医学界新聞

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


からだを通して学ぶ新しいアプローチ

感性を育てる看護教育とニューカウンセリング 藤岡完治 編集

《書 評》田島香代子(聖マリアンナ医大横浜市西部病院看護部長)

 看護婦自身が患者になってしまった時,はじめて患者の立場がよく分かり,看護が本当に理解 できると言われています。しかし,患者体験を勧めるわけにもいかず,どうしたら患者の気持ちが分かり, 人に優しくなれる感性を育てていくか,これは看護界にとって長い間の大きな課題だったように思います。
 ここにその課題に大きな示唆が得られる1冊を紹介したいと思います。
 表題の「ニューカウンセリング」という言葉になじみにくい方もおられるでしょうが, 従来のカウンセリングは,どちらかといえばこころ(精神)への対処を重視していましたが,ニューカウ ンセリングは「からだ」を通して学ぶ人間社会への新しいアプローチなのです。
 このニューカウンセリングを,神奈川県の看護教育大学校では15年前から導入しています。ここでニュー カウンセリングを学び,それぞれの立場でリーダーになった人たちが,教育,研修にニューカウンセリン グを取り入れたその感動を,できるだけ多くの方々に伝えたいとまとめたのが本書です。

ニューカウンセリングの実習内容をサマリー

 本書は第1~9章の構成で,1,2章は「ニューカウンセリングの理論と考え方」と 「看護および教育とニューカウンセリング」で,ニューカウンセリングの考え方や実際の 展開について解説をしています。以降は,第3章「看護基礎教育におけるニューカウンセリングの 展開」,第4章「専門分野の看護卒後継続教育におけるニューカウンセリングの展開」, 第5章「看護教員構成におけるニューカウンセリングの展開」,第6章「臨床実習指導者養成における ニューカウンセリングの展開」,第7章「院内教育とニューカウンセリング」,第8章「成人の学習と ニューカウンセリング」,第9章「これからの看護教育とニューカウンセリング」というように, それぞれの分野での具体的な経過を分かりやすく説明しています。
 写真や表も数多く取り入れ,より理解しやすい構成となっていますし,最後に資料として,ニューカ ウンセリングの実習内容を19項目にわたってサマリーされているのが実用的です。
 例えば,「自分のからだを感じてみる」では,ねらいは「呼吸,からだの重さ,まわりの空気や, 光や,音とのかかわり,床やものとのかかわりなどを感じることで,生きている主体としてのからだを 内側から探究してみる」とあります。また,「看護をし,看護をされること,看護婦と患者との関係」は, 「人間としてお互いに信じ合い,ゆだね,ゆだねられる関係」としており,心地よい人間関係が 生じてくるものと思います。同様に教育をし,教育される関係もよい関係があってこそよい成果が 期待できるものです。

リーダーにこそ必要な感性を養える

 看護婦を長い間していると,どうしても一方的になりやすく,自己満足でよしとしてしまいがちです。 私自身も,疲れていてもひと休みする方法さえ思いつかずに過ぎてきてしまいました。そんなあわただし い日々のなかで,コミュニケーションのニューカウンセリングの方法論に出会いました。
 私自身もそうですが,ニューカウンセリングがめざしている,人を信じ,人や自然にわが身をゆだね, 静かに目をつむって,時の流れを感じる体験など,そんなに日常的にできることではありません。わが感 性を改めてかみしめてみることが,今のリーダーに必要なことだと思います。
 ニューカウンセリングを学んでみて,周囲に支えられて立っている自分をしみじみ感じる近頃です。  多くの学校や病院での教育,研修プログラムにニューカウンセリングを導入することをお勧めします。 本書の主題ともいえる人間の息吹を再認識することで,明日へのエネルギーとなることでしょう。
(A5・頁226定宴\2,884円(税込) 医学書院刊)


医療に携わる者すべてに指針を与える

今日の治療指針 1996年版 私はこう治療している
日野原重明,阿部正和 監修/稲垣義明,多賀須幸男,尾形悦郎 総編集

《書 評》松本恵(千葉労災病院内科婦長)

 『今日の治療指針』は,臨床の場で活躍している定評ある最新治療年鑑だが,本書が 1959年から休むことなく発行されてきたと知り,改めて医療界に対する貢献の深さを感じた。
 医療の高度化や疾病の多様化により,私たち看護婦にも今まで以上により高度で幅広い知識が要求さ れてきている。初めて本書に触れたのは15年くらい前になるが,その間も医療の目覚ましい進歩に伴い, 行なわれる治療もかなり変化してきている。その点から見ても,本書には毎年必要な情報が追加され,常 に最新の情報が盛り込まれているので,私たち看護婦にとっても非常にありがたい書であるといえる。
 また,臨床の場では時間の制約もあり,不明な点を調べようにもあまり時間を費やすことはできない のが現状である。そのような時,本書では各科の疾患の病態や治療方針,治療に使用される薬剤の量,使 用方法,副作用,さらには看護上の注意にまで及ぶ内容が簡潔にまとめてある上に,必要な項目が見つけ やすいような工夫がしてあり,細部にまでわたる気遣いをとても嬉しく思う。多くの医師が常に本書を手 にし,頼りにしている意味がとてもよく理解できる。
 夜勤などの,看護婦が少ない時間帯では,救急患者の処置等の対応に追われ,医師と十分にコンタク トが取れない場合がある。また医師の指示どおりに動くことができても,医師が何を考えて治療を行なっ ているのかを把握することが困難な場合もある。若い看護婦ならなおさらである。
 そのような時でも,ちょっとした時間を見つけ,救急医療,治療手技の項目を開くことにより,なぜ その処置,治療が行なわれたか,また検査数値の意味することが理解でき,医師の治療方針を知ることに より,患者の状態をより正確に把握することができる。そのためにも,本書は本棚に入れておく書ではな く,常に手元に置きたい1冊である。
 また最近の癌化学療法の進歩も目覚ましく,使用される薬剤も多種多様となっている。私たちは患者 から薬効や副作用,そして治療期間等の質問を受けることも少なくない。そのようなことも予期し,本書 で得た基礎知識を基にあらかじめ医師と話し合いをもち,患者に余計な不安を与えないように努めている。

日常生活指導や患者教育のポイントも有用

 一方,高齢化の進展とともに成人病などの慢性疾患をもつ患者,さらに寝たきり老人や痴呆老人など, 介護を必要とする患者も増加している。当院でも訪問看護室を設立したり,看護職員の資質の向上を図る ために各種研修会に参加したりと,看護サービスの拡充を図っている。患者のセルフケア能力を高めるた めに教育的な関わりをもつ時にも,本書の日常生活指導,患者教育のポイントは非常に役立つものであり, 退院指導マニュアル作成や指導のあり方を検討する時に利用している。
 看護教育ではカリキュラムの改正が検討され,また日本看護協会の専門看護師・認定看護師制度の確 立等,看護界も大きく変化しようとしている時期である。看護の専門性を高めるためにも,患者の病態の 把握や治療方針の把握は必要不可欠であり,その手助けとなる本書の存在は,とても重要といえる。時代 のトピックスとなる疾患,事件も取り上げられていて,新しい知識を学べる点もありがたい。
 医療に携わる者すべてに指針を与えていくものと期待する。
(デスク版:B5・頁1460定宴\18,540円(税込), ポケット版:B6・頁1460定宴\14,420円(税込) 医学書院刊)