少なくなり,その必要性が再認識されはじめてはいるが,こと癌に関する限り,消化管だけとってみても すべての臓器の癌に精通することは難しい。もう少し狭めて大腸だけにしぼっても,他の症例,知識や報 告を貸りなければ一書を書くことはとうてい容易でない。
 このようなこともあってか,1人の著者で書かれたものは,どうしても片寄りがでてくるきらいがあ る。一方,多人数の執筆者による出版が最近の傾向ではあるが,執筆者が多くなると書物に一貫した思想 が現れてこない場合が多々ある。そういう矛盾・問題を本書は見事に解決し,その手本をみせてくれた。
 これは評者が考えてみるに,本書各執筆者は大腸癌を救命し,死亡率を少しでも減少させることに目 標をおき,そのための必要項目を余すところなく記載しているからである。

つかみにくい感覚も言葉巧みに表現

 疫学,統計から始まって,集団検診のための問題点,大腸癌患者の愁訴,免疫学的便潜血検査の意義, 精密検査としての直腸指診から注腸X線検査,signoidscopy,colonoscopy,さらにポリペクトミー,内視鏡 的粘膜切除,それに病理組織標本の扱い方までの方法論と意義が,一貫した目的をもって書かれており, 各章とも単なる自己主張ではなく,切れ間なく各章が有機的につなげられているのである。多田・長廻両 先生の編集者としての力量を感ぜずにはおられない。
 なかでも,これなくしては大腸集検は成り立たないと思われる免疫学的便潜血検査の詳細な方法論だ けでなく,その利点と欠点や問題点の記載がなされている。また,最終的な診断方法として,今後ますま す必要性が高まってくるColonoscopyに対する異なった方法論を介しての修得方法など内容が公平で深い。 これらは本書の随所にみられる特徴の一部をあげたにすぎないが,相当の経験者が読んでも,なるほどと 思わせるほどきめが細かいのである。
 とくに実技については,実際にベテランについて研修してみなければ,本を読んでも分からないこと, つかめない感覚があるのが形態学の診断である。本書は,そのあたりを言葉巧みに表現していることに感 心させられる。
 その意味で本書は,初心者はもちろんのこと,かなりの経験者にとっても,手もとにおいてしばしば 参考にすることができる最近にみられない好著である。老人保健法によるよらないにかかかわらず,大腸 癌による死亡者数を減少させ,Quality of Lifeまで意識して構成・執筆されている編者・執筆者の真意に感 心した読者の1人として,広く本書を推薦したい。
(B5・頁200 定価7,725円(税込) 医学書院刊)


標準的知識をバランスよく盛り込む

臨床検査技術学5 病理学・病理組織細胞学 菅野剛史,松田信義 編集

《書 評》坂本穆彦(東大助教授・病理学)

 従来より定評のあった『新臨床検査技術講座』が,時代の要請に応じるかたちで全体構成のリフレッ シュがなされ,このたび『臨床検査技術学』シリーズとして装いも新たに登場した。まことに時宜を得た 対応であり,この動きの中で病理学の部門は「病理学・病理組織細胞学」として再出発されたわけである。

病理検査を学習する者にとってきわめて適切な教科書

 本書の構成は,I・病理学,II・病理組織細胞学と大きく2つの部分に分かれている。前半では学問と しての病理学が主として患者の病気を軸に概説されている。後半は病理検査業務の内容についての記述で ある。
 各々について見てみると,まずI・病理学では広範囲にわたる病理学的知見が,総論,各論ごとに要 領よくまとめられている。理解を助けるための写真・表も多数用いられている。
 II・病理組織細胞学では主として組織診,細胞診につき,各々の検査の意義,標本作製法などが病理 検査の現場の実状にあわせ過不足なく解説されている。このほか,病理解剖や標本・記録の整理と保管に ついてもそれぞれに章を設けて,意義や具体的内容についての解説が加えられている。
 全巻を通覧すると,病理検査部門を担当する技師に要請されている標準的知識がバランスよく盛りこ まれており,病理検査について学習する者にとってはきわめて適切な教科書といえる。
 このように,本書は教科書として十分な内容をもつものであることを前提にしたうえで,さらに配慮 を加えればよりよい書となるであろうと思われる点について,以下に述べてみたい。
 その1つは,病理検査業務における臨床検査技師の果たすべき役割について,その守備範囲を,でき れば1章を設けてまとめていただければと思う。技師の役割については分散して述べられているが,全体 像が明確にできないうらみが残る。また病理関連の資格としては,学会認定の細胞検査士があり(他の科 目ですでに教えられているかもしれないが),これについてもふれてほしかった。

病名表記にどの分類法を用いるか

 第2は病名の表記についてである。とくに腫瘍性病変については各学会刊行の「癌(腫瘍)取扱い規 約」があるが,本書ではこれに基づく場合と異なる病名を用いている場合とがある。病名表記にいかなる 分類法を適用するかは,著者の病理学そのものにかかわるものであるが,本書の記述からはその基準が伝 わりにくい。胃や肺や乳腺は「規約」に沿っているが,例えば唾液腺(monomorphous adenoma:単一型腺 腫)や甲状腺(乳頭状腺癌,濾胞状腺癌)では「規約」による表記は採用されていない。
 お2人の著者は高名な病理医であるだけに,技師の目の位置に意を注がれたとは思うが,やはり医師 の立場が残ってしまったのかもしれない。カリキュラムを多少逸脱することがあっても,今後の改訂時に 上記のような点を考慮されるなら,本書の評価はますます高いものとなろう。
(B5・頁272 定価5,665円(税込) 医学書院刊)