医学界新聞

第4回総合診療研究会開催

総合診療の定着に向けて模索が続く



 第4回総合診療研究会が,五十嵐正紘会長(自治医大教授)のもと,さる2月24 - 25日,自治医科大学地域医療研究センターにて開催された。これまで各病院,各個人の努力に任されていた総合診療の全国的な組織化をめざし1993年に発足した総合診療研究会。その後も「総合診療部(科)」を設置する施設は増加しつつあり,また近年の卒後研修義務化をめぐる議論でも,総合診療部(科)が持ちうる卒後臨床研修における可能性の大きさにも注目が集まっているのは周知の通りである。さらには疾病構造の変化や医療費増大といった医療を取りまく社会状況の変化からも,総合診療にかかる期待は大きい。しかし,現在でも大学医学部は専門講座が主流であり,その中で総合診療部(科)が臨床,研究,教育といったそれぞれの場面で,その独自性と必要性を十分アピールできるようになるまでにはまだ数多くの課題が残されている。本号では今回の研究会の概要を報告する。


これから総合診療を担う若手医師たちへのメッセージ

 冒頭に基調講演を行なった会長の五十嵐氏は,「今はまだ会員が200名あまりの小さな研究会だが,将来的には人数も多く質も高いという学会に育てていきたい。そのためには若い方々がこの会を盛り立てていくことがいちばん重要だと思っている」と,会場を埋めた将来の総合診療を担う若手医師たちに呼びかけた。
 引き続き五十嵐氏は,総合診療に取り組むにあたっての発想法や研究の方向性などを示唆。また,総合診療というものをある程度確立するまでは「はじめは異端者であり,長い時間かけて黙々と掘り下げていかなくてはならない」と,その地道な作業のためのさまざまな発想のヒントを提示し,「この研究会に最も重要なことは“創造性"である。質の高い研究を行なうとともに,自らの頭で考えるために,稚拙さを恐れず積極的に討論をするように心がけなければならない。そこでは結論を出すことにこだわらず,方法論について論じてほしい」と述べた。さらに五十嵐氏は,教育する側の多くがいわば専門医からの「転向組」であるこの領域では,学習者自身も教育システムの形成に参加する必要があると訴えた。

総合診療を学ぶ側,教える側がお互いの考えをぶつけ合う

 総合診療研究会は,多くの若手医師が参加するほか,活発な議論を行なう土台として工夫を凝らしたワークショップが行なわれるのが特徴。今回の研究会でも,シンポジウム「教えられる側と教える側,何が問題か」に先立ち,総合診療を学ぶ側(若手)と教えている側(ベテラン)が別々にワークショップを行ない,そこで出た意見を持ち寄ってシンポジウムでぶつけ合った。
 50人を超える参加者があった学ぶ側(若手)のワークショップでは,7~8名のグループごとでのディスカッションが行なわれた。議題は,総合医療研修のカリキュラムと指導者,研修場所,技術研修,総合診療をめざす自らの将来になどついてで,研修にあたっての明確な目標づくりや,ローテーションにおける,総合診療をめざす者としてのアイデンティティの保持などについて積極的な声が出ていた。また,自らの将来については,期待も不安も同じだけあることがうかがえた。

「指導医教育 」が重要

 一方,約80名が参加した教える側(ベテラン)のワークショップは,福井次矢氏(京大教授・総合診療部)を司会にフロア全体で討議を行なった。
 こちらでは,はじめに総合診療部(科)設立にあたっての問題点から始まり,今後導入を予定している施設からの参加者に対し,天理よろづ相談所病院や佐賀医大など,早くから総合診療を導入している施設からこれまでの経緯が解説された。しかし,現状では教育スタッフはとりあえず専門医の寄せ集めにならざるを得ないことから,総合診療の独自性を確保するためにも,「指導医教育」のしっかりとしたプログラムが必要であることや,現在の日本の医療の中での総合診療の必要性をきちんと認識している人間をスタッフとして迎えなくてはいけないとのコメントがあった。
 また,司会の福井氏からは総合診療に必要な臨床能力として,(1)知識,(2)態度,(3)技能,(4)情報収集能力,(5)総合的判断力があげられ,特に(2)の態度については「総合診療の根幹に関わるものであり,かつ研修の初期段階でしか身につかない」ものであることから,総合診療に必要な素養のある教育者による指導が不可欠であることが指摘された。そのほか,問診と診察を的確に行なえるようにすること,これまでの医学教育に欠けている医療経済や医療倫理,福祉,在宅医療といった領域,あるいは臨床疫学を含めた方法論などを積極的に導入して,教育内容を豊富にしていく努力が必要であるとの意見も出された。

教育システムに「外来診療 」は組み込めるか

 その後のシンポジウムではそれぞれのワークショップの概要が紹介された後,外来診療を総合診療教育に組み込む必要性とその是非について,フロア内で活発な意見交換がなされた。また,若手側からの「教える目標がはっきりしていない」という指摘に対しては,総合診療の基本理念を確立しつつも,統一したものを作るのではなく,各々の施設での特色を出していくべきとの意見が出た。さらに,総合診療を研修したことへの認定制度が必要であるとの見解に対しても,現状では内科をベースとした資格を取るようにすればよく,むしろ指導医の認定制度の方が重要であるとの指摘があった。また最後に五十嵐氏が,「教える側,教わる側双方が手を携えて,実体のある研修・教育システムを作るために研鑽していってほしい」とコメントした。